推理・狭山事件ノート

HP「推理・狭山事件」の作成日記

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 「新推理・狭山事件32 狭山湖4人組強盗事件」を再修正しました。「6 『1時間後』のダブルトラップ;複線思考の犯人」を追加するとともに、「9 浮かび上がる犯人像」に黒沢映画『天国と地獄』を追加しました。
 犯人は「少時様(江畑昭司さん)」を狙った犯行に見せかけて犯行計画を立てると同時に、本命の「中畑江さく」方の娘を狙ってあらかじめ緻密に計画を立て、どちらともとれる表現(ダブルトラップ)を仕掛け、見事に中刑事部長・将田次席らを手玉に取っています。この2重偽装は、事件全般に及んでいることを、ここでまとめました。
 「小学生程度」の「知能のあまり高くない」、粗雑で乱暴な「不良」の犯行、という「幼稚園程度」の犯人像はそろそろ卒園すべきでしょう。(131224 甲斐仁志)

6 「1時間後」のダブルトラップ;複線思考の犯人
 「友だちが車出いく」「子供は西武園の池の中に死出いる」「子供わ1時かんごに車出ぶじにとどける」と書かれた脅迫状を読んだ中刑事部長・将田次席らは、車で往復1時間の狭山湖(西武園の池)に1日・2日と細田所沢署長に張り込みを命じるが、徒歩で犯人が佐野屋に現れると、佐野屋から歩いて往復1時間の被差別部落関係者で車を使えそうな若者に捜査を絞っていった。実に巧妙な犯人のダブルトラップにみごとに中・将田ラインははめられたのである。
 「前の門(もん)」と書いて、「少時様」が江畑昭司さん方を狙った犯行と思わせるとともに、宛名を「中畑江さく」に修正した後は、「さのヤの門(かど)」と読ませて、40人の張り込みを佐野屋の5叉路に分散させたのと同じダブルトラップである。
 犯人は、身代金持参を「おばさん」「母親」などと書かずに「女の人」と指定し、「もし金をとりにいツて。ちがう人がいたら そのままかえてきて。こどもわころしてヤる。」と江畑さん方の母親を知っているように書き、同じ町内の被差別部落の若者が犯人であるかのように中・将田らに信じ込ませるとともに、「中畑江さく」方の長女・登美恵さんもまた犯人は知っているに違いないと思い込ませ、婦人警察官に代わって欲しいと頼んだ登美恵さんを説得して、佐野屋に赴かせている。これもまた、見事なダブルトラップであった。
 犯人は中刑事部長・将田次席らのような「単線思考」の単純な頭の持ち主ではなく、「複線思考」で仮想犯行計画を立て、偽装工作を仕組み、成功させることができる人物であることが明らかである。
 「ボールペン」と「ペン又は万年筆」の2種類の筆記用具の使用、「十文〜十文半」と「九文七分」の2種類の職人タビの使用、「ゴム紐発見現場」付近と「木綿ロープの切れ端」発見現場付近の2か所を犯行現場と思わせる偽装工作、玉石を「重石」(「子どもは西武園の池の中に死んでいる」に対応)と「塞ぎ石」(1m近くも深く掘っての埋葬)の両方に推理させる偽装工作などもまた、犯人の「複線思考」に基づく偽装工作の可能性が高いと見なければならない。
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 現役時代、私は飛行機・新幹線での出張が多く、空港や駅の売店で推理小説を買ってよく読んでいたが、内田康夫氏や西村京太郎氏の小説を買って読み、最後になってようやく前に読んだことに気付き、自分のアホさかげんにがっかりすることが何度もあった。
 今回、狭山事件の犯人が推理小説を読んで真似をしたのではないか、という仮説を立て、ホームページで狭山事件より前の営利誘拐事件の推理小説を検索し、帰省途中の新幹線の中で仁木悦子氏の『黒いリボン』を読んだ。半分位のところで、高校か大学時代に読んだことがあることに気付いたのであるが、これまで完璧に忘れていた。
 真犯人もこの小説を読んでヒントをえたに違いなく、「新推理・狭山事件16 犯人は推理小説ファン」に次の加筆を行うととともに、関係か所の修正をおこなった。(131228 甲斐仁志)

 5.仁木悦子氏の推理小説『黒いリボン』の脅迫状
 日本初の本格的な女流推理小説家の仁木悦子氏は、狭山事件について、「稚せつな脅迫文は、あくまでこじつけで知能の遅れた人ではない。むしろ犯罪については異常に頭のさえた持ち主に違いない」という興味深いコメントを5月5日の埼玉新聞に寄せている。
 氏は『猫は知っていた』で江戸川乱歩賞を受賞したのであるが、営利誘拐をテーマとした『黒いリボン』(昭和58年角川文庫)を狭山事件の5年前に書いている。そこには、次のような脅迫状が登場する。

――子どもを連れて行くから取りかえしたくば金をつくれ。三百万円つくれ。警察にゆったらしょうちせぬ。警察にゆったら子供の命はない。けいさつや他にんにゆえば、女の子もゆうかいして殺すとおもえ。国ちか主じんへ                     ブラック・リボン――

 この脅迫状は新聞や雑誌などの活字を切り張りしたもので、「警」には「驚」、「連」には「運」の文字が貼られ、「教養のない人間がやった」と推理されている。
 狭山事件の脅迫状とは次のような類似性が見られる。

          小説『黒いリボン』と狭山事件との類似性(表省略)

 このような類似性は、単なる偶然といえるであろうか?「新推理・狭山事件46 脅迫状の12の偽装工作 4 犯人は推理小説マニア」の「図表3 営利誘拐事件で犯人が真似した事件や推理小説・ドラマ」で明らかにしたように、営利誘拐事件では映画や小説を真似た、という事件が多い。狭山事件の真犯人もまた、この仁木悦夫氏の『黒いリボン』を真似した可能性が高い。
 私が特に注目したのは、「他にんにゆえば」という表現であるが、この小説では、犯人は被害者家族が親しい人間に相談されたら困る事情があった。
 狭山事件の脅迫状にも「気んじょの人にもはなすな」という特異な表現があり、犯人が近所の人に話されたら困る事情があって指示したのか、それとも、そう思わせる擬装工作は、「犯人が近所の人なのかどうか」という重要な手掛かりになった。
 前著『狭山事件を推理する』では、犯人がわかりにくい中畑家を特定でき、しかも自転車がいつもの場所に返されていたことから、真犯人は「中畑家の近所の人」と推理したが、「新推理・狭山事件」においては、真犯人は「江畑家の近所の人」として「被差別部落犯」を擬装するとともに、「中畑家の近所の人」として山田養豚場関係者を仮想犯人としてでっち上げるダブルトリック(2重偽装工作)と考えるようになった。真犯人は江畑・中畑両家の「気んじょ」ではない安全圏にいて、なおかつ、夜間に裏道から中畑家を特定でき、善枝さんが自転車を停める場所を知っていた、中畑家に出入りしたことのある人物、という推理に変わってきた。
 この「気んじょ」が犯人の独創的な工夫なのか、それとも模倣なのか、気になっていたのであるが、仁木悦子氏の『黒いリボン』の脅迫状をヒントにした可能性が高い、と考えるに至った。
 『黒いリボン』の内容を紹介するわけにはいかないが、幼児営利誘拐は擬装で、動機は殺人というのは、まさに私の狭山事件像そのものである。
 また、『黒いリボン』には脅迫状から指紋が検出できることが書かれており、真犯人はこの本から知識をえて、軍手をはめて脅迫状を書いた可能性が高い。

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