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気が付かなかったが、彼女は眠っていた。
右肘を支えにして顔を預け、「わかる、わか
る」と頷く時の様に、軽く目を閉じながら、
顔は爬虫類の様な手の奥に深く沈め、止まっ
ていた。私は気付いた時に、何時から眠てい
たのか気になった。てっきり、話しに納得し
て聞き入っていると思っていたので、少しバ
ツがわるかった。気付かずに話し掛けていた
私も随分、酩酊しているのがわかった。勘定
を済まして、彼女に「帰ろう」と言ったが、
彼女は夢の世界にいた。肩を揺すると、微か
にいびきが聞こえた。私は、それよりも初め
て触った肩の感触に意識がいった。「こんな
に細いのか」と思った。 私は、決して肉つ”
きのいい女性が嫌いでは無いが、こうして酔
い潰れた女性を、介抱して歩かせる時は、楽
だった。
男がもし競走馬だとしたら、上に乗せる騎
手は軽いに限るし、ああっ、こんな風な相手
の捉え方もあるのか、と意味の無い事に感心
した。たとえば、何もかもに嫌気が差し、気
力も萎えた時には、一緒にいる女の存在感が
絶望的に重荷に感じることがある。二日酔い
の朝にホルモン焼きを食べたくない。そんな
時に、たとえ身体さえでも華奢であってくれ
たら、なんか気になる事の一つが消えた様な
軽さを感じる。私も酔いが回ってきた。
迷いながら来た道を、酔いながら帰った。
彼女を肩で支えながら、今度は肩以外のあら
ゆるところを触れる口実ができた。こうして
42.195Km 歩けると思った。タクシー
に放り込んで横に乗り、ドアを閉めた時、彼
女が何処に住んでいるのか知らない事に気が
ついた。いや知っていて、酔っているので思
い出さないだけか、と思い色々考えたが、や
っぱり聞いていなかった。ドライバーが痺れ
を切らして、突けんどんに「何処?」と言う
ので、とっさに、自分のマンションを告げた。
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