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季節は、北からの在庫が無くなった為、や
むなく南風を仕入れたらしく、まるで慣れな
いエアコンに手惑う者の様に、寒風と春風の
スイッチを交互に入れた。
私は、季節がスイッチに慣れた頃に、会社
を辞めた。退職金と積み立ての解約などで出
来た金で、有希子の寝ていても「忘れられな
いも」のを清算してやった。涙を流して感謝
の言葉を告げた。支払いに追われるあまり、
高額のギャラについその気になり、背に腹は
かえられず本意ではなかったが覚悟を決めた
らしい。東京は、天国かと見間違うばかりの
華々しい世界もあるが、不条理に満ちた地獄
もある。よそ見していると奈落へ落とされる。
それは、明日わが身に降りかかるかもしれない
。絶望に打ちひしがれて誰かに救いを求める自
分を想像した時、有希子を見捨てることはでき
なかった。
私は、諸星弾ことウルトラセブンに連絡を取り
、彼の近況を確かめていた。
「卒業したら帰ってるんだろう?」
「いや、こっちで仕事が決まりそうです。」
「ほう、それはよかった、おめでとう。
ところで、もうイタリア女の彼女ができた
か?」
「何言ってんですか、それどころじゃ無いっ
すよ、こっちは。」
「ところで.....」私は、彼のプライベートを
詳しく確認した。別に生活の接点がないので彼も
気軽に答えた。その言葉の端々には、以前エアポ
ートで見送った時より、自信に満ち溢れた明るさ
が感じられた。
「君は、有希子のことをまだ好きか?」
彼は、黙りこくった。
「もう一度、彼女とやり直さないか?」
「・・・・・・。」
この、点々々で私は確信した。やっぱり忘れてい
なかった。
「有希子がすこし疲れているので、気晴らしの
為、そっちへ行ってもいいか?」
「本人と話しがしたい。」と彼が言った。
私は、彼女の携帯を教えた。
しばらくして私は、彼女にイタリア行きのチケ
ットを渡した。
「帰りのチケットは無いからね」
有希子は、泣いていた。
私も実は、夢を見ようとしていた。少し残った
金で焼鳥屋を始めるつもりでいた。ちょっとした
アイデアがあったので、ただ、上手く行くかどう
かは、やって見ないとわからない。技術を得る為
に居酒屋で修行している。先輩の若い兄ちゃんに
怒鳴られて、焼鳥を焼かずに、手を焼いている。
おわり
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読了しました。
文章の上手さはさすがですね。次回作の「書を持って、街を棄てろ!」にも期待しています。
2007/8/11(土) 午後 10:19 [ - ]