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From 湘南茅ヶ崎。 イコピコのひとりごと
とんぼお姉さま。頑張れ頑張れ!私はいつも祈っていますよ!(笑)

書庫小説「ソルの椅子」・・真坂詠三

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〔3〕時空の繋がり・・・(7)
 
 頭のうしろで両手を重ね、天井の模様を数えるようにしていた郁雄の前に、サユリの作ってくれた朝ごはんが並べられていく。
 メインディッシュには、キャベツのコールスロー、レタス、キュウリは孔雀が羽根を広げたみたいに扇形に飾られ、由紀ちゃんの唐揚げとオムレツが美しく乗せられている。スープはインスタントのオニオンスープに、タマゴの浮きみが浮かんでいる。トーストには、ちゃんとバターが塗ってある。・・・・・完璧だ。しばらく呆然と眺めてしまう。
「どうしたの?嫌いなの?さっ、早く召し上がれ!」
 満面に得意そうな笑みを浮かべて、それでいて左のほっぺにタマゴを焼いている時にくっついた破片に気付かないサユリを、美しいと思った。
 心の中にあったはずの鈍色の不安な雲は、いつのまにか何処かに消え去り、雲の陰に隠れていた太陽が見えてきたように、サユリの愛情が自分の心の奥の、いまだ誰も開けたことのないドアをこじ開けて入ってきたような、不思議な感覚を覚える。
 ・・・・・ダメだ。好きになったかも。・・・・・・
 抜き差しならぬ境地に追い込まれながら、その断崖絶壁から見晴るかす眼下に広がる風景を美しいと云う旅人の心境にも似た心持ちに、例えばこんな時、自分の背中に翼を持っているなら、谷底から吹き上げてくる冷たい風をも上手に受け止め、きっと空高く飛べるに違いない。・・・・そう思った。
 と、その時玄関先で足音が止まる。
「コンコンッ。コンコンッ」・・・(つづく)
〔3〕時空の繋がり・・・(6)
 
 女の勘・・・・。ついに出た。自分が母親から、あれだけ口を酸っぱくして教えられた忌むべき世界の住人になってしまってることに、改めて気付かされる。しかも既に、肉体関係まで持ってしまっているのだ。
 世の中には、プレイボーイと呼ばれる人達がいて、きっと楽しい日々を送っているに違いないと思っていたけど、それはきっと大間違いで、被虐的でマゾスティックな境地を味わうことのできる、一部の勇敢な男たちが住む世界に違いない。 
 ・・・・困ったことになった・・・・・・。
 
「どうしたの?ぼ〜っとして?」
 サユリは、自分の心のなかを見透かしたような眼で振り向いた。ほんの2秒ほど自分を凝視すると、口元をきゅっと閉め、またフライパンを上手に操って、紡錘形に成形したタマゴを宙に・・投げる。
 ・・・・僕はきっと、あのオムレツと同じ運命なのだ・・・。
 そのうちきっと、好きなように調理されて、噛みつかれ、味わったあと、ゴクリっと飲み込まれて終わるに違いない・・・。
「お待たせ〜。美味しくできたかな〜」
 郁雄は気付かれないように、我慢していた吐息を小さくもらした。(つづく)
 
 
〔3〕時空の繋がり・・・(5)
 
「ねえ。朝ごはん、私が作ってあげる」
というと、冷蔵庫に吊ってあるエプロンをつけて台所に立ったサユリの後ろ姿は、妙に新鮮で、朝日を受けて輝いて見えた。時々由紀ちゃんが来てご飯を作ってくれることがあったが、本物の女の子にエプロンは似合うことを知らされる。
 郁雄はコーヒーテーブルに布団をかぶせる。ベッドで使っている布団は、本当はこたつ布団なのだ。コーヒーテーブルも実は電気こたつであり、時々麻雀をする時使う天板を乗せれば、正真正銘のコタツに早変わりした。
 何となく新婚気分ってこんな感じかなと考えると、ついさっきまで持ち忘れた携帯電話のことから、いろいろ余計なことを考えていた自分がおかしくて、思わずひとりほくそ笑んでいた。
「ねえ。由里香から電話あった?」
と、タマゴを焼きながらサユリが尋ねる。
「ああ。でも話すことないし」
 そこまで話して、ハッとしてしまった。サユリがかけてきても、電話にでなかったことを思い出し、
「実は昨日の朝、具合が悪くなって、君が来てくれるまで、ほとんど寝ちゃっててさ」
と切り出したものの、やっぱりこの子、履歴をチェックしたんだと思った。
「ふ〜ん。あの子、たぶん郁雄さんのこと気に入ってるよ」と云うと、女の勘とも付け加えた。(つづく)
 
 
 
 
〔3〕時空の繋がり・・・(4)
 
 郁雄はハッとして、顔面から血の気が引いていく自分に気がついた。やっぱり怖い。彼女の顔をスローモーションでひとコマずつ数えるように、意識しながら見上げていく。
 昨夜のお化粧をシャワーで洗い流したのか、声は確かにサユリなのだが、別人のような気がした。でも確かにサユリに違いなかった。
「ご、ごめんよ。近くの店が正月休みでやってなかったから、もうひとつ向こうのスーパーに行ってきた。自転車使わなかったから疲れちゃって」
 そういうと、サユリは急に笑顔になり、勝手に腕を組んでくる。ごめんね、私が作るからとレジ袋を取りあげた。
鉄の階段を二人で登ると、壊れたグロッケンシュピールのような音を奏でる。一瞬立ち止まり、このアパート、ふじみ荘の住人は、夜の仕事の人達が多いから、もう少し静かに歩いて欲しいと、サユリの耳元で小さく云うと、サユリが、さらに小さな声でわかったよと云う息の甘い香りに、言い知れぬ安堵を感じる郁雄だった。(つづく)
 
〔3〕時空の繋がり・・・(3)
 
 レジで代金を払った後、郁雄は失敗したなと思った。
携帯電話を持って出るのを忘れたのだ。ひょっとすると今頃サユリがチェックを入れてるかも知れない。別に悪いことしたわけじゃないのに、急に気が重くなってきて、駆け足で帰るはずの道のりを、ぼんやりいろいろ考えながら歩きはじめる。
 女の勘は鋭いから気をつけるようにと、郷里の母親に教えられている。女の母親が云うのだから本当に怖いのだろう。
 昨夜サユリと由里香から、それぞれ2回ずつ電話をもらっていたが、両方とも出ることはなかったし、どちらにもかけることはしていない。また、押しかけてきたのはサユリの方だ。そう思い直すと、とり越し苦労している自分が、子供じみているような気もするのだが、母親から「女は魔物」とも教えられているので、なんとなく恐ろしくなってきたのだった。
 昨夜のサユリはかわいい女だったけど、きっと豹変して鬼にもなることがあるだろう。由里香の顔が変わるのは昨夜確認済みだが、サユリの怒った顔はまだ見ていない・・・。
 自分から押しかけてくるほどの、度胸ある女の子だ。
怒らせるとハンパないだろう。・・・そう考えると、少し加速して曲がった美容院の角から見える、犬猫病院の看板をふと見上げながら、どうしてオスの人間に生まれてきたんだろう。猫なら心配もなくそれこそ猫可愛がりされるだろうに。と、大きくため息をついて、うつむき加減に歩いていると、靴先の視界に、サユリのブーツが入って来る。
「ねえ。遅いじゃない?」・・・(つづく)

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