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週末、初めて弦楽器屋さんに行った。
1/4サイズのヴァイオリンを落として、
駒が割れ、魂柱は中でカラカラ転がっていた。
名古屋のマンションの一室に店を構え、
他の部屋の住人か、エレベーターでフィリピン人らしい人と
乗り合わせる。半ズボンの足の刺青は本物だろう。
ここは住居としてより、商業用に使われている部屋も多い。
私の使っているヴァイオリンは、一人で量販店に行き、買ったもの。
子供の使っている1/4サイズのヴァイオリンは、
教室に以前通っていた人の子供時代のものをお借りしている。
こんな工房らしい場所に来るのは初めてで、
マンションの一室が異空間だった。
一面の壁に、奥行き三つずつほど、ヴァイオリン」やヴィオラが
2、30ほど掛けてある。窓は開けてあって、梅雨の湿気た風が
楽器を揺らしていた。
「もうそろそろクーラーを入れようと思っているんですけどね。」と、
電話の時と同じ人だろう女性が言った。
応対もこの女性だったが、一室戸の開いていない部屋から音が聞こえていて、
どうやらここに修理や調整をしてくれる人がいるらしい。
床にもソファーにも、チェロやコントラバスや、
まだ新品の子供用チェロが並んでいる。
あなたは持ち主がいるのか、と語りかける、見渡す。
とにかく楽器は静かに生々しく、そこで何かを待っている。
直してくれるの待っているのか、持ち主を待っているのか。
出来上がるまで、2時間時間をつぶしがてら買い物をして、
暑さと人に疲労した。
借り物のヴァイオリンだし、魂柱が直らなかったらどうしよう、
と思っていたが、2時間で出来上がってきた。
当然、苦労しましたよ、などとは言われず、お礼を言って帰ってきた。
楽器を受け取って、帰りの車の中で、
後部座席に置いたヴァイオリンが話しかけてきた。
楽器というのはおそろしい。
特に木を使った楽器、弦楽器は語りかける。
しかも鳴らしていなくても、そこにあるだけで語る。
調節した人の手が、または直した時の気持ちだか心が、完全に残っている。
そんな楽器が音を出すのだからまたおそろしい。
いっさい姿を見ることはなかったが、
こうして直してくれた人の、痕跡だけが確かに残っている。
惚れてしまいそうだった。
お金をかけて調整してもらうのは、こういうことか。
ぜひ壊した本人を連れて行くべきだった。
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