読書の愉楽

吉澤嘉代子の「女優」の歌詞にゾクゾク。美しくて残酷。

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 ハイチの歴史には詳しくない。何があったかは、良く知らない。そんなぼくでも、本書を読めば自ずとハイチが辿ってきた暗い歴史を知ることになる。

 タイトルになっている「デュー・ブレーカー」とは拷問執行人のことだ。独裁者デュヴァリエのもとトントン・マクート(秘密警察)が政権に反する者たちを逮捕し、拷問し、殺害した。その数3万人。本書で描かれる九つの短編のほとんどは現代が舞台であり、いわば独裁政権の暗黒時代は過ぎ去った出来事として描かれる。しかし、その傷痕はまだ生々しい。

 かつてのデュー・ブレーカーは、いまも生きている。生きて普通に生活している。彼は、もう罪を犯していない。良き夫として、良き父親として真っ当な人生を歩んでいる。しかし、彼はそう遠くない昔に多数の人間を殺害しているのである。それも残虐な方法で。

 過去は消せない。その事実は決してなくなることはない。しかし、覆い隠すことはできる。その真実がさらけだされる危険は常にあるのだが。そして、そこに葛藤がうまれる。過去に犯した酸鼻な事実。自分は血まみれだ。罪は消えない。生きていく上で、何気ない日常を過ごしていく上で、その暗黒がいつも自分の側にいる。

 罪は人生に寄りそう。人であるならば、自分の犯した罪を背負って生きていく。妻は夫を、子は父を愛しながらも、滲みでてくる罪の匂いに心乱れる。決して過去は消せない。その事実はなくなることはない。

 人はいつでも「デュー・ブレーカー」になれる。それは簡単なことなのかもしれない。強者と弱者がいれば、自然と強者側につこうとする自分がいる。その場を乗りきれるなら、少しくらい自分の信念と違えていたとしても目を瞑って強者につこうとしてしまう。極端なことをいえば、自分が痛めつけられるなら、家族が痛めつけられるなら、それを回避しようと間違った方向へ進むこともありうる。いまはただ、そういう状況にはおかれていないというだけのことなのだ。

 それは大きな渦だ。起こってしまえば必ず巻き込まれる。永遠に続く平和などない。もし、この日本が独裁政権のもと、トントン・マクートやゲシュタポみたいな秘密警察の横行する国になったとすれば、ぼくは、ぼくは。。。

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