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From 湘南茅ヶ崎。 イコピコのひとりごと
とんぼお姉さま。頑張れ頑張れ!私はいつも祈っていますよ!(笑)

書庫小説「ソルの椅子」・・真坂詠三

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〔3〕時空の繋がり・・・(2)
 
  眠りこけてるサユリのために、朝ごはんを作って食べさせようと、近所のスーパーへ買い物に出かけようと靴を履いた。つま先をトントンと靴の先っぽに馴染ませ、踵のあたりに少しの空間をつくってスニーカーを履くのが彼の流儀である。だから、少し靴の踵あたりが踏まれている。座って履けばそうはならないはずだが、必ずそうして履く。右脚をトントンやった時、
「ねえ。どこか出かけるの?」
と、眠そうな声のサユリが声をかける。
「起きちゃった?ちょっと食料品を買い出しに行ってくる。すぐ戻るから」
そう言い残すと、ドアをバタンと閉め、駆け足で鉄の階段を駆け降りる。
 外に出ると一段と寒さが増してくる。3年程東京を離れ、函館に住んでいたから、寒さには慣れているはずだったが、やっぱり冬の朝は、どこでも同じだ。気力が勝負である。
 2分も走るとスーパーに着いた。正月の食料品も半額のシールが貼ってあるものが眼につく。売れないのだ。郁雄はそう思った。すべての事柄には、定められた、それに相応しい「時」があって、何人もこれに逆らうことはできないのだ。きっと食料品もそうなんだろう・・。そう決め付けた。基本的に、思い込みの強い性格なのだ。
 タマゴを1ケースと、レタス半切れ、キュウリ1本に食パンを買った。全部で500円を超えなかったことに、なんともいえない喜びを感じた。レジのデジタル数字を見つめてほくそ笑む郁雄を、レジ係のおばさんが怪訝そうに横眼使いで睨むのだった。(つづく)
〔3〕時空の繋がり・・・(1)
 
 久しぶりだった。久しぶりに自分が男であることを認識した。二度果てた後、ようやく自分を取り戻したようだった。ベッドの中でサユリと様々なことについて話しした。
 サユリもいろんなことを話してくれた。大学に通ってはいるものの、本意ではないと云う。それより郁雄が気になった彼女の言葉は、本当は何か得体の知れない、スケールの大きなものに支配され、動かされていることを感じると云ったことだ。
 考えてみると自分だってそうだ。分岐点にはいつだっていくつかの選択肢からひとつを選択することに気付いている。もし、函館でヘンディーと出逢わなかったなら、今多分この場所には居ないだろう。
 では数時間前、二人の女性から、どちらか一方を選択することが自分にできたかどうか。今自分の腕の中にいるサユリを選択することが、違ったシチュエーションで同じ結果になったかどうか。
 正月2日の東福生の朝は、武蔵村山の方からやってきた。東側に窓があり、バルコニーの間仕切りが、隣の洗濯機の動きに合わせて震える。建てつけの悪いサッシの隙間から、冬の冷たい空気が忍びこむ。ただ、今は何故か孤独感と云う言葉さえ、何処かに消え失せるほど、サユリの存在が、数時間のうちに、自分のなかで大きく育っていることに気付くのだった。(つづく)
〔2〕真夜中の訪問者・・・(3)
 
  ドアを開けると立っていたのはサユリだった。ドアの外でも何だからと、とっちらかった部屋に彼女を招きいれた。訪問の理由を聞こうかとも考えたが、それももういいかと自問自答した。
「あの〜。積極的な女って嫌い?」
 いきなりだ。どうしたのだ。サユリはわざわざ私の部屋を探してきた。何故だ。どうなっているんだ。・・・・いろいろ心のなかで自問自答しながら、
「いや。嫌いじゃないけど」
「けど?」
「・・・・・・」
「私ね。郁雄さんのこと好きになっちゃった」
 郁雄はなんだか夢を見てるんじゃないかと思って、
「これって現実だよね?」
と、とりあえずサユリに聞いてみる。
「現実よ。私せっかちなの。感情を抑えられないタイプなんだ。好きになっちゃったから、押しかけて来ちゃった」
と、訴えながら、座っている膝がどんどん郁雄に近づいてくる。と、次の瞬間、いきなり唇を重ねてきた。
 郁雄はこんなこと今まで一度も経験したことがない。30年生きてきて、初めての体験だった。彼女の両腕は既に郁雄の背中に回されている。激しい鼓動で張り裂けそうな胸に、サユリの柔らかい胸の感触が伝わってくる。
「ちょ・ちょっと待ってくれ」と云うと、郁雄は必死でサユリの肩を離そうとした。でも彼女はそれをするりとかわすと、郁雄の身体に覆いかぶさるような姿勢になる。郁雄も腹をくくった。サユリのスカートの向こうに見える太腿に、身体が反応してしまったのである。視覚的にノックダウンした郁雄は、目覚めた男の本能を押さえることができなかった。(つづく)
〔2〕真夜中の訪問者・・・(3)
 
 由紀ちゃんがもう再び入ってこないことを確認すると、頂き物の唐揚げの入ったバスケットをコーヒーテーブルの上にそっと置いた。他の人が見たら、そのテーブルは多分ちゃぶ台なのだが、誰だったか米軍兵が泊まりに来た時、このちゃぶ台を「COFFEE TABLE」と云ったから、それ以来コーヒーテーブルと呼んでいる。
 バスタオルで身体を拭きながら、足の親指と人差し指で、コンポのスタートボタンをオンにし、AMをセレクト。
するとFEN(FAR EAST NETWORK・・極東放送)に器用にチューニングする。英語はやっぱり苦手だが、できるだけネイティヴな英語を聴くようにしている。全て仕事のためである。
 福生(ふっさ)の街は基地の街。米軍横田基地で成り立っているような、日本で日本じゃないような、不思議な街だ。Yナンバーの自動車が街を自由に走り抜ける。
日本人は、何故か小さくなって生活しているようだ。
 函館から移り住み、あのヘンディーの世話になって、今の暮らしがある。もしあの時ヘンディーに出会っていなければ。またあの醤油のシミがついた箸袋のメモが無ければ、今こうしてここにいない自分が、何処にいるのか見当もつかないのだ。
 そんなことを考えていたら、携帯電話のバイブレーションが着信を知らせた。
「もしもし」
 電話の声は女性の声だった。
「はい。郁雄ですけど」
 どっちだろう。でも「ユリ」は共通の響きだと考えた。
「わたしよ。今あなたのアパートの下まで来ちゃった」
 またどうして?アパートはヘンディーに聞いたのだろうか?
「わかった。じゃあ、上がってけば」
 というより足音はどんどん近づいてきて、やがて玄関ドアの前で止まった。
 コンコンとノックすると、続けて今晩はの声。心臓の鼓動を感じるほどの久しぶりの衝撃を押し殺すように、郁雄はゆっくりと玄関のカギを上げた。(つづく)
 
 
〔2〕真夜中の訪問者・・・(2)
 
 「ピンポーン。ピンポーン。」・・・。何だ。由紀ちゃんか。
すぐ出るからちょっと待ってと大きな声で玄関の方に向かって叫ぶ。大体、ピンポンチャイムがついて無い部屋も、今時珍しいと云えば珍しいが、声色を使ってカワイイ女性になり済まして、ピンポーンなどといたずらするオカマも珍しいのかも。
 由紀ちゃんは、本当は由紀夫さんである。お店のお客さんで、米軍兵相手のゲイバーのママだ。仕事に行く前、時々差し入れしてくれるのだった。
 ドアを開けると、普通の毛が薄くなった中年オヤジが立っている。お化粧もせず、カツラもかぶらず平気でやってくる。というのも、ひと部屋挟んだ、むこうの部屋に住んでいるからだ。唐揚げを揚げたからおすそわけと、
揚げたての唐揚げを持ってきてくれた。
「イーストのカフェのフライドチキンよりおいしいよ。」
と云ってから、剥げた頭でウインクして部屋を出て行った。が、すぐにまたドアを開け、
「郁ちゃん。あんた何か女の匂いがする。ねえ。いいひとでもできた?」と云うと、もう今度はドアを開けなかった。どうせ明日の夜、お店に来てくれるはずだ。(つづく)

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