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『ミラクルムーン』
ラスベガスで迎えた満月の話しです。
もうずいぶん昔のことになるのですが、グランドキャニオンへ出かけた時のことです。小型遊覧機に乗って壮大な峡谷の景観を楽しもうということでした。一行は10人。飛び立った飛行機は15機です。飛行機に酔う人が続出しました。パイロットはベテランで低空に降りていきます。崖すれすれを飛んでくれます。歓声の連続でした。景観を満喫していよいよ着地という段取りになって雲行きがおかしくなりました。飛行機の編隊がグルグル旋回をくり返しているのです。パイロットがなにやら交信しています。彼が客席を振り返りました。私に指を曲げてこっちに来いと言ってます。 「仲間か?」... 「みんな日本人だが知らないのもいる」 「通訳してくれ。先頭機がエンジン不調で着陸態勢に入れない。様子を見るからもう少し旋回する。10分ほどだ」 「先に降りられないのか」 「僚機を残してか。そんなことができるか?」 冗談じゃないよ。傷ついた戦闘機は母艦に着艦させないのが海軍の決まりだぜ。妙なヤンキー魂だな、と思いながらマイクを握り、 「えーっ。この飛行機はしばらく旋回します。愛する者の幸せを願って祈れ。隣の夫や妻の手を握れ」 とやりました。とたんにキャーと悲鳴です。薬が効きすぎました。 「心配するな。死ぬなら俺も一緒だ。今までこの上空では一機も落ちていない。気流は安定してる。辺りを見てみろ砂漠だらけだ。滑走路は一杯ある」 とやりました。俺も一緒だなんてショッテますよね。新婚旅行の二人連れもいます。不倫らしいカップルも、老夫婦もいました。ホッとしています。 「おい、着陸だ。エンジンがなおったようだ」 とパイロットから声がかかりました。 「さあ、着陸だ。助かったぞ」 と思わず叫びました。正直、私は青ざめていたんです。無事着陸しましたがみんな声がありません。
「なんだこれしき。みんな日本人じゃないか。胸張って降りようぜ」 機中酔いしたのを担いで降りました。足が地上に着いてそのままへたれそうになりました。 休憩に当てられたレストランに旅行社の案内人が居て、
「帰りの便がエンジンの不調で数機欠航になりました。バスを用意しております」 と告げられましたが誰も不満を言う者はいませんでした。一息ついたところで、 「ところでここの飛行機は落ちないのですか」 と私の案内していた3人組の一人が聞きました。と案内人が、 「いえ、ちょくちょく落ちていますよ。.気流が悪いんです」 とさらりと言ってのけたのです。サッと冷たい視線が私に飛んできました。嘘がバレたのです。私は素早く帰りのバスに乗り込みました。後部座席でバーボンをがぶ飲みして眠ってしまいました。 ホテルに着いてみんなを敬遠しておりましたが、老夫婦が近づいて来て、
「ちょっといいかね」と声をかけられました。緊張しました。 「私どもはもう人生の仕事を終えているのでここで亡くなってもどうってことはない。咄嗟に覚悟をした。だが、あなたはまだ若い。ご家族もおありだろうに、あの胆力には参った」 とつくづく感心したように言われました。聞けば某ラジオ局の社長さんでした。アメリカにゴルフ場を建設したいので視察にきているとのことでした。観念しました。 「あれは口から出任せの嘘で何とか落ち着かせようとしたのです。ジョークが通りませんでした」 と素直にわびました。と、 「気に入った。東京へ戻ったら訪ねてこんかね」 と言ってもらえました。その時、 「ラスベガスで満月が見られるなんて」 と奥方が外をご覧になられました。妙に赤く見える月でした。 東京でこの老人に会うとまだ焼ける前のホテル・ニュージャパンの「寿司六」へ連れて行かれました。肴をつまみながら、
「もう一度、ベガスの赤い月を見たいもんだ」 と言われて閉口したものです。 グランドキャニオンの景観
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2014年11月08日
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