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書庫卒業生

 昔私が家庭教師をメインにやっていた頃の話です。

 塾での指導とは違って、家庭教師としての私が依頼される話はどれも無理難題ばかりで、他の先生からサジを投げられた親御さんたちが最後の望みをもって依頼してくるのが私のところだったのです。
 ですから、難聴の子を教えてほしいとか全科目0点の子を平均くらいは取れるようにしてほしいとかはまだまともな方で、中国帰国子女のため日本語がしゃべれないけどなんとかしてほしいやら、やくざの組長(山口組系でした)の子どものため他の家庭教師に来てもらえないのでぜひあなたに引き受けてもらいたいやら、強烈は依頼が多かったのです。
 それらの話もいずれ書くつもりでいますが、今日はその中でもTくんの話を書こうと思います。

 私がTくんに初めて会ったのはかれが中学2年生のときで、そろそろ秋も深くなってきた頃だったと思います。
 知り合いの紹介で私のもとをたずねてきたお母さんは、「息子がちょっと暗い子なので家庭教師の先生が続きません。あの子とお話してみてくれませんか?」とおっしゃいました。
 まあそれくらいならと、当時3軒の家庭教師をしていて忙しかった私は思ったのですが、あとでその判断が間違っていたことに気づくことになるのです。

 家まで連れて行かれて息子さんの部屋の前まで行き、声をかけた後扉の鍵を開け、「どうぞ。」とお母さんの一言。
 あれ?お母さんは入らないんですか?
「いえ、私は入ることを禁じられていますから。」
 へ?誰に?
 しょうがないので言われるままに部屋に入ると、大きなベッドの上で三角座りをして壁を見たままじっとしている男の子が一人。

「こんちは。」
 ・・・・・・。
「はじめまして。いきなりでびっくりさせちゃったかな?」
 ・・・・・・。
「私は小村といいます。実は、家庭教師をやっているんだ。」
 ・・・・・・。

 見事に無反応です。
 反発とか無視とか拒否とかではなく、もうまったく私のことが眼中にないようでした。
 つまり、空気よりも存在を感じてもらえなかったわけです。
 驚いた私がお母さんたちに話を聞いたところ、「2年生になった頃から友達がいなくなった。学校にも行かずに1日中ああしている。食事はドアの前においておいたらいつの間にか食べている。」とのこと。
 家族とまったくしゃべらず、トイレに行くときに会う妹とのみ少し話すとゆうことでした。
 その話を聞いて、「この子にはオレが必要なんだ!」とガラにもなく燃え上がってしまいまして、その場で引き受けてしまいました。
 ただ、条件をひとつ出したのです。
 条件とは、「これから1年、何があって私のジャマをしないこと。」
 そして彼のことをできるだけ詳しく聞いた私はひとつの作戦に出たのです。

 私は毎日彼の部屋に赴き、1日きっかり2時間彼の部屋のテレビでファミコンのゲームをしたのです。
 彼のお姉さんの話によると、隣の部屋(彼の部屋です)から毎晩ゲームの音が聞こえてくるのだそうです。
 それも朝まで。
 で、私はとにかく最初の一言を話すために、彼の目をこちらに向けることから始めたわけなのです。
こむりん先生
こむりん先生
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