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一 出会い
夕方、学校のグラウンドで僕とヒデ、それにうんと年は 小さいのだけれど二年生の史雄と遊んでいた。
その日は、グラウンドから夕焼け富士が見えた。僕たちの学校は新設校で芦の沢小学校っていう。僕たちの住んでいる区域は鶴沢市と茅ケ崎市が共同で開発したから両方の市から生徒が集まってしまった。それで神奈川一のマンモス校になっちゃった。 僕のとなりに住んでいるヒデはサッカー部だった。でもいや気がさして部をやめた。毎日ブラブラしていた。 僕は、とうちゃんが、よけいなことはするなっていうもんだから、ただ走るのだけを趣味にしていた。 「だいたい、サッカーや野球は小学生のくせに練習をやりすぎる」 ってとうちゃんはいう。 「週に三回くらいがちょうどいいのに、やつらはゲツゲツキンキンだ」 そういってとうちゃんは怒る。これなんだかよくわからない。 毛羽のすり切れたテニスボールで野球をしたり、傷だらけのサッカーボールでドッジボールをしたりしていた。あきちゃってヒデとちょっとしたケンカをした。仲直りをして、またこづきあいをしていた。そのとぎヒデが指さしていった。 「見ろよ。やってきたぜ」 その人がグラウンドにやってきた。その人の着る白いジャージーが夕陽を浴びてオレンジ色に見えた。白いピーナッツのようなボールをもっていた。僕たちは遠くからその人が走るのを見ていた。小さな人だった。後で、その人のポジションがスクラムハーフといい、ラグビーでは、体がそんなに大きくなくても、こなせるポジションなのだと教わった。とにかくヒデと僕は、その白いボールのきみょうさにとりつかれていた。その人が蹴るとまっすぐ飛んでいく。バウンドするとどこへころがっていくかわからない。でも、その人には行方がわかっているのかあやまたずに追う。それでトリモチが手についているようにボールをひろっていく。 「蹴ってみてえな」 僕がもらした。ヒデが、 「あんなの気持ち悪い。でっけえキュウリみてえだ」 と横をむいた。ヒデが、「気持ち悪い」、というときは、決して気持ちが悪いのではない。ヒデは性根が悪いから本当のことをいわない。てれて反対のことをいっているのだ。僕はヒデがボールを蹴りたがっているのを知っている。その証拠に、目をキラキラさせていたもの。そのときボールが僕たちの目の前に飛んできた。 「オーイ、そこの二人、ボールを蹴ってくれないか」 その人は僕たちに声をかけてくれた。 なのに逃げ出した。なんで逃げ出したのか今もわからない。遠くから練習してんのを見ていた。白いボールは夕空になんども蹴りあげられた。そのボールをとったやつがいた。 「あいつきたねえ」 ヒデがグラウンドの土を蹴った。僕より三つ下の史雄だった。こいつ運動神経がよくって二年生なのにサッカーがやりたくってうずうずしている。でも入部は三年生からしか受けつけてもらえない。それで僕なんかと遊んでいる。史雄が白いボールを蹴飛ばした。あの人の半分も上がらないけれど、すごくほめてもらってやがんの。僕だったら、もっと蹴飛ばしてくれるのにな。なあ、ヒデ。と、後ろを見たらヒデが歩きだしていた。 「どこへいくんだ?」 「帰る」 二人で肩をならべて帰りはじめた。と、サッカー部の佐々木君に、 「やーい、二人でくさってんのかよ」 とやじられた。見るとサッカー部のやつらが試合から帰ってきて、グラウンドに勢ぞろいしているのが見えた。 「ちがうわい。ピーナッツボールを蹴っていたんだ」 「なんだそれ」 佐々木君の声があれている。 「宿題やったのかよ」「遊んでんじゃねーぞ」 と口々に僕とヒデのことをからかってくれる。こんな日は試合に負けたんだ。 「それより、なんでグラウンドにならんでいるんだ。今日は練習休みだろう」 僕はそう返してやった。するとサッカー部のみんなが黙ってしまった。やっぱり試合に負けたんだ。そこでこれから特訓が始まるんだ。 僕とヒデは帰るのをやめて、テニスボールでキャッチボールを始めた。サッカー部のやつらがしぼられるのを見てやろうと思った。 「こらあ、どかんか。一般児童が校庭にいていいのは五時までだ。早く帰れ」 そう僕らの後ろでドラ声を張り上げたのはサッカー部の小針先生だった。この先生のことを裏ではだれも小針とはよばない。小骨とよんでいる。なぜならよく喉に刺さることを平気でいうからだ。 それでも平気でキャッチボールしてたら、小骨に横取りされてしまった。 「明日、職員室へとりにこい」 小骨はそういってボールをポケットにしまいこんだ。ヒデはくやしさで目を赤くした。僕もこんなことってあるかと思った。鼻がつんつんしてきた。ヒデはこの小骨にいじめられてサッカー部をやめたのだ。やめるときの態度が悪いといって未だに小骨はヒデに意地悪をする。ヒデも意地になってるから態度が悪い。 「わかってんのかその二人」 小骨が怒鳴った。なにも怒鳴ることはないだろう。でもここいらがしおどきだ。僕とヒデは裏門に逃げた。そこに、あの人が立っていた。じっと立って僕らのなりゆきを見ていたらしい。僕らはそばをすりぬけた。こんなところを見られたのがはずかしく、逃げるようにして家に帰った。 ヒデんちは僕んちのとなり。ヒデのとうちやんは東京へ働きにいっている。ヒデの名前は酒井秀和。名前負けしている、と、うちのかあちゃんはいう。ヒデとはケンカばかりしている。ヒデは昨日、算数で七十五点とったってえばってやがんの。 僕なんか毎日、店番やってるから算数の分数計算なんか学校で教わることないと思っている。だって3分の1のリンゴと5分の3のマンジュウをくださいなんてお客さんいないよ。 その晩、僕は夢を見た。白いボールを蹴ると胸がスーッとする夢だった。すると小骨が出てきて怒鳴ってくれた。 翌日、学校でヒデにいった。 「あのおじさんこねーかな」 「史雄が次は金曜日にくるっていってた」 ヒデは史雄にちゃんと聞いてやがった。ヒデはそんなところがある。きたねえんだから。 ②につづく 写真の一番バッターは東広島ジュニアラグビースクール |
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2013年06月01日
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