「次々に明るみに出たカローシの問題。このままでは日本があぶない」──昨日(6日)の夜、TBSの「池上彰と考えるニュース総決算!2017─罫線ニッポンが”危ない”」を見た。
その中で、最後のテーマとして「働き方改革」が取り上げられた。
政府が「働き方改革」を強調しているが、その契機となったのは、過労自殺をした電通の高橋まつりさん(当時24歳)、4年前に過労死したNHK記者の佐戸未和(当時31歳)さんの事件だ。
先進国で「過労死」があるのは日本だけである。「過労死」は英語で「KAROSHI」。つまり欧米では「過労死」という概念がないのである。「死ぬまで働く」という常識は欧米にはない。
番組では、まず欧米と日本の「働き方の違い」を、歴史的にふりかえる。
高度成長の時代、日本のサラリーマンは「通勤ラッシュ」「企業戦士」「モーレツ社員」「気合・根性で目標達成」「深夜に営業研修」で、朝から深夜まで働いて「男が仕事で、女が家を守って」というのが当たり前だった。
欧米式としては、昔の産業革命の例をひきあいに、イギリスでは、人手が足りない分、女性も子ども働いたとする。(比較するには時代が離れているが、日本の働き方が、それほど前近代的だということだろうか…)
そして、日本では、「モーレツ社員」たちが高度経済成長をささえてきたが、今では団塊の世代がごっそり引退して働く世代が減少し、限られた人に長時間労働のしわ寄せが押し寄せ、過労死が生まれるようになったとしている。
しかし、私は、「モーレツ社員」「企業戦士」など、外国ではありえない“会社のためにすべてを捧げる”という日本独特の“企業風土”が引き継がれていることが過労死を生む要因のひとつではないかと考える。
そして、働き方の違いは、他にも。
「外国人に聞いた働き方」では、「日本の企業では当たり前、欧米にないもの」として、「サービス残業」「朝礼」「入社式」「人事異動」「定年退職金」の5つを挙げ、それぞれ外国人に聞いてみた。
「サービス残業」についてアメリカ人男性に聞くと「サービス残業ってなんだい?」「えっ何も支払われないの?」と驚き、「(自分の国では)そんなことはありえないね」と語った。
「朝礼」については、ノルウェー人の2人は「しませんよ、軍隊じゃあるまいし」
「入社式」についてイタリア人男性は「いいえ、ありません。ただ入社します」、デンマーク人は「入社するタイミングがバラバラだから、そんなことしないよ」と答えた。
「人事異動」について、ドイツ人は「全くないね。想像すらできないよ」
フランス人の男性は「全く違うポジションに異動なんて絶対ないよ」と語る。
欧米では「人事異動がない」という点では、欧米は、自分の選んだ仕事をずっと続ける「就職」であるのに対して、日本は、会社に入って職種を振り分けられる「就社」である、という点もなるほどと思った。
「定年退職金」についてはデンマーク人の男性は「そのままシンプルに退職して終わりですね」オランダ人男性は「オランダにも退職金制度があったらうれしいね」と笑いながら話した。
やはり、日本の労働事情で外国人がびっくりするのは「過労死」とともに「サービス残業」だろう。多くの外国人は、「日本では、労働者が軟禁されて奴隷のように働かされているか」と思うらしい。
なお、「退職金」については、番組では説明されていないがデンマークでいえば、退職金がなくても、生活するに十分な年金が支給され、医療や介護は無料だし、葬儀費用も国が支援する制度がある。オランダも退職時の給与を基準に相応の年金が支給され、やはり社会保障も充実している。そのため、老後を過すためにということでは“退職金”は必要ないのである。
日本では、年金がどんどん減らされ、医療・介護など社会保障も毎年「抑制」され負担ばかり増えている。そんな中で、退職金も減らされ、見直されようとしている。
番組では、さらに日本は効率よく働いているのかどうか、という点を掘り下げる。
世界のGDP(国民総生産)で日本は、アメリカ、中国に次いで第3位。
しかし、労働生産性(社員1人がいかに効率よく利益をあげたか)については主要先進国7ヶ国の中では1970年から45年間ずっと最下位7位だと説明。
では、労働生産性で第3位のドイツと比べたらどうか。ドイツは日本と同じ第二次世界大戦の敗戦国であるとともにものづくり大国でもある。
労働時間は、年間で日本は1719時間、ドイツは1371時間で約350時間短い。「350時間」というのは約2ヶ月分休みが多いということだ。
するとゲストの柴田理恵さんが「私のドイツの友達は1か月くらい旅行に行くんですよ」と言うと、池上氏は「ヨーロッパ諸国では夏休み1か月はごく普通なんですね」と言っていた。
番組では、そこまでやっていないが、ヨーロッパ諸国の多くは、経営者は社員に「一ヶ月の夏休みを与える」などの法律があり、もし与えなかった場合は「給料を一ヶ月間倍にしなければならない」という罰則がある国もある。また、北欧では、多くの人が「サマーハウス」という別荘を持っていて、長い夏休みをそこで過す。貸し別荘が多くある国もあり、デンマークでは、貸し別荘が25万棟もあるそうだ。
番組では、ドイツを代表する企業の働き方として、ドイツ南部に本社があるスポーツブランドの「PUMA(プーマ)」を紹介。
社員は、皆カジュアルなファッションで仕事し、午後3時になるとぞろぞろ帰宅する人たちが映る。その出口で社員が、ICタイムレコーダーに社員証をかざすと、残業時間の合計が出てくる。この残業時間が、銀行の口座のように、「年間120時間」まで貯められる。それを有給休暇に使ったり、早く仕事を切り上げたりできるのだという。その際に「早く帰る」と上司に言わなくてもいいそうだ。
この「労働時間貯蓄制度」は、ドイツでは8割の企業が導入しているという。
ドイツで認められている労働時間は通常1日8時間。企業が労働時間を積極的に減らそうとしているのは、ドイツの「厳しい法規制」があるからだという。プーマの人事部長ディートマール・クネース氏が語る。
「行政が労働時間を厳しくチェックしており、悪質な違反をすると経営者側が罰金や1年間の禁固刑になる場合もある」
労働時間が限られているから効率的な働き方が必要になっているのだという。
日本が、そんな国であったら、高橋まつりさんや佐戸未和さんなどの若い尊い命が失われずにすんだかもしれない。
もっと、テレビでも、新聞でも、日本の世界でも異常な「働き方」についておおいに取り上げるべきではないかと思う。ヨーロッパは地続きなので、隣の国と労働時間や社会保障に格差があれば国民は黙っていないと思う。ところが、日本は島国で、なかなか遠いヨーロッパとの違いが実感できないし、マスメディアも遠慮して取り上げてないように思う。
「働き過ぎて死ぬ」──「過労死」が、世界でも特異な日本だけで起きていること、「サービス残業」も日本だけにしかないこと、そのことが国民的な大問題となり「なんとかしなければ世界から取り残される」という認識になることが必要だ。
池上彰氏の番組の中では、日本の労働時間は、「年間1719時間」とされているが、私がしばらく前の労働問題での講演で聞いた話では、日本の正社員の年間労働時間の実態が「約2000時間」で、ドイツやフランスと比べると「400時間」、およそ「1.25倍」も長いと聞いた。しかも、それは正規労働者だけで、いまや日本で3人に1人、若者や女性では2人に1人にのぼる非正規労働者の労働条件は度外視されている。いまや「非正規でも長時間労働」という例はざらにあるとのことだった。
いま、政府は「働き方」改革を積極的に推進すると言っているが、おぼろげに見えてくる内容は、サービス残業を合法化したり、解雇を自由化したり、正規社員を非正規に置き換えられる仕組みづくりなど、結局は大企業に都合のいい「労働の規制緩和」と一体となった「働かせ方」改革とよんでもおかしくないメニューも含まれている。
一方で、日本と違い、「過労死」や「サービス残業」という言葉もなく、あたり前の「働くルール」がすでに確立しているヨーロッパ諸国では、さらに、労働時間の短縮にもとりくんでいる国もある。
スウェーデンでは、この間、社会として「6時間労働制」「週30時間労働」をめざし、その移行ができるかどうかの実験が行われている。
市段階で6時間労働を実施している市もある。ゴセンバーク市だ。
市では、40年間、週40時間労働(1日8時間労働)がとられてきたが、近年、病欠や早期退職が増えていたという。さまざまな議論の上で「6時間労働」に踏み出している。
当初、周りからは「理想主義に目がくらんだ過ち」「経済的競争力を失い、財政難に陥る」という反対の声もあったという。
しかし、実際には、労働効率も良くなり、当初「労働時間を短くすれば人を増やさなければ、と思っていたが実際は効率が良くなり人を増やさなくても大丈夫だった」という声も。また、労働者からも「子どもと過す時間が増えて、元気を取り戻すことができた」「家に帰ってから趣味やスポーツに時間を費やすことができて、そのことで仕事に集中できるようになった」などの声が出るなど、労働意欲の向上にもつながっている。
そして、驚きなのは、このスウェーデンの「6時間労働」のさきがけとなった会社が、なんと、日本のトヨタ自動車のサービスセンターだったというのだ。
スウェーデン南部のヨーテポリ市にある、トヨタサービスセンターでは、今から14年も前に6時間勤務制を導入した。従来は午前7時から午後4時までの8時間労働勤務だったが、従業員にかかるストレスが大きく、現場でのミスが多発したため、顧客からのクレームも多かったという。そのため労働環境の改善が必要だと、「1日6時間勤務シフト制」「週30時間制」を導入した。
そのことによって従業員のストレスが軽減されることで健康が改善され、仕事の質が劇的に変化し、生産性が向上し、利益率も25%増加したという。さらに従業員が家族と過す時間が長くなり、ワークライフバランス大幅に向上したという。離職率も下がり、人材の確保と面でも効果があるという。
スウェーデンにあるトヨタのサービスセンターができたことが、日本でできないわけがない。
日本にしかない、世界でも異常な「過労死」「長時間労働」「サービス残業」の根絶は、日本が世界で「普通の国」となるための国民的な課題である。
いまこそ、大企業のための使い勝手のよい「働かせ方改革」などではなく、労働者のための本当の「働き方改革」に足を踏み出すべきである。
そのための「働き方改革」は、第1に、社会として労働者を守る「働くルール」をきちんと確立することである。ドイツでもあるような「法規制」をすること抜きに「改革」はできない。そのうえで、第2に、大企業が企業の社会的責任を自覚し、その責任果すことであり、そのために、国民やメディアが企業に対して厳しい目を向けることである。
まずは、世界でも「異常な働き方」を改め、他の先進国なみに「普通の働き方」のできる国になることであろう。