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彼は、いわゆるイケメンじゃ無かった、という
より、どこにでも居そうな顔立ちだった。どう見て
もその容貌から、何か優れた能力を秘めて
いるとは思えなかった。ただ、その服装は奇抜
そのものであった。頭髪は、後ろにタテガミの
様に逆立たせ、ウルトラセブンの様なメガネを
掛けて、体のあらゆるところに、囚人が縛らた
鎖をちぎって脱獄して来たかの様に、ジャラ
ジャラと金属製の鎖を巻き付けていた。あの男
が、トイレの個室に入っても、後から来たもの
は、ノックする前に、誰がいるか判るだろう。
着けている服は、もはや私の説明能力の限界を
超えていた。彼が自分でデザインした服らしい
が、覚えている一部を言うと、ショッキングピ
ンクの迷彩のTシャツの上に、緑色に染められ
た白衣のようなものを着ていた。
彼は、度々、雑誌にも取り上げられる新進の
デザイナーだった。
「世界は相対的だ。それだけが絶対的だ。」
と子供の頃に持っていた名言集に、ベーコンの
言葉として載っていた。その頃は余り意味を理
解していなかったが、この頃よく頭に浮かぶ。
ベーコンという人は、イギリス人で議会の政争
に巻き込まれ汚職(?)の汚名を着せられて、
悔しい思いの中で、上の言葉を吐いて死んだ。
「世界」とは、社会のことだと思うが、社会
正義が、あるものは裁き、あるものは見逃され
る時、公平が失われ混乱する。自らの安全は、
自らで守るしか無いとすれば、「力こそ正義だ
。」と云う世界に戻る。我々は、結構危うい時
代にいるのかも知れない。
たとえば、「美しい」と感じることもまた、
人それぞれで、私が美しいと感じたものが、あ
る人にとっては鬱陶しいと感じることもある。
私はいまだに「美しい国」が理解出来ない。つ
まり「美しい」は、観察者の主観的感情で、そ
の判断は相対的である。一人のものが美しいと
思っても、他の人は退屈だと思うこともある。
美術はそれを繰り返してきた。そうは云っても
、我々は同じ社会で同じ時代を同じ言葉で、生
活しているのでそんな異質なものは社会的に淘
汰され、いずれ消え去る。しかし、その男は、
私にとって社会的淘汰をすり抜けた「異質」そ
のものだった。
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