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From 湘南茅ヶ崎。 イコピコのひとりごと
とんぼお姉さま。頑張れ頑張れ!私はいつも祈っていますよ!(笑)

書庫小説「ソルの椅子」・・真坂詠三

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〔5〕預言者・・・(4)
 
 なんでも見ることができ、なんでもわかる老婆に、郁雄は疑問に思っていることを質問しようとすると、
「神か?神がいるかどうかじゃと?わっはっは。全ては人間のこころが作るのじゃ。
 神が住むこころを持つ者は幸せ者じゃ。それは驕り高ぶらないからじゃ。畏怖する心に神は住まう。畏れこそ、人間にとって最も大切なこころの働きじゃ。
 悪魔か?悪魔は神と右と左じゃ。どちらか片方だけが存在することは無い。神を知る心には、悪魔が必ず存在する。物事の善悪の中心は、何も無い虚空だけが存在する。だが、そこで人間は生活できないし、勉強しようにも何も無いから勉強にならんのじゃ。それで敢えて、物や者に溢れたこの世で学ぶことになる。しかし、本質はそこには無いのじゃ。全て理解を助けるための存在で、元々は無いのじゃ。幻じゃ。
人間に求められるのは何か?それは、「有るようでないこと・無いようであること」を学び理解することじゃ。そこには、全宇宙と一体となったこころだけが存在する。そして人間だけが、より良く成長しようという心の働きをもっているのじゃ。本当の成長は、こころを育むことじゃ。
 人も含め、森羅万象に生けるもの全てが、生死を繰り返す。その中で、人はこころの成長、つまり肉体を持って体験した事柄から、真理を求めるこころを育まねばならない。富も名誉も関係ないぞよ。ほんの少しのことに喜び、またその喜びを他に与えられるこころを育め。それ故、その学習が足りない者は、何度でも生死を繰り返すのじゃ。
 願わくば、このふたりの上に、神々の守りあらんことを・・・。」(つづく)
〔5〕預言者・・・(3)
 
 青梅街道沿いの集落の、一軒の家の前でクルマは停まった。それは蕎麦屋というよりも、普通の民家に見える。のれんも看板もない。一見さんは辿りつくことが出来ない店だ。引き戸を、ガラガラと開けると、中から腰の曲がった老婆が出迎えてくれた。
「あんた。ちょっとすぐ下で休憩してきたんか?」
そう云うと、疲れただろう、取りあえず座りなさいと云った。
 郁雄はさっそく驚きを隠すことができなかった。老婆の瞳は灰色で、視力を持っている風ではなかったからだ。
にも関わらず郁雄の方を向くなり、
「おお。よく来た、よく来た。あんたじゃな。正雄ちゃんのお友だちは。郁雄ちゃんじゃな?」
 郁雄はええっ!どうして?と声を上げてしまった。老婆は、少し笑ったあと、ゆっくりとした口調で話し始めた。
 
「郁雄ちゃん。ワシの眼は眼敷いていて、本当は見えていない。じゃがなあ。完全に見えとるんじゃ。見え方を大きくも小さくも、遠くも近くも、大昔も将来も、意のままに見ることができる。真実はな。
 ところが、偽りのこの世界の現象は、出来るだけ見ないでいられるんじゃ。だから、ちょうどいい。」
 そう云うと、あっはっはっと声を出して笑うのだが、もう歯はほとんど抜け落ちていて、歯の無い歯茎を舐めながら続けてこう云った。
「あんたがワシのところへ来たなら、そう遠い先のことではないぞよ。この世を再び治める女の子が現われる。
あんたの眼の前にじゃ・・・。その娘は迷わず、自分の座るべき場所に座り、最期の時の、時計が動き始める。
 それから、この世を悪意に満ちた死の世界に留めるために、多くの邪魔ものが集まって来る。・・・・・もっとも
手ごわいのが、また女の子の姿をした魂じゃ。その魂は、ありとあらゆる方法で、世を救う娘の邪魔をする。
 全ての邪悪な事柄から、あんた達ふたりが協力して
娘を守り、新しい美しいこころの時代が来るのじゃよ。
・・・・・その時、あんた達は死んでしまう。でも、すぐ生まれ変わってくるから心配ないがのう。わっはっは。」
 この老婆には、もうその時の風景が見えているのだろうか?不安に打ち震える郁雄をたしなめるように、
「郁雄ちゃん。恐がらなくても大丈夫。気をつけるのは、あんたの心の問題じゃ。邪悪に打ち勝つ強いこころを
試されるぞよ。わっはっは」
 郁雄は、腹が空いていたことさえ忘れ、老婆が見ているだろう、風景をイメージしようとしていた。(つづく)
 
〔5〕預言者・・・(2)
 
「郁ちゃん。蕎麦でも食べに行こうか?」
 ふたりとも、ちょっと落ち込んだけど、お互い笑い合って、少し元気を取り戻した感じになった。郁雄もおなかが空いてきたので、二言返事でついて行くことにする。
「美味い蕎麦を食べさせる店があるんだよ。ちょっと遠いけど」
 そう云いながら、ビートルのイグニッションをひねる。ディストリビュータが安定した火花を点火しているのか、
正確なエキゾーストノートを奏でている。
 奥多摩から、さらに奥の、山梨県北都留郡丹波山村に美味い蕎麦を食べさせる店があるからと、いきなりクルマを走らせ始めた。
 福生の街から約2時間。青梅市を過ぎると、道は次第に登り坂になっていった。橋を何度か渡り直したようだったが、多摩川の両岸を行ったり来たりして行くうちに、クルマは奥多摩駅の交差点を通過した。
 道路の端に、雪の跡が残っている。ビートルには普通のラジアルタイヤしか装着されていなかったが、RRのエンジンだから、心配ないよとヘンディーは云った。
「これから行く蕎麦屋のおばあさんが、霊能者であり、預言者なんだ」
 ヘンディーは、やっとヒートアップされた空気が、足元に届き始めたにも関わらず、三角窓を開け、車内に冷たい空気を取り入れた。
 関東とは云っても、やっぱり山間部は寒い。ただでさえ真冬の凍てつく空気を、どうして車内に入れるのか、郁雄にはわからなかった。
 だが、ノンストップでこんな山奥まで来ていながら、集落が見え始めた辺りで、ヘンディーは突然、クルマを停めた。
「あそこに見える茅葺の家がそうだ」
 ヘンディーは、何かに脅えるように小さく、か細い声で云った。そして、僕たちが近くまで来ていることも、彼女は既に知っているだろう、とも云った。郁雄は彼が、只ならぬ緊張感を持っていることを理解する。ここに来るちょっと前の、不自然な行動は、その現われだったことに気付いた。
 郁雄はサイドシールドを手で巻き降ろして、外の空気を感じてみる。空を見上げると雪雲が張り出して、妙に
静かだった。この静かさに、恐さを感じた郁雄だった。
(つづく)
 
〔5〕預言者・・・(1)
 
 カウンターのエッジを撫でながら、失った最愛の妻を思い出すようにして、ヘンディーは静かに語って聞かせた。カウンターの上にキチンと畳まれた布きんは、乾燥してカチカチに固まっている。
「まなみはいつも、店を開ける前、乾いた布きんをこうして、まずよく洗って・・・」
 カウンターの中に回り込み、カランのレバーを押し上げ、シンクの中の洗い桶のなかで布きんを洗いながら、
感極まってこぼれ落ちる涙を見せないように、ヘンディーは、布きんを洗い続ける。
 頭を下げたまま、顔を上げることなく、一層蛇口から出る水量を多くし、激しい水音で涙を誤魔化しているつもりのようだったが、小刻みに震えるヘンディーの肩をみつけると、郁雄も思わずもらい泣きしてしまう。
「僕は、こころの底から彼女を愛していたんだ・・・」
 男泣きに泣きじゃくるヘンディー。
 母親のおなかの中にいた頃、父親を飛行訓練中に亡くしたヘンディーは、不幸にも母親をも、3歳の時に亡くしていた。その後、伯母のところで大きくなった。幼いころから肉親との縁が薄く、孤独だった生い立ちを話してくれた。
「この街が育ててくれたんだ。様々な人種の人たちがいて、僕のような混血児があたりまえのようにいて・・・・。 それでも僕は、日本で生まれたから、日本人で生きようとしてきた・・・。日本人の名前だってあるんだぜ。正雄って云うんだ」
 郁雄がええっ?と、びっくりして大きな声を出すと、ヘンディーも一緒になって笑う。
「だろう?僕の顔から正雄は似合わないって思っただろう?」
 そう云うと、僕も似合わない気がするからヘンディーで通してきたと笑いながら云った。
「郁雄はさ。いつも自分のことを日本人だと思って生活しているの?」
 ヘンディーが唐突に質問してきた。郁雄は、ふだんから自分が日本人だと意識していないことを正直に話す。
「僕はいつも、日本人を意識しながら暮らしてきたよ」
 ヘンディーは、ナイフとフォークを使わない。肉を食べる時も、箸で摘まんで歯でこうやって・・・。とジェスチャーで噛み切る仕草を見せながら、
「でも、顔見りゃ外人なんだな。イケメンの」
といつもの笑顔で云ったので、郁雄も大笑いしてしまう。
 人間は悲しい生き物だ。ひとそれぞれ与えられた条件はことごとく違っている。自分も孤独な男だと思ってきたけど、ヘンディーの方がもっと孤独だったんだ。
 人を見かけで判断してはいけない。日本人以上に日本人の心を持った外人顔のやさしい男もいる・・・・・。
 いろいろと考えるうちに、自分のこころのなかに、明るい日差しに照らされた芝生のうえで、3歳の頃のヘンディーが母親に甘えている光景が映し出された。(つづく)
 
 
 
 
 
〔4〕失われた光・・・(17)
 
「店に降りてみようか?」
 ヘンディーは、落ち着いた声でそう云った。郁雄は、そんな不思議な話の世界に関わりたくないという思いと、どうせ生まれて来たからには死ぬことが約束されているわけだから、人類全体を守るために死ねるなら本望かもしれないとも思うのだった。
「まなみは、このことを知っていたのだ。いろんな嫌なことが今の時代には世界中で起きている。まなみが本当に信じていたのか、或いはすべての時を早めたかったのか、ことの真意は今となってはわからない。
 ただ、自己犠牲的に、それも発作的に椅子に腰かけようとしたのだ。この店を始めて10年になるけど、まだ一人もあの椅子に座った人間はいない。どんなに混んでいても、あの椅子だけは空席だったし、片づけや掃除の時だって、座ることがなかったのだ」
 自分が見ている前で、座ろうとしたまなみは、転んでしまったのだ。まさか死んでしまうなんて思いもしなかったと云った。(つづく)
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