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あっという間の出来事だった。
ちゃんぷるに出た後にすぐにメジャーデビュー。
時速300キロで市街地を走り抜けるF1のそれに似て、景色をゆっくり見る余裕があるわけもなく、
ときおり聞こえる沿道の歓声に胸を弾ませながら走り抜けた。
家に帰る時間が不規則になってきて、ツトムとのコミュニケーションも少なくなってきた。
でも俺は家に着くとなるべくツトムをなでてみた。
足がつらそうだから足をマッサージしたりしてみた。
サンタクロースのことなんてとっくに昔の出来事のように感じる1月末、
オカンが「今日、朝ツトムが1度死んじゃった」と言っていた。
止まって動かなくなったけど、少ししてまた動いたんだと。
オカンの横でいつも一緒に寝ているツトム。
俺は心配したけどどうすることもできないもどかしさを感じていたよ。
6月には17歳になるツトム。
1年に7歳年をとるって言うから人間で言ったら119歳じゃんか。
小さい身体で懸命に生と闘っていた。
潮の満ち干きは月の引力に関係してると聞いたことがある。
生き物は潮の満ちるときに生まれて潮が引くときに死んでいく。
生き物は身体の多くが水分なんだって。
それも関係あるのかもしれない。
それに満月の夜は不思議と犯罪率が高いなんてのも聞いたことがある。
2月7日
いつもより少し寒くて俺は部屋で、なぜか起きてるのか寝てるのかさえわからない感じでまどろむようにしてた朝6時前。
外はまだ暗い。
朝日の到来を待ちきれない牛乳配達のバイクの音。
少しするとオカンが部屋をノックした。
「ツトムが逝ったよ」
なぜか眠れなかった俺はオカンの部屋にツトムを見に行った。
横たわる姿は今までで一番生気のないツトムの姿だった。
オカンの布団の上で一度顔をすり寄せるようにしてからカクンと逝ったんだって。
涙が止まらないオカンがツトムを撫でていた。
俺もツトムを撫でた。たくさんたくさん撫でた。
「ごくろうさん」
と声をかけた。
オカンの腕に抱かれてうちに来たツトム。
最後までオカンに抱かれて逝けて幸せだっただろうなぁと思った。
お店にツトムを連れて行った。
みんなが花を持って会いに来てくれた。
みんなに愛されて育ったわがまま犬。
みんな会いに来た。
まるで偉い人が死んだみたい。
俺はツトムが初めてうちに来た日を思い出した。
やっぱりあの時名前を「組長」にすればピッタリだったなぁと少し笑った。
それから2日後、ツトムを動物の墓地に埋葬することにした。
人間と同じように焼いてもらえるなんて少しびっくりした。
ツトムの骨はとても小さくて、小さな小さな骨壷に収まる。
それを納骨した。
部屋に帰ってツトムがカジッて傷だらけの柱を見た。
オシッコの跡を見た。
爪でひっかいた壁の傷を見た。
主のいない出窓を見た。
なんだかいつもより静かな家。
静かな夜。
あれから2年。
もう今は慣れたけど、今でもたまにツトムがいるんじゃないかと思う時があるんだ。
俺の家族でもあって、親友でもあったツトム。
2年前のちょうどこの季節にいなくなったツトム。
うん。線香でも上げに行ってみよっと。
あの時1年生だった子達はもう5年生になった。
春から6年生。
ランドセルが小さく見えてきた。
今日も校庭でわいわいと声が聞こえる。
いつもの景色。
いつもの声。
なんだかそれがとてもありがたい。
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