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From 湘南茅ヶ崎。 イコピコのひとりごと
とんぼお姉さま。頑張れ頑張れ!私はいつも祈っていますよ!(笑)

書庫小説「ソルの椅子」・・真坂詠三

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〔7〕正義の人・・・(2)
 
 そんなふうに、まるで仮面ライダーの変身ベルトでも買ってもらった子供のようにはしゃぎまわるふたりの傍に、どこからともなくひとりの老人が忽然と現われた。老人は曲がった腰をふぅっと伸ばし、いきなり笑顔でふたりに話しかける。
「おまえさん達に教えて置かなければならない、いくつかのことがある。よく聞いて覚えておきなさい」
そういうと老人は、ふたりに冬枯れした木の頂き近くにとまっている鳥を見るように促した。
「あの鳥と『心ひとつ』になるよう、心を集中してみなさい。先ずは正雄君からやってごらん」
 ふいに自分の名前を呼ばれた正雄は、一瞬慌てたが、昨夜の光と関係している人物だと気付き、素直に聞き従って、老人のいうとおり心を集中してみた。すると心のなかの鳥は何処かへ消え失せ、なんとなく身体が軽くなったと思った瞬間、郁雄と老人を見降ろしている自分に気が付いた・・・。
「こ、これは・・・」
 下から老人がこちらに笑顔で話しかける。
「正雄君。さすがじゃな。入我我入の術を一回でできるとは。自分の身体を見てごらん」
 正雄は云われたとおり、自分の身体をチェックした。そして鳥になっている自分に気が付いた。
 
〔7〕正義の人・・・(1)
 
 どちらが先に目覚めたのか定かでは無かったが、、東側のテントの色が明るく光を映す頃に、寒さに眼をこじ開けられた。ふたりとも一瞬寒いと声に出そうとした瞬間、身体の芯から熱い何かが全身に伝わるような、奇妙な感覚に襲われる。すると、まったく寒さを感じなくなったのだ。
「郁雄ちゃん。俺、昨夜からなんか身体の調子が変なんだ」
 唐突に正雄が話し始める。郁雄も、
「ヘンディー。実は僕も何か変なんだ。今だって・・・」
そう言いかけたとたん、正雄が、
「身体の芯からあったかくなっちゃったんでしょ」
そう云うのだった。ふたりとも、既に身体の違和感に気付き始めている。ふと力を入れてみると、腕が二回りほど太くなっていることに気付いたのは正雄だった。郁雄はシュラフザックの中で、軽く寝がえりを打ったのだが、頑丈に縫製されているシュラフザックは足元から、いとも簡単に破れてしまった。
 ふたりとも、シュラフザックを腰まで下ろし、あぐらをかいて座って向き合った。お互い顔を見合わせびっくりしてしまう・・・。相手の首が以上に太くなっていることに気付くと、それぞれ自分の首を撫でてみる。
ついでに肩の筋肉を触り、シャツを托し上げると、腹筋が割れている・・・・。
 ふたりはただならぬ現実を突き付けられ、慌ててテントのジップを開け、外に飛び出した。最初に曲芸をして見せたのは郁雄だった。片手倒立をしてみた。簡単にできるだけでなく、スクワットもできる。次に正雄ができなかったバク宙を試みた。簡単にできるだけでなく、スピードが普通ではなかった。まるで忍者である。それぞれに、今までできなかったアクロバティックな運動を試してみた。ふたりはしばらく自分たちの身体が、恐ろしく変化していることに気付かされながら、お互いの眼をみて笑い合った。
「僕たちは一瞬にして、恐るべき兵士に変身したんだね」
 郁雄は正雄に話しかける。
「いったい僕たちに何が待ったいるんだろう。もうこれは普通じゃないね」
 正雄はこれからふたりに降りかかった来るであろう、強烈で想像を絶する近い将来を思いめぐらすと、
いよいよ何かとの対決が始まることが約束されている自分たちを、誇りに思えるようになっていた。
〔6〕異界への扉・・・(4)
 
 光は大きな円なのか球かが定かではないが、ちょうど夜間の道路工事に最近使われている、白色の明るい光だ。けして眩しくはない。ふたりは眼の前に現われた不思議な光の動静を、それこそ息を殺して見つめている。よく見ると、どうも微妙に回転しているようだ。しばらく回転していたが、1分くらい経ったところで少しトーンダウンする。すると今度は七色に変わり、最初は渦巻き状に、少し経ってから帯状に虹色は回転を続けた・・・。
「ズギュ〜ン。ズクズク。ズギュ〜ン。キィ〜ン」
 とてつもない轟きは、山々に響き渡る・・・・。30秒くらい経ったのち、光は眩しいオレンジ色に変化した。そして不思議な声が聞こえてくる・・・。その声はエフェクターのトーキングモジュレーションを通した、まるでオルガンの音のようだったが、しっかりとした言葉として音声化されている。そしてふたりに対して語り始めた。
 
「今夜はよくここに来てくれた。まずはそのことに感謝を云おう。私は我々であり、我々も私に帰属する。
あなた方は、ひとつの目的のために働き手として、生まれた時から、否、その前から、近い将来私が計画した事柄に関して、大いに活躍してもらおうと考えている。
 あなた方は、あなた方の『パスト・ファイル(過去帳)』に、共通の事柄がある、古くからの友人であり兄弟である。既にお互いに、そう認識していることだろう。だがそれすらも、本当はわたしによって書き換えることは可能であり、自由自在なのだ。
 私の創る、あなた方のこの世は、実はあなた方の意識によって形づくられている。だから同じ事象を眼にしても、同じものと認識することはまず無いに等しい。それぞれの心が形づくっているからである。
 あなた方人間には、私の特質である『モノを形づくる』ことの面白さを与えている。ところが、過去においてもそうであったように、他者の自由意思をことごとく損なうモノも、有形無形に形づくる者たちがいる。
 それは、私の反対者の意識にコントロールされた者たちの手によるものだ。
 ところがそれも、実は私たちの中から出た意識によるものなのだ。したがって、創造と破壊は実は同じことである。
 あなた方は、何ひとつとして、ひとりで作ることはできない。『心ひとつ』になることで、イメージは現実のものとなる。
 あなた方は『夢』や『希望』を持つことで、なんとか明日も頑張れるように設計されている。それは意識を高める原動力になるからだ。
 だが、それすら持てない『心の乾いた』人間が増え過ぎた。それは『普遍的意識に基づかない無用な情報』が多過ぎるためだ。
 要するに、創造した有形無形の『モノ』を処理する『ゴミ箱』の能力を上回る創造を行なったためにほかならない。
 だから私は、『大掃除』をすることにした。かつてもそうしたように、今回もそうすることにしたのだが、今度は別の企画も実行しようと考えている。
 それで、あなた方に役割りを与えることにした。それは今言葉を通してお話ししなくても、あなた方に課した『使命』は、その都度わかるように、私がコントロールすることになる。
 あなた方の『フューチャー・ファイル(未来帳)』が良いものとなるように・・・」
 
  光からのメッセージが止むと、瞬く間に光は影も形もなく消失してしまった。
 ふたりはしばらく話すことも無く、ただ呆然と光が見えた辺りを凝視している。唯、今までと違うのは、お互い何を考えているのか、次に何をしようと思っているのか、明日のぼんやりとした予定さえ、話し合う必要が無いほど、一心同体・・・、否、『一心双体のシンクロナイズされた関係』になっている自分たちに気付いていたのだった。
 したがって、ふたりで何かを物理的に実行しようと考えた時のシーケンシャルな動作の速さは、普通人の倍速、或いは2乗倍速に変化していることを、この時はまだ知らずにいたのだった。さらには、『正義』を意識してとられた行動を実行しようと考えた時の、破壊的とも思える力が、ふたりの身体に入力されたことも、まだ知らずにいるのだった。
 『正義』とは、誠実な彼等が素直な気持ちで、自分たちを勘定に入れずに、『世の為他人の為に良いと思えること』を意味する。だからマイノリティーな人たちからみれば、彼らの『正義』は、或る理不尽さを孕んでいるのだけれど、彼らの時代は、正に誰かが目論む『世直し』を必要としている時代ゆえ、致し方の無いものなのである・・・。
 
 ややあって、どちらからともなく、テントの中へ入ってゆく。そしてそれぞれのシュラフザックの中に潜り込む。言葉にならない疲れがふたりを襲っていたのだけれど、それは実際のところ、疲れではなく、今までの彼等の身体能力から一瞬にして超能力を与えられた身体に変化した違和感だったのである。そして寝仕度が整うと、どちらからともなく「おやすみ」と云って、すぐ寝息をかき始めた・・・。
〔6〕異界への扉・・・(3)
 
 保温力の高いマグカップに注がれたスープをすすりながら、冬枯れした林の枝の高さより、ほんの少しだけ高いところまで昇った月を郁雄はぼんやり眺めていた。満月なのかどうかが定かではないのは、郁雄は強度の近視と乱視の視力だったからだ。それから矯正に使用しているコンタクトレンズは近視だけしか矯正していないからだった。唯いずれにしても、満月と云ってしまえば満月と云えるほど、美しいその表情に、幼い頃四国で見た月を思い出していた。小学2年生の頃、郁雄は隣町にあるそろばん塾に通っていたのだったが、或る夜の帰り道、堤防上の道を、タイヤのリムの回転から動力を得て発電するダイナモ式の電灯を頼りに、自転車を漕いでかえっていたところ、夜空の月の美しさと、ペダルを漕いでも漕いでもついてくるような月の神秘に気をとられ、真冬の川に落ちたのだった。美しい月を見ると冷たい川の水を思い出してしまう郁雄には、その夜の不思議な出来事を忘れることができないでいたのだ。
 ああっ〜と云う間に暗闇の川に落ちた時、川の中に誰かがいて郁雄の手をひいて陸に上げてくれた人がいたのだ。姿かたちは見えなかったが、確かに誰かの手につかまって陸に上がったのは事実だった。そのことを家に帰ってから母親に打ち明けたが、ご先祖さんか誰かだろうと、別段驚きもしないことに、逆に驚いてしまった。そんな奇跡的なことは今までにも数回あり、命拾いしてきたのも事実だが、奇跡的に何者かによって選ばれ、救世主のような女を助けて死んでいくなら、それはごく自然なことのようにも思えるのだった。それにしても人生は、手探りで苦悩しながらも歩んでいくものに違いなかったが、あっけなく自分の使命を知らされてしまうと、なんとなく納得できない自分がもうひとりいて、どうにか死なずに済まないものかと考えてしまう・・・。
 
 正雄の瞳にも、今夜の月が映し出されていた。正雄は飛行機事故で父を失った夜の空に、やはり今夜の月のような美しい月を覚えさせられていた。母にきつく抱きしめられながら、基地の病院からの帰り道、お父さんはあの月に行ったんだと云い聞かされながら帰ったことを覚えていたからだった。月に父がいる・・・・。父は月になったのだ。正雄は人生のいろんな場面で、誰かに相談したいような時に、月を見つめながら大きくなった。それはまるで父親に尋ねるように、こころで話しかけてきたのだ。だから幼くして両親を失いながらも、月に語りかけることで寂しさを乗り越えてきた・・・・。というよりも、寂しさと一緒に生活してきたのだ。今ではもうひとり月の住人が増えることになった。最愛の妻、まなみもきっと月にいるに違いないと考えていたからだ。自分も役目が済めば、あの月に行けるだろう。家族との再会ももう少しの辛抱だろうか・・・。そんなふうに考えている自分と、もうひとりの自分が死なずに済む方法はないのだろうかと考えていた。
 
 そんな時だった。ふたりが見上げる月の輪郭から、何かが生まれ、それは眩しい光となって尾を引きながら飛んで来る。もの凄い速さで着実にどんどんこちらに近づいてくる。ふたりはおおっと声を出し、互いの手を手探りで握り合っていた。やがてその光は彼らのわずか50メートル程先の空中で静止した。
 
〔6〕異界への扉・・・(2)
 
 登山道を歩きはじめてしばらくすると、知らないうちにグングン高度を稼いでいることがわかった。振り返ると丹波山村の家並みを見晴るかすことができたからだ。
 郁雄はこの先の場所が、どんな場所なのかというよりも、何があるのかということに強い関心を持っていた。というのも、一言も語ることなく黙々と先頭を歩き続ける正雄の態度に、不安とも期待ともつかない感情を持っていたからだった。正雄から何か話しかけてくれない限り、自分からは絶対話しを切り出せないような感覚に襲われてもいたのだ。
 一方正雄も、実は同じような感情を持っていたのだけれども、後ろから黙々とついてくる郁雄になんて話せばいいのか表現に迷っていたのだ。今日ふたりが行くことが約束されていたことなら、自分自身が未だ経験したことの無い何かが待ち受けているに違いない・・・。そう考えてもいたからだった。
 
 一時間半も歩いただろうか。高度を稼いできた山道も、ふと振り返ればなだらかに眺めることができるほど、平坦な場所に辿りついた。・・・・丹波天平(たばでんでえろ)である。
 正雄はふぅ〜っと大きく両手を広げながら大あくびをして見せた。そんな正雄を見て安心したような感覚を覚えた郁雄だったが、無理やり作った笑顔さえ、はっきりわからないほど辺りは急に暗くなり始めていた。
「今夜はここでテントを張るよ」
 正雄はそう云うと、背負っていたリュックザックを地面に下ろすと、そそくさと中に格納していたテントを取り出した。袋から本体を出すと、手際良くテントポールを袋マチの中に通していく。ものの2分もかかっただろうか、大きく宙にさかさまに持ち上げると、空気を入れるようにして再び地面に着地させた。
「ほ〜ら。今夜の家が出来上がり〜」
 正雄は声高に、しかもやっぱり無理して明るく云い放ったのだったが、落ち葉を敷き詰めたような地面と、音と云う音をことごとく吸い取ってしまいそうな山の空気に紛れていった。
 正雄の指示に従って、ザックから今夜の布団になるシュラフザックとシュラフカバーをテントに投げ入れる。そうしているうちに辺りはとっぷりと暮れていた。郁雄のザックから小型のランタンランプを取り出すと、正雄は手際良く明かりを点ける。テントの天井からぶら下がったテープで結びつけると、思ったよりも明るかったので、郁雄は何となくこの明かりに安堵感を覚えた。今夜の晩御飯は鶏釜めしとトマトのスープだよと、ストーブコンロに火をつける。ガスボンベに取り付けるタイプのコンロなのだが、その勢いの良さに妙に安心してしまう郁雄だった。
 コッフェルにポリタンに汲んできた水を注ぎ込む。お湯が思ったよりも早く沸いて、アルミの底から泡が湧いてくるのが見ていて妙に元気づけられるのだ。アルファ米と鶏釜めしの具を注ぎ込むと、正雄は蓋をしてからコンロからはずして床に置いた。それからまた別のコッフェルを取り出して、再び水を注ぎ込んだ。今度はスープを作るのだ。
 郁雄は正雄の一連の調理を見つめながら、随分手慣れたものだと感心せずには居られなかった。トマトのスープはインスタントのミネストローネを注ぎ込んだ。と同時に、先に作った鶏釜めしの入ったコッフェルをサカサマにひっくり返した。蒸らすのだなと郁雄はわかった。手際良くそれぞれの食器をコンパクトに並べながら、正雄は郁雄にもうすぐ食べられるよと云った。郁雄もまるで母親に対して返事するみたいに、人懐っこく返事をした。コッフェルの釜めしをもう一度ひっくり返すと、今度は蓋が上になっていて、蓋を取ると美味そうな釜めしの香りがテントの中に充満した。ミネストローネも具だくさんなタイプだ。美味そうだとどちらからともなく云うと、万歳・万歳・万歳と声を揃えて三唱するふたりを、ランタンのやさしい明かりが照らしている。わざわざ晩飯をこんな山の中に来て食べることが目的では無いことを、ふたりは充分理解していたけれども、それぞれの心の中では、生きているという実感は、きっとおいしく食事ができることに勝るものはないと思うのだった。と同時に、ふたりはささやかな食事を摂りながら、それぞれにあと何回くらい食事できるのだろうといった、ちょっとネガティヴな想いに囚われそうになった。それは冬の冷たい山の空気のなかで、暖かい食事を摂りながら見上げる冬の星座があまりにも美し過ぎたことと、その美しい光を放つ星のなかにも、既に消滅している星もあるという現実に、生きてることと死んでることの境目はいったいどんなだろうと、まったく同時に考えていることに気付くはずもなかった。
 
 

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