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戦争は戦争のために戦われるのでありまして、平和のための戦争などとは嘗て一回もあったことはありません

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めでたし日本

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「小刀を持っているかね」と私は久しぶりで訪ねて来た親類の高校生にきいた。

「まさか。みんなが持ち歩いているわけではありませんよ」と彼は答え、「しかし珍しくはないな」と附け加えた。

「学校の<国際化>が進んで、めでたいじゃないか。もっと進めば飛び道具だろう」

「しかし銃火器は簡単に手に入りませんよ」

「なに、規制撤廃、自由市場、学校ビッグバン、――銃弾飛び交う教室で教師は防弾チョッキを着るだろう。護身用具が売れる。会社がもうかる。景気がよくなる・・・」

「なるほど自由市場万歳か。流れ弾で人が死ぬことを除けばね」

「それは少人数だよ」

「役人の腐敗も少人数ですか」

「あたりまえだ。大部分の役人はワイロをとらない。天下りもしない、または、できない・・・」

「しかし贈りものはもらい、接待はうける。何かの見返りを期待しないで、誰もカネは使わないでしょう」

「<社会通念の範囲>ならばワイロではない」

「<通念>は伸縮自在の習慣ですね。その習慣、つまり擬似ワイロの国民的体系は、変わりますか」

「それは、君、変わるわけがないだろう。事実を厳粛に受けとめて深く反省するだけだ。第一、ホンネでは誰も悪いと思っていない。第二、これは今に始まった話でない。江戸時代以来の、長い文化的伝統だ」

「江戸時代以来の?」

「<此の賄の筋は・・・とにかくやみがたき物にして、次第に増長し、近来は殊に甚だしき事実あり>と本居宣長もいっている。<近来>とは江戸時代中期のことだ。<上中下おしなべて・・・何事によらず、此の賄の行はれざる事はなく>、公事訴訟には<横しまあるさばき>、作事普請には<手抜>、対策として<目附横目をつけても、多くは其の人ぐるみに、此の道におちゐる故に、益あることなし>」(本居宣長全集第八巻、秘本玉くしげ、筑摩書房)

「この国では何かが腐敗していますね」と高校生はいった。

「それでもハムレット風の悲劇にはならず、何とか生きのびてゆくところが、めでたい」と私は応じた。

「また戦争になるのかな」と彼は話題を変えて呟いた。「大がかりな人殺しは、めでたくないでしょう」

「しかしイラク征伐は、そこにあるかもしれない大がかりな人殺し道具を一掃するために行う大がかりな人殺しだ」

「それにしても、人殺し道具の脅威を受けるはずの周辺アラビア諸国が、イラク征伐を歓迎しないのは、不思議ですね」

「おや、よく知っているじゃないか」

「そんなことは新聞に書いてありますよ。安保理事会もイラク爆撃を決議できない。爆撃の結果は、サダム・フセイン大統領の人気高まり、アラブ諸国の反米感情いよいよ強まり、大量破壊兵器は相変わらず隠されているのかいないのか確かならず・・・」

「そのくらいのことがわからぬクリントン大統領ではないはずだから、イラク征伐は古狐が入れ代わってのことだろう」

「え、古狐?」

「そうさ、昔、太閤秀吉、朝鮮出兵の捗(はかど)らぬのに苛立ち、みずから大軍を率いて朝鮮へ向かおうとしたとき、浅野長政は、諫言して、<よしなき軍起て、異国のみにあらず、本朝にも父を討たせ、子を打たせ、・・・嘆き苦しむもの、天下に満つ、・・・かかる御心の附かせ給ふ事、これただ事にあらず。一定ふる狐の入れ代つたるには候はずや>というのだ」(新井白石、藩翰譜 第七下、浅野)(ブログ注:要するに、『意味の無い軍隊起こして、国外だけでなく国内も苦しみに満ちてるじゃないですか。フツーじゃないですよ、狐にでも憑りつかれてんですか?』って言ったらしい)

「今の日本国には浅野長政がいない」

「幸いにして」と私はいった。「長政はもとより切腹の覚悟だった。切腹を避けるには、御無理御もっとも、何をなさろうとあらかじめ支持を約束し、長いものには巻かれろだ。あたり近所を見まわして、いちばん強そうなヤツに従う。これこそ日本の対外政策の、狡猾ではなくて悧巧、無原則ではなくて実際的、奴隷的ではなくて国際協力、――何とめでたいことではないか」


「めでたし日本」1998.2/ 18加藤周一さん著


「佐川急便」さしあたり


「ぼくたちも運動を始めようかな」、と久しぶりに訪ねてきた高校生がいった。

「どういう運動かね」、と私は訊いた。

「大日本上申書推進会。スピード違反か何かで捕まったら、警察へ出頭しないで、上申書を送る。名誉会長は金丸先生」

「なるほど思いつきだ」

「上申書の送付は、佐川急便。その代わり『同志の陣中見舞金』をいただく・・・」

「そうして『世間を騒がせる』か」

「そのことは『厳粛に受けとめ』ていますよ」

「そこで会長が辞意をあらわし、会長代行が慰留する。会長代行が辞表を出して会長が慰留し、二人ともやめなければ、厳粛に何も変らず、誠心誠意元の木阿弥・・・」

「もとのもくあみ?」

「英語に訳せば<the system works>だ。つまり<体制は機能している>ということになるはずだったが、惜しいことに世間を騒がせすぎた」

「世間は騒いだのではなくて、怒ったんでしょ」

「それでさすがの体制にもヒビ割れが生じた、というわけだろう」

「『体制』って何ですか」、と高校生は質問した。

「それは、君、学校で聞いたんじゃないの?」

「憲法とかいろいろ社会科で習ったけれど・・・」

「いや、憲法じゃない、憲法を自由自在に解釈するのが体制だよ」

「解釈することではなく、変えることが目的であろうに」

「おや、オツなことをいうじゃないか。誰から聞いたんだ?」

「誰からって、マルクスですよ」

「古いねえ。敗戦の後やがて半世紀、日本国の体制の論理に従えば、解釈か、改憲かではなく、解釈即改憲、改憲即解釈なんだよ。あれかこれかの西洋的・近代的・合理主義的・二元論的対立を、禅を媒介として弁証法的に止揚し、色即是空、空即是色の境に入ったのが、今日の日本だ」

「それ、何だかわからないな」

「当たり前さ。われわれ大衆には何がなんだかわからないというところが体制の妙味じゃないか」

「体制とは要するに・・・」

「要するに一党支配の体制だ。支配は官僚機構を通して成り立つ。政権交代がなくて半世紀近くも経てば、与党の代議士と役所との関係は、水魚の交わりだ。選挙で勝つにはカネがかかり、カネは大きな会社から来る。その代わり政府与党は会社の便宜を図るというわけで、多数党と財界との関係も、甘きこと蜜の如し。世にいわゆる『癒着』の現象が生じて、体制の核ができる。その三つの成分、政・官・財をむすびつけるのは、核内の『強い力』だ。核の外には『弱い力』で核に引きつけられたさまざまの組織が、核の周囲を廻っている。ロッキード事件の後『大物』への態度が甘くなってきた検察、地方選挙で与党と同じ候補者を推すことの多くなってきた野党、国鉄の民営化すなわち国鉄労組の解体以後、戦闘力を失った労働組合、役所の『記者クラブ』や広告会社と密接不可分の新聞・TV、政財界ともちつもたれつの暴力団・・・・。そういう周辺部の組織の中心権力に対する批判的機能が次第に失われ、抵抗力が次第に弱まり、すべてが中心部へ吸いよせられてゆくというのが、体制の構造だろう。もっと詳しくは、金丸さんか竹下さんに訊いてくれ」

「でもその体制にヒビ割れが生じた?」

「それは外部から急に体制中心部へ近づこうとする会社がきっかけになったのさ」

「だから佐川急便」

「つまらぬ洒落をいうなよ。『リクルート』も急成長の会社だった。適度の賄賂が体制の調和。過度の賄賂は目立つからね。『メディア』も怒り、大衆も怒る」

「怒ってどうなるんですか」

「まあ、どうにもならないだろうねえ。野党は半分与党だ。『ストライキ』のできる組合もなくなった。外堀の埋められた後で今さら怒ってみても、怒りのもって行きどころがないじゃないか」

「でも選挙があるでしょ」

「そうさ。しかし選挙の時期を決めるのは、多数党だ。ヒビ割れを修復した後での選挙だろう」

「修復?」

「修復の手段は、二つある。第一、ほとぼりがさめるのを待つ。この国では同じ話題が一年続くことはめったにないからね。第二、小選挙区制。何がなんでも、これなら与党の絶対多数は保証つきだろう」

「何とも悲観的な話ですね」

「なに現実的なだけさ」

「それなら現実は暗いなあ」

「Something is rotten in the state of ・・・・・」

「また英語か。オレ、英語は苦手なんだ」

「気をつけろよ、そのうち入試の問題に出てくるぜ。次の空欄に一つの国名を補って文章を完結させよ。とにかくこの国では何かが腐敗している。この国とはどこの国のことか、とね」


1992年10月21日加藤周一さん著

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日本・・・いろいろな問題や矛盾が山積みですね(^^;

2009/7/18(土) 午後 11:19 [ 浜周 ]


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モンテ・ヤマサキ
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