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〔6〕異界への扉・・・(4)
正雄はジャケットの袖を少したくし上げ、オートマチックの腕時計を睨んだ。午後3時を少し回ったところだ。
「仕方ないなあ。郁ちゃん。登ろうか?」
乗り気のしない表情の正雄にそう尋ねられても、何かが待っているなら、行かざるを得ないであろう。
郁雄は断るどころか、眼を輝かせている。服装を見れば、二人とも充分山歩きができそうな恰好でもある。
正雄はツルさんに代金を支払うと、ちょっと行ってきますと、妙にしおらしく挨拶をする。それがいいと彼女は笑った。
正雄はビートルのドアを開け、グラブボックスを開けると、黒いレバーを手前に引いた。ガチャンと音がして、
フロントフードが少し上に口を開いた。
フロントトランクのスペアタイヤの前に、何故か二組のリュックサックが格納されていた。ひとつは正雄のものであり、もうひとつは亡くなった奥さんのものらしい。
アルファ米も入っているし、燃料もテントも食料も、一晩過ごすだけのものは全部入っていると、正雄の顔は何時の間にか笑っていた。あとは、飲料水をポリタンクに補給していくだけだと云った。
「ねえ。今夜は山で寝るの?」
郁雄は正雄にそう尋ねた。多分ねと、正雄はそっけない云い方をした。
クルマを役場の上の駐車場に移動させ、また来た道を一旦後戻りして20分も歩くと、その目的地への登山口に辿り着いた。さあ行くよと正雄が声をかける。郁雄は、ハイ。と小さく頷いた。(つづく)
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