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From 湘南茅ヶ崎。 イコピコのひとりごと
とんぼお姉さま。頑張れ頑張れ!私はいつも祈っていますよ!(笑)

書庫小説「ソルの椅子」・・真坂詠三

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〔4〕失われた光・・・(16)
 
 翌朝、ドアをノックする音で目が覚めた。ドアを開けるとヘンディーが立っている。部屋にはふたり掛けで食事するには小さくて、でもひとりで軽く食事するのには充分な大きさのテーブルと、靴を履いたまま座っても違和感の無いハイトの椅子が2脚ある。
 ヘンディーは、ドアを閉めると相変わらずの笑顔で、その椅子の片方を手前に引き寄せ座った。
「ヘンディー。実は昨夜・・・・・」
 郁雄はいきなり話を切りだした。ヘンディーは何を聞いても恐くないといった堂々たる態度のように見える。
昨夜の一部始終を話すと、まなみが来たのかとぽつりとつぶやいた。
 郁雄の話を聞いて、ヘンディーはもっと大事なことがある、と前置きして、今から云うことを克明に覚えて置いていて欲しいと付け加えた。
 
「我々人類の危機は、そう遠くない将来に訪れるらしい。ある預言者から実際に聞いた話だ。彼女の云ったことは、恐ろしいほど当たって来たし、君と僕との関係も既に聞いて知っていた。実は僕たちは遡ること1950年の8月、朝鮮戦争で捕虜になっていた米軍兵の戦友であり、同月に『303高地』で銃殺されたのだ。・・・・今は別の人間としてこの世に再び生まれ変わってきているが、
そんな僕たちには、人類の生存をかけてやらねばならない使命がある。その鍵は、将来この部屋の下の店『ソル SOL』にある、ひとつの椅子に座る者にかかっている。彼女が我々人類全体の救世主であり、彼女を守って死ぬことが、僕たちの使命なのだ。だから逆に、その時が来るまで、僕たちは何の心配も気苦労もなく暮らせるだろうし、死ぬこともない。唯それがいつかはわからないが、近い将来であることだけは、確かなのだ」
 そう云うと、ヘンディーは、昨日君が気にしていた椅子だよ、と付け加え、あの椅子には、まだ誰も座ったことがないのだと云った。(つづく)
〔4〕失われた光・・・(15)
 
 ドアを閉め、玄関先のスイッチを入れる。すると途端に部屋は明るくなった。これでもし幽霊がいるとしても、
こんなに明るくてはエネルギー的に出ることはできないだろう。まだ幽霊を見たことの無い郁雄は、そう勝手に幽霊の立場も考えずに決めつけて、ホッと肩を落とし、
鍵を閉めた・・・。
 何気にキッチンの前に視線を送ると、こちらを見つめながら女の人が立っている。女の人には足もあり、普通の生きている女性だ。一瞬凍るような感覚を覚えたが、
きれいな女性だったので、2,3秒で正気を取り戻した。
「あ、あの〜。何処から来られたのですか?」
 郁雄はそう、声に出したか出してないかはわからないが、そのきれいな女性に質問する。
「あの人をよろしくお願いします。私が急に居なくなったので、かなり落ち込んじゃってるみたいで・・・。あなたが来てくれたので安心して行くことができます」。
 女はそう云うと、深々とお辞儀した。郁雄は、お名前はと尋ねた瞬間、ま・な・みと云ったように微かな音を残して、ス〜っと消えてしまったのだ。
 やっぱり幽霊っているんだ。今、確かに見たし、会話もした。でも、全然恐さは感じなかった。あの人を頼むと云うのは、夕方行った『ジュン』のママも同じことを云っていたな。まなみと云う名前が、亡くなった奥さんだったら、本当にその人の幽霊と会話したことになる。
 郁雄はすぐヘンディーに電話しようと思いついたが、
もしそうなら、改めて恐くなりそうだったので、夜が明けるのを待った。一気に疲れがドッと押し寄せ、知らぬ間にまた眠ってしまった。(つづく)
 
 
〔4〕失われた光・・・(14)
 
 たった2杯のバーボンでほろ酔い気分になった。途中のコンビニでコーラを買って部屋に戻ろう。郁雄は何処ででも見かけるコンビニの看板を目指して歩いていた。
 途中でふたりのポン引きに声をかけられたが、聴こえないふりして通り過ぎた。
 買い物をして螺旋階段を上って行くと、誰かが膝を抱えうずくまっている。不審に思いもう一度よく見ると、もう誰も居ないのだった。
 何となく云いようのない疲れを感じていた。シャワーも浴びずに、そのままベッドに潜り込む。1分の時間も経過しないまま、いつの間にか郁雄は、静かな寝息をたて始めていた。
 
「コンコンコン。コンコンコン」
 今、何時頃だろうか?ドアをノックする音がする。ベッドの中から、誰ですか?と声をかけてみる。が返事はない。再び、
「コンコンコン。コンコンコン」
と、ノックする音が聞こえる。そっと近づき、身構えていきなりドアを開けてみる。しかし、外には誰もいないのだった。
 そういえば、帰って来た時、階段で誰かがうずくまっているような気がした。ひょっとすると、幽霊か何かかも知れない。そう思うと急に寒くなった。しかし、郁雄の頭の中の幽霊は、けっして真冬に出たりはしない。もし出たら、その幽霊は掟破りなのである。でも、雪女ってこともあるし・・・。そこまで考えると、さすがに馬鹿らしく思えてくる。大体、僕は誰かに恨まれるようなこともしていない。どうせ出てくるなら、きれいな女の人がいいなと思った郁雄だった。(つづく)
〔4〕失われた光・・・(13)
 
 酒が飲めるほうではなかったが、少し飲んでみたいと思う。通りから中が良く見える店を選んで、入ってみることにする。
 店の名前は『ジュン』。カタカナ表記だから、きっと日本人の経営だろう。ドアを開けると程良い暖気が頬にあたる。カウンターだけの店だ。取りあえず、先客も居なかったので、窓際の椅子に腰かける。
「いらっしゃい。お客さん、初めてですよね」
 歳の頃なら40前後の小ぎれいな女性が、カウンターの中から声をかける。
「今日はまた寒いから、よく温まって帰ってね」
 客あしらいの上手な、笑顔の素敵な女性だ。唇の左下に少し大きめのほくろが、妖艶な表情をつくっている。
「何を召し上がる?ウチはショットバーだから、シングルはワンコイン500円よ。ダブルだとツーコイン」。
 思わず噴き出してしまった。入ってそうそう噴き出した理由がわからなくて、ママは怪訝な顔をした。噴き出した理由を一部始終話しおわると、
「郁雄さん。あなたはここでやっていけるわ。何か困ったことがあったら、いつでも連絡してね」。
 ジュンのママはセクシーな口元をきゅっと閉めて、郁雄に目配せをした。ダブルで頼んだフォア・ローゼズのスモール・バッチは、バーボン独特の豊潤な香りを鼻腔の奥に残したまま、胃袋を熱くした。一緒に頼んだチェイサーで、胃の中のアルコール濃度を薄めたが、グラスからジュンママに眼を移すと、とてもきれいな女に見えてくる。
「やだ。郁雄さん、もう酔っぱらってるの?」
「いや。人恋しくなって街に出てみたんだ。カレー屋の無愛想な店員の店からここに来たら、安心したというか懐かしくなったというか・・」
 郁雄は正直に自分のこころを見つめて話した。2杯目のオーダーも、フォア・ローゼズをシングルで頼む。チェイサーを2杯お代わりすると、ジュンママは高いソプラノの声で大笑いする。郁雄も一緒に大笑いした。
 ジュンママは、もともと青森の三沢基地のそばで育った。流れ流れて福生に落ち着いた。ヘンディーは友達で、仲の良かった奥さんを亡くして気の毒だとも話した。
 人間は生きてるだけで儲けものだと、妙にリアリティーのある云いまわしもする。相当いろんなことを経験したであろう人生の先輩として一目置いて見ている自分に気が付いた。そんな郁雄に、
「ヘンディーを助けてあげてね。あんないい男そう居ないわよ。きっと、これから小説みたいなことがありそうね」。
 そう云うと、得意そうな笑顔になってセクシーな口元をキュッと閉めた。
 ドアが開くとカーキ色の軍服に階級章をつけた米軍兵が3人なだれ込む。じゃあ、また来ますと彼らが開けたドアを閉めることなく外へ出た。(つづく)
 
 
〔4〕失われた光・・・(12)
 
 眼の恐い店員は、水とメニューを持ってくる。おしぼりも持ってきてくれた。おしぼりで手を拭きながら、メニューを見て吹き出しそうになった。どれもこれも見事に500円単位で構成されていたからだ。高いもので、1.500円、2.000円、2.500円まで。
 釣りの要らないシステムだ。笑顔で、
「決まりました。これ下さい」
 郁雄が店員に話しかけると、初めて笑顔になった男は、真っ白なきれいな歯の持ち主だった。でも何故か、その笑顔に違和感を感じたのだ。ふだんから笑わないで大きくなったのだろう。笑いたくなければ笑わなくていいよ。心の中で郁雄はそうつぶやいた。気に入ったひとつのコースを指さして、男に注文する。
「ありがとうございま〜す」
 キャラ的に好きになりそう。郁雄は初めて赤線で、何か口に入れることに、言い知れぬ期待と喜びを感じ始めていた。
 料理が出されるのを待っている間、店の中の主張を感じとる。壁に貼られた大きめのタペストリーは、日本の仏教寺院のものより極彩色で描かれ、神仏の眼がチャーミングで、女性神の身体のフォルムは、妙に色気がある。どの宗教もそうだろうけど、その象徴的な創造物を作成するアーティストの主流になる人物の影響を、後々まで受け続けるものらしい。ひょっとすると、日本の仏教美術にしても、もっと妖艶になっていたかもしれない・・・・・。
 眼に見えるものから見えないものをイメージし、また見えないものの存在をリアルにイメージしようとする、郁雄の屈折したような世界観を、刺激する彫刻物も雑然と置かれている。
 白いランチョンマットを持ってくると、次々に料理が運ばれてくる。白っぽいカレーはナンにちょうど馴染む味で美味しい。小振りのチキンも口に合う。グリーンサラダのドレッシングも、さっぱりしていてとても美味い。白い乳飲料も辛い料理の口休めになる・・・・・。
 何処の国の料理も、その風土にあった知恵で充たされていて、人間はただ単純に食べるだけでなく、どうにか生きてる実感を楽しもうとする生き物であるらしい。
 程良い刺激に満足し、1.500円を左のポケットから1.000円、右のポケットから500円取り出し、揃えてランチョンマットの上に置いた。またどうぞ、と云う店員の眼に再び眼をやったが、初めの時よりは少し笑っているように感じた。(つづく)
 
 
 
 
 
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