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『訪ねてきてくれた女(ひと)』
その日は朝から氷雨だった。東京は濡れて冷え込んだ。
...
「馬場さん。今、羽田に着いた。すぐに行って良い?」 午後に入って一番にかかった電話だった。私は生返事をしたように思う。私自身も羽田に朝早く着いてホテルのベッドでもうろうとしていたからだ。 彼女は大柄で豊満な肉体を泳がせながら近づいてきた。そうして半オクターブ高い声で、
「やっと会えた」と叫ぶように言った。ロビーには多くの客がいたけれど彼女はおかまいなしだった。 私は夕方から弁護士との打ち合わせを控えていたので、手短く切り上げるつもりだった。お茶でもと誘った。空腹なのではないかと聞いて見た。彼女は否定しなかった。ホテル自慢のカツサンドをとった。「外は寒かった」と口を切ってからの彼女は饒舌だった。 ツイッターなどで彼女の発言を知っていたので、それからの話に私はあまり驚かなかった。しかし、胸をしめつけられたのは母親が亡くなって資産家だった母は息子達に財産をむしり取られた。彼女には異父兄が何人もいたのである。彼らがやってきて次々と母親のめぼしい品物を持ち去って行った。幼い彼女は身ぐるみをはがされていったのである。 「文句を言わなかったの?」 「仕方ない。それが朝鮮のしきたりだと思ってた。家長制度の朝鮮。男の言いなりだった。普段は仲の良い兄妹なんだけど、容赦なかったわ」 彼女の名は城島・Erika、もちろん仮ハンドルネームだ。大阪で在日二世として生まれた。しかし、反日色には染まらなかった。もちろん日本人の差別イジメにはあったけれど「それがなんやねん」と跳ね返していった。大阪は在日の多いところ。ここで出自を隠すか、晒すかに迫られる。Erikaは自然に任せた。
「日本が好きだし。友達はほとんどが日本人だし、それでいやな思いをしたことはなかった。差別は自分が意識するからやと思い出した。すると何かが晴れた」 と言ってErikaは顔を上げた。笑っている。美しかった。 「明日、記者会見場で」と言って別れた。だが、翌日、Erikaは現れなかった。それっきり消えたままだ。いつか世界のどこからか、 「元気にしてる? 小説書いたよ」 とまた電話が入るような気がしてならない。 ムクゲの花、韓国の国花です。
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2015年03月16日
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