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ベッドの上の暖房で、ようやく部屋が暖
まり、彼女は寝ながらコートを脱ごうとジタ
バタした。コートの呪縛から解放してやる為
に、袖から二本の腕を抜いてやり、かがんで
コートを取ろうとした時、下から腕を延ばし
て私の首に絡めた。私は何か洒落た言葉を言
おうとしたが、蛇に睨まれた蛙のように固ま
って、思わず「ゴクリッ。」と固唾を呑んだ
。両方の耳の奥でその音が響いたので、部屋
中に聞こえた様に思えた。まるでそれが、待
ち焦がれたご馳走にありつけた時に、口の中
に溜まった「よだれ」を飲み込む時の音と同
じだったので驚いた。
「抱いてほしい。」と、今まで聞いた事の
ない、せつなく囁くような声で彼女は告げた
。
男と女のコトを、子供はいつ頃から知り始
めるのだろう。テレビである歌舞伎役者が物
心が付いた時から知ってた、と言っているの
を聞いて驚いたことがある。その時代とおか
れた環境に因ると思うが、私は12歳まで知
らなかった。勃起するペニスの意味が全然、
解からなかった。勃起する度に何かの病気だ
と青ざめた。学校の休み時間に級友が、何の
脈絡もなく教えてくれた。彼にとっても驚く
べき最新情報だったんだろう。その言い方が
ひどく忌わしいものの様に言った。
「女のおしっこする穴にちんちん入れんね
んどー」
しばらく、そのことが私の頭を支配した。そ
れまでの自分の理想が、世界観が、重大なフ
ァクターを見落として構築されていた事を知
らされた。私は早速SEXに関する情報を手当り
次第、手に入れようと必死になった。その頃、
異性と勃起が頭の中で繋がった。
今のように情報が無かったので、もう一つ
リアルなイメージが湧かなかったし、なによ
りも女性器そのものイメージがなかった。も
しも、その画像が、どこそこの川原に在ると
言われたら、その頃なら何百キロ先でも、何
はさて置いても駆けつけて、何時間でも探し
ただろう。
もちろん、今は何を為るのか知っている。
彼女の上に重なって、私は、長いキスをした。
窓のカーテンがしっかり閉まってなかっ
たので、そこから東京の夜景が見えた。
すでに東京は、寝静まっていた。っと、
その夜景の手前の窓ガラスに、部屋の薄明
かりを受けて、怪しく動く自分の下半身が
映っていた。カーテンを閉めに行こうと思
ったが、彼女が漏らす甘い声に、止める訳
にはいかなかった。時折、奇妙に動く自身
の臀部を眺めながら、今まで見ることの無
かった情けない格好に、説明のつかない哀し
さを感じた。半開きのカーテンからは、激
しく腰を振る自分と、その向こうの東京の
夜景が重なって見えた。
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