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有希子は、携帯にも出なかった。私は、彼女
のマンションに向かうタクシーの中で、怒り
がこみ上げてきた。幾らなんでもそれは無い
。こんな裏切りは許せない。何が何でも説明
が聞きたい。
オートロックのドアの前で彼女の部屋番号を
押し続けたが出なかった。私が来た事が判って
出なかったのか、それとも居ないのか判らなか
った。中年の女性が入って来て、怪訝そうに私
を見ながら、立ち止まった。私はドアの操縦席
を独占していた。私は謝りながらそこを空けた
。それでも怪しく思ったのか、私を見続けて操
縦席へ行こうとしなかったので、仕方なく玄関
を出た。その時、左壁の集合ポストに有希子の
部屋番号をみつけ、そこに収まり切れない程の
郵便物が届いていることが判った。その女性が
自分の部屋へ上がった頃を見計らって、もう一
度玄関に入って、そのポストから溢れてる有希
子宛ての封書を抜いた。ローン会社からの督促
状だった。
東京で暮らす多くの者は、日々の生活に追わ
れて年月をやり過ごす。華やかな都心のビル街
で装いを凝らした店舗にも、如何にして儲ける
かの算段が隠されている。普通の暮らしをして
いる者が懐具合を気にしながらでは、いくら癒
しの空間と云われても、物を買わずに見物して
終わるのが関の山で、癒されるどころか、わが
身の甲斐性の無さに「嫌さ」が増すばかりで、
居心地の悪さにストレスが溜まる。おおむね
仰々しい店は、その「仰々しさ」も値段に上乗
せされている。そんな店を次から次へと出入
りする者は、ノーテンキな金持ちか、流行に
乗ってないと自分を見失う見栄っ張りか、悩
み事を忘れる為に必要の無い物をヤケ買いす
るバカ女だ。消費は社会との共生感を満たす。
有希子は、そのバカ女だった。大きな喪失
感に苦しんで、それを忘れようと浪費した。
その失ったものを取り戻してやろうと思った。
私は、ある決心をした。
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