小説の習作

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(三十二)

 人は何事かに集中している時に、遠くの方から呼び掛けられて

も驚きはしないが、すぐ後ろで呼ばれると、たとえ小さな声であ

ってもビックリする。それは声の大小に因らず声を発した人との

距離の近さに驚くのだと思う。人がすぐ後ろに居ることに気付か

されることは本能的な恐怖を目覚めさせる。人が他人との間に許

容できる距離はその親密さに比例する。たとえば、出先で急に「

もよおし」て、開店直後のデパートの上の階なら、客の姿も疎ら

で気兼ねなく用を足せるだろうと思って、エレベーターに飛び乗

って、思い通りの閑散とした広い「催し物」フロアを抜けて、案

内を辿って目指すトイレに駆け込んで、耐え難きを耐えた「もよ

おし」を思う存分「開催」できると思いきや、何故か居る筈の無

い人がすぐに隣の空室に入ってきて、広く閑散としたフロアの片

隅の狭い個室に隣同士で、互いに気兼ねしながら排泄することな

って、

 「なにもココに来なくてもいいだろう!」

 と、思わず言いたくなる時があるが、排泄の時は人に対しても

排他的にもなる。関わりたくない者と距離の許容範囲を超えて近

づかなければならないのはストレスになる。

 タクシーの後部座席に気の合わない三人の大人が肩を寄せて座

るのは、まさにストレスそのものだった。満員電車の乗客の様に

人格を棄てて眠る訳にもいかず、なんとか和ませようと迷惑を掛

けた事をひたすら謝って、何故、河に入ったかを順を追って説明

した。すると、すっぴんの女社長が、すっぴんでいることを忘れ

たかのように突き放すような言い方で、

 「ほんとは、死のうと思ったんじゃないの?」

 と言った。私は女社長のすっぴんの顔をまざまざと見た。無意

識のうちに化粧をしている時の顔との違いを見比べようとしてい

たが、すぐ思い直して、

 「何で!そんな事する訳ないでしょ。」と言った。

 すると、それまで黙っていたバロックの彼女が、

 「いったい、社長はこの人に何をしたんですか?」と、

 すっぴんの女社長に食って掛るように言った。女社長と比べれ

ばまだまだ若い彼女は、子供が小さいこともあって普段でも殆ど

化粧をしていなかったので、化粧やけした女社長に勝ち誇った様

に聞こえた。ただ、彼女の一言は、私と女社長に数時間前に高級

ホテルのレストランで起こった顛末を思い起こさせた。そして、

女社長が、

 「まさか、あんなことで死のうとしたんじゃないでしょうね?」

 と言った。すると、バロックの彼女が、

 「ほらっ!やっぱり、あんたが何かしたんだっ!」

 と怒りを露にして言い放った。そして、彼女は、

 「もうっ!死ぬのはやめてよっ!バロックだけでいいよっ!」

 と言って、ドライバーが驚いて後ろを振り向いた程大きな声で

泣き出した。車内には彼女のすすり泣く声だけが聞こえた。

 私はどうして河の中に入ったのかを散々説明したのに、結局、

自殺をする為に河に飛び込んだことに成ってしまった。私のスト

レスは、さらに、説明しても信じてもらえないというストレスが

増えた。

 

 


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