|
議 論
CsMP 上の10回のスキャンで得られた U 同位体比は、CsMP 中の U 濃度が低い(ppm レベル)ため、OTZ3 では約 0.0050、KOI2 では約 0.0030 と大きな差を示した。 加えて、この分析は、CsMP 集合体の凹凸のある表面を研磨せずに行なったため、 U 濃度の高い標準試料 SRM610 の分析ほどには正確ではない。 同位体分別の効果は、(質量数の大きな重元素であるため)これらの CsMP の形成時において無視できるほど小さいはずである。 同位体比の大きな偏差があっても、OTZ3 および KOI2 の 235U/238U 比は、天然 U の同位体比が 0.00729 であるのに対し、0.029584 および0.029341 とかなり高い。 予想通り、この同位体比は 235U に濃縮された典型的な核燃料のそれに近い。
138Ba は核分裂起源か天然起源かのどちらかである。天然の136Ba/138Ba 比 0.1095 は、ORIGENコードを用いて一号機、ニ号機、三号機について推定された核分裂起源の 136Ba/138Ba 比である約 0.0126 より大きい。核分裂起源のこの値は燃焼度によって大きく異なり、10 MWd/kgU で 0.004、 20MWd/kgU で 0.011、30MWd/kgU で 0.014 である。 試料 OTZ3、KOI2、および OMR1 の 136Ba/138Ba 比は、それぞれ 0.1523、0.1638、および 0.4293 であった。これらの値は、核分裂起源 Ba のものよりはるかに高い。 この136Ba/138Ba 比は、低収量の核分裂生成物の寄与を示しているのだろう。揮発した Ba の量によっては (相対的に)136Cs(半減期 13.16 日)がかなりの量比になり得るからだ。核分裂起源の Ba は Cs より多いが、Cs はメルトダウン中に Ba よりも揮発し易く、CsMP は Ba に比べて Cs を選択的に取り込むことができる。 136Ba は 136Cs(半減期〜13 日)の崩壊生成物であるため、136Ba は Cs 種の形態で取り込まれた可能性が高く、(それが壊変して)136Ba/138Ba 比が高くなった。一方、SIMS によって決定された 134(Cs + Ba)/138Ba は、天然の 134Ba/138Ba 比である 0.03371 および核分裂起源 Ba の比である 0.0373〜0.0566 よりはるかに高い 35〜138 となっている。
この部分は重要で、これらの粒子がメルトダウンの最中かその直後に形成されたことの決定的証拠である。これは、安定同位体の同位体比異常から初期太陽系星雲中での微惑星形成期における消滅核種の研究などにおいて馴染みの議論に似ている。
ORIGEN コードを用いた計算から、核分裂起源 134Cs の初期量は 134Ba とほぼ同じでなければならない。 従って、高い134(Cs + Ba)/138Ba 比は、おそらく Cs の揮発性が高いことに加えて、Ba と比較して CsMP に取り込まれる Cs の量が多いためであろう。 したがって、CsMP に最初に取り込まれた天然および核分裂起源の Ba 同位体は無視できるほど小さかったと考えられる。 むしろ、134Ba および 137Ba は Cs 同位体由来の放射起源のものである。 2011年3月12日15時36分の 134Cs/137Cs(γ)同位体比は約 0.073 であり、CsMP 中の 134Ba および 137Ba に対応する 134Cs および 137Cs の(放射壊変に伴う)減衰の計算に基づいて、2つの同位体比、134Cs/放射性134Ba (γ)と137Cs/放射性137Ba(γ)は、SIMS 分析の時点でそれぞれ〜0.19と〜7.47であった(表2)。
揮発した Ba の量はごくわずかで CsMPs の Ba は大部分が放射起源であり、また、133Cs は安定同位体であり、135Cs は 230 万年という長い半減期を有するので、SIMS 測定による 135Cs/133Cs 比は初期同位体比を表す。以前の ORIGEN 計算では、一号機、二号機、三号機でそれぞれ 0.388、0.344、0.353 と報告されており、この値は今回の SIMS による分析結果(OTZ3、KOI2、OMR1 についてそれぞれ 0.39、0.33、0.38)に近い。SIMS による測定値から計算された同位体比 135Cs/137(Cs + 放射起源 Ba)および 137(Cs + 放射起源 Ba)/133Cs 比はそれぞれ 0.39〜0.40 および 0.92〜0.99 であり、この値は 135Cs/137Cs 比および 137Cs/133Cs 比の ORIGEN 計算による初生的な値(一号機、二号機、三号機についてそれぞれ、0.40 と 0.98、0.34 と 1.01、0.35 と 1.01)とほぼ同じである。さらに、135Cs/137(Cs + 放射起源 Ba)は、TIMS を用いて以前に分析したバルク土壌サンプルの 135Cs/137Cs 比に匹敵する 0.36〜0.38 である。 137Cs/放射起源137Ba 比が高いため、質量数137の核種の大部分は 137Cs に由来し、137Ba の二次イオン化効率は最小限に抑えられているに違いない。
質量分析計での測定においては元素毎のイオン化効率の違いが常に問題になるが、補正係数の算出については技術的なことなので省略する。
(SIMSによる)Rb 同位体比 87Rb/85Rb は 2.2〜2.4 であり、天然の 87Rb/85Rb 比(0.3856)よりも明らかに高く、Rb 同位体が核分裂起源であることを示している。 ORIGEN によって計算された 87Rb/85Rb 比(〜1.7)と比較しても、SIMS による 87Rb/85Rb 比は高い。それにもかかわらず、我々の OrigenArp の計算では、SIMS による 87Rb/85Rb 比に近い 2.5と2.7 の間の値が得られた。 この違いは、天然同位体との混合は 87Rb/85Rb 比を低下させるので、むしろ Rb の局所的な揮発によるものと考えた方が良い。
OTZ10 と OTZ3-1 の低 Cs 領域のナノスケールの組織観察から、フランクリン石ナノ粒子が SiO2 ガラス基質中に含まれていることがわかった。これらの組織とフランクリン石に Cs が含まれていることは、以前の研究でも報告されており、多段階の形成プロセスを示唆する:すなわち、メルトダウン中に放射性 Cs が放出されてナノ粒子が形成され、ミスト中に液滴として存在していた。引き続き、圧力容器の破損で形成された無数のZn-Fe酸化物(フランクリン石)のナノ粒子に含水 Cs が吸着された。続いて、溶融燃料は圧力容器を突き破り、コンクリートの台座に達して 2000 K を超える SiO ガスを発生さた。このプロセスはコア ー コンクリート反応(MCCI)として知られており、直後に SiO2 はZn-Fe酸化物ナノ粒子を覆って凝縮し、 また核分裂起源核種のナノ粒子を取り込んだ。先行研究で示されていたように、CsMP 形成前に生成したフランクリン石ナノ粒子に低濃度の U(約1wt%)が認められる。また、フランクリン石ナノ粒子への U の吸着は、おそらく酸化物 UO2 燃料の揮発によって起こる。実際、UO2ペレットは、H2O:H2比によっては酸化され得る。
UO2のウランの価数は四価であるが、より酸化的な環境では六価のUO3になり、天然ではその1:2の混合物であるU3O8の形態のものが多い。
一般に U は不揮発性元素とみなされている。しかしながら、部分的に酸化された形態の UO2+X は〜30 K/分の昇温率で 1,900 K になると約10%まで揮発し、一方で、酸化されていない形態の UO2 は 2,700 K でも揮発しない。苛酷事故時のミクロンスケールエアロゾルへの U の含有は、いくつかの実験的研究においても認識されていた。 CsMP 内の U の化学形態は、OTZ10 およびこれと同じ土壌サンプルから分離された他の CsMP も同様に同定されている。同じ土壌試料中に見出された別の CsMP である OTZ3 の U 同位体比が決定された。 二つの CsMP から得られた 235U/238U 比は〜0.030 であり、当初は原子炉圧力容器を囲む断熱材に微量の(天然の同位体比を持つ)U が含まれていることから天然由来と考えられていたが、この考えは正しくないことを示している。むしろ、CsMPs 中の U は核燃料起源と考えたが良い。
福一の稼働前の未使用燃料の初生的な U 同位体比は 0.038919(3.9%濃縮)であった。 ORIGENコードを用いた計算によると、一、二、三号機における中性子照射を受けた燃料の U の同位体比は、それぞれ 0.0172、0.0193 および 0.019219 であった。従って、U 同位体比は、使用済み燃料についての計算値と未使用燃料における値の間になる。 ORIGENコードで計算された同位体比は、全燃料集合体の平均燃焼度に基づいている。 235U/238U 比の実測値が未使用燃料と使用済み燃料の中間の値を示すのは、原子炉内で燃焼度と温度が均質でないからである。燃料集合体は、炉心内の装荷位置によって異なる温度を経験する。 一つのペレット内であっても、温度勾配がある。ペレットの中心は約 1,973 K まで加熱され得るが、周辺部の温度は約 673 K に過ぎない。さらに、一つのペレット内の燃焼度は一様ではなく、中心部で低く、縁で高い。燃料集合体の燃焼度は、訳あって異なる燃焼度の燃料棒から組み立てられるので、均一ではない。従って、比較的低い燃焼度を有する燃料棒は、少量の U が揮発するような温度であった可能性があり、結果的に、両方の CsMP とも高い 235U/238U 比を持つことになった。揮発した U は、OTZ10 CsMP 中の U によって例証されるように、おそらく Zn-Fe酸化物への単純な吸着によって含まれた。
福一から放出された U の拡散については先行研究において、原発から 30 km ほど離れた水田の水と海水中で約 10^-9 の 236U/238U 比を持つと報告されている。また、約 30 km の距離で採取された黒色の粉塵サンプルでは、〜 10^-7 の 236U/238U 値が報告された。これは、原子炉内の燃料から約 150 g の少量の U が放出されたという証拠である。しかしながら、235U/238U 比を測定した別の研究では、天然の U 同位体によって希釈されていたために、それが福一起源であるかどうかの判定には至らなかった。これらの分析はすべてバルク土壌サンプルを用いて行われ、単一の CsMP からのデータは含まれなかったので、U の素性は決定されなかった。本研究では、Zn-Fe酸化物ナノ粒子が 1wt% 程度の U を含んでいるので U の素性を確実に同定し、同位体分析によって CsMP 中の U が核燃料由来であることを確認した。しかし、環境中にばらまかれた全 U の内、どれくらいが CsMP の形態であるのかについての定量的な分析はまだなされていない。
放射性 Cs の二つの異なる産状が確認された。Fe-ポルックス石(の主成分として含まれる Cs)と、ガラス質 SiO2 マトリックス中に埋め込まれたフランクリン石ナノ粒子に含まれる Cs である。後者については既に述べており、先行研究でも説明されているので、ここではふれない。一方、 この研究では Fe-ポルックス石、CsFeSi2O6・nH2O が CsMP 中に初めて同定された。メルトダウン中にポルックス石が形成されることを報告した先行研究はない。しかし最近の実験的研究では、5%の Si を含むステンレス鋼への CsOH の化学吸着でポルックス石と CsFeSiO4 が形成されることが報告されている。両方の材料は、ゲルと Cs のような適当な元素の混合物を焼き鈍しすることによって合成することができ、沸石構造を有する。化学吸着によるそれらの形成は、CsMP の形成中に高 Cs 領域で起こりそうである。しかしながら、CsMPs 形成に必要な反応は、〜1,273 K での CsOH とステンレス鋼との単純な相互作用とは明らかに異なる。実際、ステンレス鋼との反応から生じる Cs-Cr 相は CsMPs には存在しない。むしろ、CsOH が 2000 K 以上の高温下における コア ー コンクリート反応 で Si および Fe 酸化物との化学反応に巻き込まれた可能性が高い。高 Cs 領域と低 Cs 領域の境目のクリアな境界(図 3b)は、Zn-Fe 酸化物ナノ粒子は、コア ー コンクリート反応 の時点で形成された Fe-ポルックス石を形成する前に凝集体を形成していたことを示す。
要約すると、本研究は、CsMP 中の U、Cs、Ba、Rb、K、および Ca の起源、ならびにその同位体比とナノスケール構造に基づくそれらの化学形態を首尾よく決定した。 特に、得られたデータは、CsMP 形成中に原子炉内で生じた核燃料を含む反応の輪郭を把握するために決定的に重要である。 化学状態および起源に関する詳細な情報は、メルトダウン中の福一における生成期の理解を提供する。 これは、Zn-Fe酸化物やポルックス石などの CsMP で特定された相のいくつかは MELCOR や MAAP などの苛酷事故解析コードで考慮されていないので、これらの解析コード(の改良)にとって重要な情報である。
手 法
試料採取
試料は 3 地点で採取した(図1)。 標本のラベルは大文字が地域を表し、後の数字は九州大学の CsMP データベースの番号を示している。
OTZ3 と OTZ10 は、2012年3月16日に福島県二葉郡大隈町の福一から約 4 km 西に位置するオットザワの水田の上部〜1cm から採取された土壌から分離された。この土壌は主として粘土鉱物、石英、および長石からなる。 高線量のためにこのエリアへの立ち入りが禁止されているので、手付かずになっていて、除染や修復工事による擾乱はなかったと考えられる。 地上 1 m 高の放射線量は 84μSv/h であった。
二番目のサンプル(KOI2)は、同じ日の試料採取中に福一から南西に 2.9 km 離れた小入野の集合住宅の排水管の下に集められた砂利で構成されていた。 排水管の下の線量は周囲に比べて極端に高く、試料採取ポイントでの線量は 630 μSv/h であった。 砂利サンプルを地面からスコップを用いて慎重に収集し、プラスチックバッグに入れた。 土壌は主に粘土鉱物、石英、長石で構成されていた。
第三のサンプル(OMR1)は、2012年12月20日のサンプリング事業中に、福一から北西方向に約 10.5 キロメートル離れた福島県双葉郡浪江町小丸(おまる)の倉庫の排水管の下で採取された。 地表 1m 高の放射線量は 30 μSv/h を超えていた。
CsMPの分離
作業の前に、両方のサンプルを 114μm のメッシュで篩い分けた。粉末サンプルをグリッドペーパー上に分散させ、次いでプラスチックシートで覆った。次に、イメージングプレート(IP、Fuji film、BAS-SR 2025)を試料上に 5〜15 分間置いた。さらに、IP リーダーを用いて、100μm のピクセルサイズを有するオートラジオグラフ画像を取得した。強烈な放射能スポットの位置を特定した後、純水の液滴をこれらの位置に加え、次いでピペットを用いて吸引して、純水で希釈することによって少量の土粒子を含む懸濁液を生成する。懸濁液が有意な量の土壌粒子を含有しなくなるまで、この手順を繰り返した。続いて、ホットスポットを含む位置を、ブレードでできるだけ小さく切断したカーボン両面テープを用いて選別した。SEM 観察を使用して最大効率で CsMP を得るために、これらの断片をオートラジオグラフイメージングによって検査した。 SEM 分析の前に、試料片をアルミニウム板上に置き、カーボンコーター(SANYU SC-701C)を用いて炭素蒸着した。EDX、EDAX Genesis を備えた15-25 kV の加速電圧を用いて 2 つの SEM(Shimadzu、SS550 および Hitachi、SU6600)を用いて CsMP を見出し、観察した。
TEM試料の調製(省略)
TEM分析(省略)
ガンマ分光測定(省略)
二次イオン質量分析法
同位体比分析は、国立極地研究所の二次イオン質量分析計 SHRIMP-II を用いて行った。 試料を Al 板または Cu グリッド上に置き、1インチスライドガラス上に Cu テープで固定した。 分析に先立ち、13.5 nm の厚さで Au をコーティングした。 0.2〜0.4 nA の O2 - 一次イオンビームを使用して、ビーム径 5.0〜7.0 μm の試料表面をスパッタリングした。 典型的な質量分解能は約 4,500(ピーク高の1%での M /ΔM)である。 NIST の SRM610(461.5 mg/kg の劣化ウランが珪酸塩ガラスマトリックス中に添加されたている)が標準試料として用いられた。SIMS を用いた定量分析では、目標鉱物の化学組成と類似の化学組成を有する適切な標準試料が必要であり、(本研究ではこれがないために)絶対濃度は得られず、同位体比のみが決定された。 CsMP 上の各分析スポットについて 10 回のスキャンを行なった。これは、10 回の分析の同位体比の変動が深度プロファイルを表すことを意味する。 したがって、SIMS 分析は、CsMP 内の同位体的指紋を提供する。 平均値を表 2 に示し、10 回の分析について標準偏差を計算した。
以下、引用文献等省略
次回、この論文の意味などについて、コメントを投稿予定。
|
科学と認識
[ リスト | 詳細 ]
|
以前、東電原発事故によって放出されたセシウム(Cs)に富む微粒子(セシウムボール)についての論文(Adachi et al., 2013)を紹介 したが、別の研究グループによるさらに驚くべき内容の論文(Imoto et al., 2017)(PDF 5.5 MB)が公開された。その内容は、放射性セシウムの環境中での挙動や健康影響などの評価、およびメルトダウン中の原子炉で何が起こったのかを理解するために極めて重要なので、少し詳しく紹介したい。
タイトルは "Isotopic signature and nano-texture of cesium-rich micro-particles: Release of uranium and fission products from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant" 「セシウムに富む微粒子の同位体的サインとナノスケール組織:福島第一原子力発電所からのウランと核分裂生成物の放出」
タイトルにある “signature” は、何かのしるしや指紋のような意味で用いられている。この研究は、福島第一原子力発電所のメルトダウン事故によって放出された放射性セシウムに富む微粒子について、今日の技術レベルで考え得るあらゆる先端的な分析を駆使したもので、特に、STEM 分析と SHRIMP による局所同位体分析が実施された意味は大きい。福島の放射能汚染がもたらす様々な影響や今後の対策について何事かを主張しようとする際にはこの論文の内容を理解することは必須である。
本稿においては、この論文で何が明らかにされたのかを理解していただくことを旨とし、勝手ながら二回に分けて主要部分の邦訳を示す。個人的な感想と意味づけについては別途投稿する。図表のキャプションについては、Google 翻訳でもほぼ誤解の生じない訳出がなされるので省略した。茶色の文字は訳者による注記である。間違いや不正確なところがあればコメント欄にてお願いしたい。
要旨
福島第一原子力発電所(以下、「福一」と略記する)から放出された放射性セシウムに富む微粒子(CsMP)は、2011年におこった惨事についてのナノスケールの化学的「指紋」を提供する。 原発から10 km 以内で収集された3個の CsMP(3.79〜780 Bq)は、それらの起源と形成メカニズムを明らかにするため、U、Cs、Ba、Rb、K、および Ca の同位体比が測定された。CsMPs は、Fe-ポルックス石結晶(CsFeSi2O6・nH2O)(最大 30wt% の Csを含む)の他に、主にSiO2ガラス基質中の Zn-Fe 酸化物のナノ粒子(1wt% の U を含む)からなる。 二つの CsMP の 235U/238U 比 0.030( ± 0.005)および 0.029( ± 0.003)は、濃縮された核燃料の値と一致する。この値は ORIGEN コードで推定される平均燃焼度のものより高く、未使用の燃料より低いため、様々な燃焼レベルの溶融燃料からの U の不均一な揮発と、引き続く Zn-Fe 酸化物への吸着を示唆する。ナノスケールの組織と同位体比は、メルトダウン中に燃料中で起こった化学反応の部分的な記録を提供する。また、CsMP は、放出された放射性核種のうち体内に吸引摂取され得る形態のものを運搬する重要な媒体であった。
イントロ(改行は訳者による)
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響により、福一から、520 PBq の初期放射能を有する放射性核種が放出された。希ガス(Xe、Kr )と揮発性核分裂生成物(I、Cs、Te、Sb、Ag)を含む放射性核種は、福一を囲む14,000 km2 以上の地表を汚染し、約 10 万人の住民が避難を余儀なくされた。 放射性の Cs である 134Cs および 137Cs は、比較的半減期が短い(それぞれ 2.06 年および 30.07 年)ために、福一周辺の環境における現在の高い放射線の原因となる主要な放射性核種である。
三つの炉心に存在していた Cs の約1〜7%が放出された。 福島周辺の地表環境における放射性 Cs の分布と移動については、これまでは、まず可溶性の放射性 Cs が放出され、福島県およびその周辺に広がって乾燥した地表や湿った環境に堆積し、続いて、バーミキュライトのような粘土鉱物の層間に固く結合して、土壌の 5 cm までの表層に残ったと考えられてきた。 しかし、汚染された土壌の Cs 濃度は不均質で、オートラジオグラフィーによって明らかにされているように、ミクロンサイズのホットスポットとして局所化されているが、この不均質性の実体は完全には明らかにされていなかった。
この不均質性の原因について考えられるのは、福一から一定の距離範囲で見出される高い Cs 比放射能を持つ CsMP の形成である。 これは、環境中での Cs 移行の重要な別ルートの1つである。CsMP は、易溶性 Cs とは異なって水に難溶性である。 134Cs/137Cs の放射能比が1くらいであるのは、それらが福一に由来することを意味する。 CsMP は当初、原子炉由来の様々な元素を溶かしこんだ非晶質ガラス粒子と考えられていた。 しかしながら最近の研究は、Cs の濃集物が、純粋な SiO2 ガラス基質中に離散した Zn-Fe 酸化物ナノ粒子が埋め込まれたものや、様々な核分裂生成物を伴う多数のナノスケールの包有物を伴う物質であることを示している。
CsMP 内のナノスケールの組織は、原子炉内においてメルトダウン中に起こった化学反応を記録している。 難容性の CsMP は、東京に最初に降下した Cs の主要なキャリアとして認定されたもので、環境中での移動および健康影響に関して易溶性 Cs とは異なると予想される。 原子炉内部の CsMP 形成の反応経路に加えて、微量の U が CsMP 中に存在する。 原子炉内の遮蔽材には少量の天然 U も含まれているため、U および他の核種の起源は不明のままである。原子炉由来の U の産状は、メルトダウン時に核燃料が経験した反応や損傷した原子炉内で溶融した核燃料の状態を理解するのに役立つ。このことは適切な廃炉戦略を策定する上で重要である。
この研究では、原子スケールの解像度での分析と組み合わせた同位体分析により、U の起源と福一からの CsMP を伴う放出プロセスを明らかにしたという仮説を提出した。 CsMP は、CsI や CsOH のような易溶性 Cs の放出といった一般的概念とは異なり、福一炉心のメルトダウンの最中に生成された凝縮物の全く独特の形態である。 この論文では、個々の CsMP の同位体比を初めて報告した。 その他の安定同位体や放射性同位体の分析によってもまた、それらが天然起源であるか核分裂起源であるかがわかる。
結果
CsMP の形状、組成、放射能
三箇所において OTZ3、OTZ10、KOI2、および OMR1 と名付けられた 4個の CsMP が見つかった(図 1)。試料採取の詳細は「手法」のところに記載した。図 2 は、CsMPs の主要元素の SEM 像および EDX による元素マップを示す。これまでの研究では、CsMP の形状は球形であると記載されてきたが、これらの粒子はむしろ不規則な形状の集合体に見える。さらに、ここで扱った CsMP の放射能は 3.79〜780 Bq の範囲である(表 1)。これらの値は球状の CsMP の約 33 倍高い。 SIMS 分析に使用されたOTZ3、KOI2、および OMR1 の 134Cs/137Cs 放射能比は1.06-1.08(平均1.07)であり、この値は、OrigenArp 計算によれば 26GWd/tU(の燃焼度)にほぼ相当する。 134Cs/137Cs 同位体比は福一の二号機および三号機の値に近いが、各原子炉内の燃料の燃焼度は燃料集合体の位置に依存して不均質であるために、同位体比のみから供給源の原子炉を特定することはできない。
SIMS 測定およびγ線分光法に基づく同位体比
OTZ3、KOI2、および OMR1 の三つの CsMP の同位体分析の結果を 表 2 にまとめた。天然 U の 235U/238U 比が 0.00729 であるのに対し、未使用核燃料の値は典型的には 235U の濃縮で 0.03より大きくなる。 表 2に示すように、U 同位体比は OTZ3 と KOI2 でそれぞれ 0.029584 と 0.029341 であったが、OMR1 では U は検出されなかった。 標準試料 NIST SRM610 の U 同位体比は、標準値と調和的で、3 ポイントの分析の差異と標準偏差は約 0.00002 ± 0.000001(1σ)であり、SIMS(SHRIMP) 分析の精度は高い。
Cs の安定な同位体は133Cs 一つだけ(天然で100%)であるが、134Cs、135Cs および 137Cs を含む様々な放射性同位体が原子炉内で生成され、その同位体比は燃焼度に依存する。Baの天然の安定同位体組成は原子比で、130Ba (0.1058%), 132Ba (0.1012%), 134Ba(2.417%)、135Ba(6.592%)、136Ba(7.853%)、137Ba(11.232%)、138Ba(0.1058%)、132Ba (71.699%)である。Ba のほとんどの放射性同位体(> 122Ba)は、典型的には、β-、β+、および電子捕獲などの様々なモードで崩壊し、同重体を経由して安定同位体へ壊変する。ここで用いた SIMS 分析ではセシウムと Ba の同重体を区別することは困難である。しかし、γ線分光に基づいて、SIMS 分析時点へ補正した134Cs/137Cs(γ)比は、OTZ3、KOI2、および OMR1 のそれぞれについて、0.0131、0.0135 および 0.0132 と算出された。 2011年3月12日15:36 時点へ補正した 134Cs/137Cs(γ)比は約 0.073 であった。 136Ba/138Ba 同位体比は、OTZ3、KOI2、およびOMR1 のそれぞれについて 0.1523、0.1638、および 0.4293 と決定された。 SIMS によって決定された134(Cs + 放射起源 Ba)/138Ba の同位体比は 35〜138 である。135Cs/137(Cs + 放射起源 Ba)および137(Cs + 放射起源 Ba)/133Cs は 0.39〜0.40 および 0.92〜0.99 であった。 Rb の同位体比 87Rb/85Rb は、2.2〜2.4 の範囲である。90Sr は CsMP 中に検出されず、Ca と K の同位体比はこれらの元素が天然由来であることを示している。
CsMP のナノスケール構造と組成
先に SIMS によって分析された OTZ3-CsMP から OTZ3-1、OTZ3-2 と命名された二つの FIB 切片の切り出しに成功した。同じ土壌サンプル中に見出された OTZ10 CsMP からも別の FIB 切片が作製された。OTZ3-1 CsMP の高角度環状暗視野透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)画像を 図 3a に示す。白い矢印は粒子の位置を示す。コントラストの異なる2つの領域が識別できる(図 3b)。 2つの領域の境界付近の元素マップは、明領域で Cs 濃度がかなり高いが、他の元素は均一に分布している(図 3c、表 S1)。暗領域(edx1)は明領域(edx2)に比べて Cs 含有量が低い(図 3d)。低 Cs 領域(暗領域)の拡大された HAADF-STEM 画像は、元素マップ(図 3e)によって明らかにされるように、Zn と Fe を主成分とするナノ粒子からなる。これらのナノ粒子には Cs が含まれる。Si の分布は、試料の厚さのために解像できなかった(図 3e)。ナノ粒子は、HRTEM 画像によって他の CsMP においても同定されているフランクリン石構造(ZnFe2O4、Fd3m、Z = 8)として最もよく同定される(図 3f)。
高 Cs 領域(図3b の edx2)は、低 Cs 領域に見られるフランクリン石ナノ粒子と比較して、Cs 含有量の高い比較的大きなナノ粒子(〜50nm)を含むように見える(図S1a)。Csに富む大きな粒子は、その後 SAED パターンに基づいて Fe に富むポルックス石構造(CsFeSi2O6・nH2O、Ia3d, Z = 16)と同定された(図 S1b)。ポルックス石は、理想式 (Cs, Na)(Al, Si)3O6・nH2O の沸石である。 Fe-ポルックス石は電子線照射下で不安定であり、おそらく水が失われて非晶質になる(図 S1c)。さらに、高 Cs 領域と低 Cs 領域の境界の HAADF-STEM 画像は、電子線照射後にコントラストが変化した(図 1d)。すなわち、Fe-ポルックス石の構造的劣化を示すように明るいコントラストが消えて、SAED パターンにおけるピークの低下と整合的である。高 Cs 領域の電子エネルギー損失分光法(EELS)によると、Cs は、その M 吸収端に示されるように一価であることを示している(図 S1e)。Ba は、Ba に富む固有相を形成するのではなく、Cs 含有相に密接に伴われ て存在する。これは、CsMP 中のほぼすべての Ba 同位体が放射性 Cs 起源だからである。Fe の L 吸収端(の吸収率曲線の形状)から、Fe が酸化物になっていることが確認された。
同じ主要元素である Si、Fe、Zn、および Cs は、同じ集合体 OTZ3-2 から切り出された別の FIB 試料中にも存在する(図 4a)。 HAADF 画像のコントラスト(図 4b)に示されるように、白い矢印で示される領域を拡大すると組織が均質であることがわかる。これは、 OTZ3-1 の高 Cs 領域(図 3b の edx2)に観察された球状組織とは異なっている。 しかし、Cs 含有量は OTZ3-1 における高 Cs 領域と類似している(図 4c)。 また、〜0.5 μm の大きさの単結晶が観察され、これは HRTEM 画像中の連続的な格子縞で明らかである(図 4d)。 2つの異なる主軸から得られた回折パターンに基づくと、この大きな Cs 相は 一つの Fe-ポルックス石である(図 4e)。
U を検出するために、OTZ10 CsMP の FIB 切片を TEM によりさらに調べた(図 5a)。SAED は、典型的には非晶質領域からの拡散散乱に対応する広い回折極大を示す(図 5a の挿図)。切片全体の元素マップは、バルクスケールでの主成分元素の均質な分布を示す(図 5b)。 Cs 濃度は 7〜10wt%である(図 5c、表 S1 )。明らかに均質な分布および SAED における拡散散乱ハローにもかかわらず、拡大された HAADF-STEM 画像はコントラストの違いで分かるように相が分かれていることを示す(図 S2a )。元素マップと EDX 分析は、明るい相が Fe、Zn、Cs および Sn を含み、暗い領域は SiO2-領域に対応することを示す(図 S2b および c )。 HRTEM 画像はまた、多数のナノ結晶の存在を示す(図 5d )。 格子間隔と FFT 画像に基づくと、これらのナノ結晶はフランクリン石である。元素マップを用いた別の拡大された HAADF-STEM 画像は、U の分布が Zn-Fe酸化物ナノ粒子と密接に関連していることを示している(図 5e )。 U の濃度は、EDX 定量分析( edx2、図 5f )においてウランを U3O8 と仮定すると、0.8wt%( Si を含む)または1.1wt%( Si を除く)である。
(その2へ続く)
|
|
7月28日に資源エネルギー庁が計画している高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定に向けた「科学的特性マップ」が公表された。前回27日の投稿 は、この発表の前日であったので、直接には対応できなかった。とはいえ、具体的な問題提起は学術の現場で行わないと大した意味はないので、ここでは補足的なことを書き足しておくにとどめたい。
昨年末以降だと思うが、従来、資源エネルギー庁とNUMOが用いてきた「科学的有望地」の文言は一切用いられなくなった。この「科学」が自然科学の意味に限定的に用いられていることはいろいろな報告書を読めば明らかである。最終処分場としての有望性が自然科学によってのみ決められる訳はないから、他の基準による有望性についても併せて議論しなければならない。彼らのほんねとしては「社会的有望地」なるものがあるのであろう。しかし、例えそのような図面を作成しても公表などできない。「自然科学」だけで押し通すことは不可能だが、そこを足がかりに、あとは地域住民との直談判に持ち込もうという訳なのだろう。
こうして公表された「科学的特性マップ」によると、「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」地域が全体の約 65%、このうち、廃棄物の海上輸送に便利な海岸から20キロ以内の沿岸部は、「より好ましい」とされ、全体の約 30%を占める。
注意すべきは、相対的な好ましさが高い地域を示してあるだけであるという点だ。相対的に好ましいことだけでは絶対的な安全性の程度はわからないので、結局は個々の地域で具体的にどのような問題があるかを議論し続けなければならないということになる。
いずれにしてもこれから政府主導で候補地の選定がおこなわれ、金で釣って「各個撃破」的に決めてしまうということが始まるのであろう。その場合には自治体住民向けの説明会が開催される筈だから、できるだけ出席して、納得のいくまで疑問をぶつけるべきである。これ以上ゴミを増やさないために直ちに原発を停止するのが話し合いのテーブルに着く条件であるくらいのことは言うべきだろう。「原発の再稼働は民主的な手続きを経て意思決定された結果である・・云々」といった返答には、2012年8月に国がこれからの原発政策について問うたパブリックコメントでは、圧倒的多数が脱原発を志向する意見を提出したのであり、民意は脱原発、再稼働停止であると返すべきだ。また、様々な影響が広範に及ぶ問題であり、一自治体だけの判断で決めてはならないということも主張されるべきである。
さて、前回の記事に南鳥島のことを書いたが、その後調べてみると、高橋正樹さんの地質学会講演以来、専門家の間でも南鳥島を推す意見がいくつか散見される。例えば、togetter「高レベル放射性廃棄物を南鳥島で地層処分」 (2016年12月26日:主に群馬大学の早川由紀夫さんと鹿児島大学の井村隆介さんとの議論)があり、これは、JAMSTECが南鳥島で調査研究というNHKの報道を受けたもの。井村さんはまた、早稲田大学松岡俊二さん の科研・基盤研究(B) 「高レベル放射性廃棄物(HLW)処理・処分施設の社会的受容性に関する研究」第 7 回バックエンド問題研究会(2017年2月20日)において招待講演をおこない、議事録 には「個人的な見解としては、地球上におけるゼロリスクの追求は不可能であり、できるだけ生活圏から離すべきという観点から、南鳥島を候補地とする案が最終的には望ましいのではないかと思う。」との発言が記されている。
最終処分場の候補地として専門家が具体的な地名を口にするのは、もちろん、周囲 1000 km 以内に誰も居を構えていないことで可能になっている。ところで、本年5月14日に資源エネルギー庁とNUMOが開催した「いま改めて考えよう地層処分」と題する全国シンポジウムの東京会場での概要の報告 があるが、その中に質疑応答で次のやりとりがあったことが記録されている。
回答者は資源エネルギー庁 放射性廃棄物対策課長の小林大和氏である。前回の記事で、このことを伝えるNHK NEWS WEB の記事がリンク切れになっていると書いたが、この記事はNHK「かぶん」ブログ にそのまま転載されて残っている。ガセネタということではなく、JAMSTECとして検討はしているが、そのような計画が策定されたという段階ではないということなのだろう。エネ庁の回答はなんとも素っ気ないが、少し真面目に検討してみると、南鳥島を最終処分場とすることは現在進行中のプランとはかけ離れていて、「適合性」に乏しいことがわかる。
現行の計画は、300 m 以深、とはいってもせいぜい 500 m くらいの深さまでの地下に 3 km × 3 km くらいのサイズの施設を建設し、100 年間くらい管理してその後埋設することが前提となっている。前回の記事では、南鳥島の石灰岩は「3,000 m を超えるとは考えられない」と書いたが、この付近の海洋プレートの年齢は約 160 Ma(1 Maは百万年前)で、南鳥島周辺の海山の形成年齢は 120 〜 75 Ma の範囲にある(図1:脚注の文献参照)。南鳥島もこの範囲のどこかの時点、すなわち、海洋プレートが生まれて早くて 4,000 万年、遅くて 8,500 万年が経過した頃に形成されたと推定される。海洋底基盤の深度 D (m) = 2500 + 340√T に当てはめると、その後の(陸上火山活動が停止した後の)沈降量は最大で 2,200 m 程度、最小で 1,100 m 程度と見積もられる。この沈降量がそのまま礁石灰岩の厚さということになる。石灰岩は透水係数が高く、処分場建設には適さないので、その下位の陸上で噴出した玄武岩層がターゲットとなるが、最低でも 1,500 m 、最大で 2,500 m 程度の超深度空間に建設しなければならないことになるのである。
高橋さんがなぜ陸上噴出の玄武岩層にこだわったかというと、その下位の海中で噴出したものは枕状溶岩やハイアロクラスタイトとなって、やはり透水係数が高く適さないからであろう。玄武岩の島が陸上に露出していた時のサイズは沈降後の環礁のサイズとほぼ等しいと考えて良いが、南鳥島はせいぜい一辺が 2 km の三角形に過ぎないので、そもそも陸上噴出の玄武岩層の容積は 3 km × 3 km の地下施設を建設するにも足りない可能性が高い。
NUMOが昨年おこなった地層処分意見交換会の説明用参考資料 によると、事業費は約 3.7 兆円程度で原子力発電を行う電力会社が拠出することになっている。もし、現行の計画から大幅に修正しなければならないとしたら、あらゆることが一からやり直しになり、事業費は数倍に膨らむ可能性があり、電力会社としては何としても避けたいところだろう。また、JAMSTEC が調査研究をやるにしても、その経費を国費で賄うことは許されず、あくまで電力会社の資金によってなされなければならないことも押さえておく必要がある。
――――――――――――――――――――――
注)南鳥島周辺の海山の年齢はClouard and Bonneville (2004) (pdf: 123 kB) によってコンパイルされている。一部不正確な記述があり、これは Pringle (1992) (pdf: 3.5 MB) によって補うことができる。
この海域(Mariana Basin)の海洋プレートの形成年代については、Sager et al. (1998) がある。
|
|
先ず原発を止めろ、話はそれからだ
原発から排出される高レベル放射性廃棄物の地層処分に関わっている研究者達の合言葉は「原発に賛成であろうが反対であろうが、現に溜まってしまったゴミは何とかしなければならない」である。これはもう、30 年以上前から変わらない。資源エネルギー庁の担当者や所管の NUMO の幹部達も口を揃えて同じことを言う。日本の電力の相当部分を原発に頼ることは、廃棄物の処分方法が決まらないままスタートすることも含めて、国家的な事業として民主的な手続きを経て意思決定された結果であり、次世代にツケを残さないためにも核廃棄物の処分は現世代で解決しなければならない課題である、という訳である。
うっかりすると騙されそうになるが、ちょっと待てよと思う。楽観論を振りまいて国民を騙し続けて来た結果だろうが、と思う。現世代で解決しなければならないから協力してほしいと言うなら、まず、これ以上ゴミを増やすことを止めるのが現世代としの先決事項である筈だ。一般の中小企業が行き場のないゴミを出し続けていたとしたらどうなるだろう。もうとっくに操業停止の行政処分が下されているレベルだ。原発だけ、なぜそれが許されるのか。こんな常識的で簡単な理屈もわからないのは、科学者達の世界でモラルハザードが進行しているからではないのか。倫理崩壊の科学者集団は何をするかわからないから、皆んな気をつけた方が良い。
昨年全国で開催された地層処分意見交換会で配布された説明用参考資料 に、2016年3月末時点で「原子力発電所などで保管されている約 18,000 トンの使用済燃料を今後リサイクルすると、既にリサイクルされた分も合わせ、ガラス固化体の総数は約 25,000 本となります。」とある。「既にリサイクルされた分」というのは貯蔵管理中の 2,300 本のガラス固化体のことである。六ヶ所村の再処理施設はまだちゃんと稼働していないので、ほとんどはこれから準備することになる。それもいつのことになるかわからない。
見過ごせないのは、計画されている地層処分場が 40,000 本以上を処分できる規模であることだ。現時点の廃棄物は 25,000 本相当だから、今後 15,000 本相当以上の高レベル廃棄物が増えることを前提とした計画になっている。「以上」とあるから、5万本になったり6万本になったりするかもしれない。100 万kW 級の原発を稼働率 85%で1年間動かすとガラス固化体にして 26 本相当の高レベル放射性廃棄物が発生する。15,000 本以上の余裕は、10 基の原発を 58 年間以上稼働させるくらいのことが想定されていることを意味する。
「まず、これ以上ゴミを増やすことを止めるのが先決」と言わずしてこれらの事業に協力するということは、そのような計画の全体に協力するということであり、実質的には原発の再稼働を後押しすることになる。
地層処分場の規模をどうするかは重要な政策課題であるはずだが国民にはその重要性が知らされないまま、もう決まったことだと言う。いつだってそうだ。倫理崩壊の人たちというのは油断も隙もあったものではない。「原発に賛成であろうが反対であろうが、云々」というのは、原発に決して反対などしないことをカモフラージュして、市民を、そして自らをうまく騙すレトリックに過ぎない。
JAMSTECよ、お前もか(南鳥島の問題)
ところで、NUMO のウェブサイトの「自治体のみなさまへ」のページの、いまは休止中となっている「応募関連情報」の中に、地層処分場候補地として自治体が応募する際の南鳥島を例とする様式 がリンクされていた。これは、今はリンク切れとなっていて、表からは辿れないようになっている。
なぜ南鳥島が例示されているのか。これには伏線がある。ここ数年来、日大教授の高橋正樹さんが、南鳥島を「トリプルA」の候補地として推しているのだ。例えば、北方ジャーナル誌の 2014年11月号のインタビュー記事 がある。学術の場で公式に表明されたのは昨2016年9月の地質学会での講演 が最初ではないかと思う。高橋さんが推す理由は、長期に安定しているに違いないという推定と、周囲 1,000 km 以内に「一般住民」が住んでいないことによる。ここには自衛隊の施設や気象庁・国土地理院の観測所があるだけで、候補地となっても誰も文句を言わないだろうという訳である。
これに資金不足に喘ぐ(といっても地方国立大よりはマシな)JAMSTEC が目を付けた。今はリンク切れとなっている 2016年12月25日の NHK NEWS WEB の記事から引用しよう。
(以下、略)
高橋さんは地質学会の講演要旨に次のように書いている。
南鳥島周辺の深海平原の深さは、実際は 5,500 m くらいで、海底下 500 m の厚さの部分は遠洋性堆積物からなっている。したがって「深海底盾状火山」が乗っている海洋底基盤の上面深度は 6,000 m くらいである。現在、南鳥島の地表部分を構成している礁性石灰岩は太陽光線の届く浅い海で成長するので、海底火山で噴出した玄武岩は一旦は陸上に顔を出すまで積み重なったと推定される。高橋さんが処分場として推すのは、かつて陸上で噴出し、今は石灰岩の下に埋もれている「数kmの厚さ」の玄武岩層である。
海洋プレートは、平均 2,500 m の深さの中央海嶺で生まれ、拡大を続けるとともに冷却によって沈降する。海洋底基盤の上面深度 D (m) は、 中央海嶺で生まれてからの経過時間 T (百万年単位)とともに、D = 2500 + 340 √T の式で近似されるように次第に深くなる(ただし誤差は大きい)。これに伴い火山活動の止んだ海洋島も沈降する。礁石灰岩は海洋島の沈降とともに海面すれすれに成長を続け、次第に厚くなる。現在の南鳥島の石灰岩の厚さは、陸上火山活動がいつ止んだのかがわからないと推定は難しいが、3,000 m を超えるとは考えられない。したがって、処分場建設のための掘削深度を 3,500 m 以深に設定する必要はない。もしかしたら 2,000 m くらいで済むかもしれない。
にもかかわらず JAMSTEC がわざわざ困難を極める 5,000 m 規模の調査掘削を表明するのは何故か。深海掘削船「ちきゅう」の出番であるという宣伝のための意思表示なのであろう。もちろんそれは、「何とか金を取ってくるため」の宣伝なのであろうが、巨大科学の現場で、組織を守るために,あるいは組織を拡大しようとして科学そのものがねじ曲げられようとしているのではないか。
一市民としての人のあるべき倫理に照らした内省を迂回し、外形的な多数決主義を「民主主義」と称する錦の御旗として用いるなら全体主義となんら変わらない。このブログの記事、ハンナ・アーレントの「悪の陳腐さ」のテーゼから学ぶこと の最後に書いたことを再掲しておく。
|
|
前回の記事ではアーレントに難癖をつけるような終わり方になり、心地悪いので、書ききれなかったことを補足しておきたい。
「ユダヤ人として攻撃されたらユダヤ人として身を守らねばならない。」アーレントは、ドイツで、そして亡命先のフランスでシオニズム運動に身を置いて活動することになる。フランスが降伏して捕らわれの身となり、偶然の隙をついてアメリカへの亡命が叶った後、フランスの同じ収容所に残されたユダヤ人達が「屠殺場」送りになったのではないかとの恐怖、負い目 、悔悟の念に苛まれる。
九死に一生を得る以上の体験をしたアーレントにとって、アイヒマンを単なる殺人犯として裁くことは耐え難いことだったに違いない。彼の罪状の本質は「人道への罪」であり、何より「人類への罪」であり、たとえ殺人に直接手を下すことがなく、上司からの命令を部下達へ忠実に伝達しただけだったとしてもその罪からは逃れられないとアーレントは考えた。既に1944年の秋頃までには着想されていたそのアイデアを明確に主張するために、アーレントは、エルサレムの検事達が無数の具体的な殺人の証拠を並べ立てようとすることにことごとく批判の矛先を向け、アイヒマンをある種の典型的な人間に仕立て上げた。
雑誌特派員によるアイヒマン裁判の傍聴記としてまとめられた筈のレポートは、具体的な出来事のいちいちにアーレント独自の視点から時系列の不明確な注釈が加えられた一片の論文と化したものになっているのである。しかし、アーレントのその行為によって重要な論点が失われてしまったのではないか、というのが前回書きたかったこと。
ところで私は、「悪の陳腐さ」と「悪の凡庸さ」の二通りの日本語表記が流通していることに長い間違和感を抱いていた。「陳腐」と「凡庸」では意味が異なるではないか。複数の辞書に当たって調べたところ、形容詞の ”banal” には「陳腐な」と「平凡な」の二つの訳語が出てくるが、アーレントが用いた名詞の “banality” には「陳腐さ」しか出てこない。映画『ハンナ・アーレント』の日本語字幕は「凡庸さ」を採用している。実際この映画は、「陳腐さ」ではなく完全に「凡庸さ」を主張したような作りになっていて、DVD付録の冊子には次の記述がある。
項目名には「陳腐さ」が括弧書きで付記されているが、内容は「凡庸さ」の説明となっている。2013年ドイツ映画賞で作品賞銀賞を受賞とあるが、当地でもこうした理解が定着しているのだろうか。ざっと見渡したところ、専門家は「陳腐さ」と表記し、巷では「凡庸さ」と表記されるのが多いように感じる。では、「陳腐さ」の説明として上記の言明は妥当であろうか。
この点に関わっては、少し前にネット界の片隅で話題になった香月 恵里さんの論文:『アイヒマンの悪における「陳腐さ」について』が、問題の所在を理解する上で良い助けとなる。ただし、私自身が個々の分析の全てに納得できたという訳ではない。関係しそうなところを節を追って拾ってみよう。
1.「命令受領者」アイヒマン
いきなり、次の記述に困惑する。
「自分は上司の命令に従っただけであり,忠誠と服従の誓いに拘束されていた,告訴の意味においては無罪だと判で押したように繰り返した」という記述と、最後の、「アイヒマンは権威に服従した役人に過ぎず,ナチという抹殺機構の中の歯車に過ぎなかったといういわゆる「歯車理論」は,アーレントも否定し,アイヒマン自身さえ口にしたことがなかったのに,・・・」との記述は、事実に関する事柄であるだけにどう考えても両立しないように思われるが、終章において開ける視界の元では、大きな問題ではない。
2.もう一つのアイヒマン像
ここでは、法廷におけるアイヒマンの仕草や証言は、「もしかしたらこれは芝居なのではないだろうかという疑問」から出発し、尋問官レスの判断と、アイヒマンの生い立ちから遡る行状を整理して次のように結論される。
これは、冒頭の疑問としてあった「芝居説」が正しいとの判断が語られていると読める。つまりアイヒマンは、どこにでもいるような小役人などではなかったという、おおかたの、そして香月さん自身の認識を示したものであろう。
3.「サッセン・インタヴュー」
この節では、アルゼンチンに逃亡していた時期のアイヒマンが、数百万単位の虐殺をなんら恥じることも後悔することもない反ユダヤ主義者そのものとして振る舞っていたこと,そして「今一度人々の注目を集める重要人物として世間に復帰したいという虚栄心と名誉欲を 持っていたこと」が語られる。
4.確信したナチか,それとも平凡な出世主義者か
前節までを振り返ると、答えはYesであろうか。しかし、冒頭において「いわゆる「歯車理論」は,アーレントも否定し」と書いておきながらのこの問いはなんだろう。そして次のように結論される。
これもまたよく分からない言明である。「アイヒマンは確かに「確信した反ユダヤ主義者」だった」との判断と「その動機は,何らかの世界観やユダヤ人への激しい憎悪に基づくもの」ではなかったという判断がどう両立し得るのか、私には理解不能である。「主義者」というものは、何らかの世界観をもってそのように認識される筈のものだ。私の前回の記事に即して言えば、ヨナスにとってアイヒマンは狂信的な反ユダヤ主義者と映っていた訳であるが、香月さんの論文においてそのことは十分には反証されていないと感じるのである。
5.「根源悪」から「悪の陳腐さ」へ
前節までは疑問点ばかりを並べ立てたが、ここでは第二の師ヤスパースとのスリリングな対話が軸となって展開され、一気に視界が開け、結論へ向かう仕掛けとなっている。
アイヒマンの所業は、「人間性のうちに根を張っている」性癖のようなものに基づく動機の上になされるカント流の「根源悪」という概念だけをもってしては、その結果の重大さに照らして理解が及ばない。20世紀になって現れた全体主義の元では、犯罪の動機とその結果がかけ離れたものになり得るのであり、結果のあまりの重大さに比べれば、その動機の方は「陳腐」と言えるほどのものに過ぎない。また、結果のあまりの大きさに比べれば、アイヒマンが、命令に忠実な小役人に過ぎなかったのか、それとも、虚栄心や名誉欲といった人間につきものの欲によって多少の逸脱をなしがちな者であったのかは、大した問題ではないということになる。ここでは、「全体主義の元では」という注釈が、最も重要な前提条件となっていることに注意しておく必要がある。この点で私は、香月さんの説明に深く納得する。
なお、邦訳書『イェルサレムのアイヒマン』の訳者大久保和郎氏による解説には、このことに関わって、「ヤスパースは死刑廃止は当然とする含意のもと、この犯罪は例外的なものだから、例外的に死刑を適用すべきだと主張している」と記されている。
全体主義の元で法に従ってなされる罪の問題を掘り起こしたアーレントの功績は確かに大きく、学ぶべきことは多い。組織化された巨大な罪を個々にたどれば,凡庸な人間の、落差の大きさに笑ってしまうほどの陳腐な動機に基づくものであることが多い。日本においても全体主義が芽生えようとしているのではないかとの危機意識にたつとき、その危機の本質は、歯車に過ぎない小役人が、あるいは善良な科学者や企業人が、重大な犯罪に手を貸し、「人道への罪」、「人類への罪」を犯してしまうことにあり、今まさに凡庸な多くの市民さえ、その罪を犯しつつあるのではないかと思われてならない。
|




