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From 湘南茅ヶ崎。 イコピコのひとりごと
とんぼお姉さま。頑張れ頑張れ!私はいつも祈っていますよ!(笑)

書庫小説「ソルの椅子」・・真坂詠三

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〔4〕失われた光・・・(11)
 
 往幹の通りに出ると、色々な彩色で飲み屋の看板がひしめき合っている。それぞれが確かに何かを主張しながら、「生(せい)」を営んでいる風景が、郁雄の眼にとても新鮮に感じられた。
・・・・・ここはいったい何処の国なんだろう?・・・・・・・
 日本語・英語はもちろん、タガログ語、ハングル、中国語、スペイン語・・・・それからヒンディー語。
 所属のわからない言語表記の看板も多い。どの看板も、垣間見えるどの店も、はっきり云って安普請の吹けば飛ぶような店なのだ。しかし、日本の東京が住みやすい場所であり、またこの東京の辺境とも思える福生という土地が、大きな米空軍の輸送拠点になっていること、さらには「日本円」が、強い磁力を持っているからなのだろう。
 郁雄は一軒一軒飲み?歩くことにした。ただ、さっきのチンピラのような輩しか、日本人らしきものは見当たらなくて、ここだけがきっと異次元に違いない。とっさにそう判断した彼は、再び福生駅の方向に進路をとり歩きはじめる。・・・・両替をして置いたほうが良さそうだ・・・・。
 初めて信号のある交差点まで出ると、そこはもう、普通の多摩地区の顔である。横断歩道を渡り、駅に隣接した大規模商業施設に飲み込まれる。
 当面、生活に必要な小物や食料品を細かく買って、釣り銭を受け取るとき、500円硬貨を増やしていった。そして、ジーンズのポケットのなかで、500円硬貨がそこそこたまった時点で、一旦部屋に戻ることにした。
 ヘンディーがシルバーのマネークリップで寄こした意味がわかったのだ。下手に札入れを見せびらかすと危険だからだ。大きな銭はマネークリップで身体にフィットさせ携帯し、基本は500円で交渉する異次元空間が赤線の歩き方に違いない。そう思った。
 小腹が空いたので、取りあえず何か食べに入ることにしよう。ヒンディー語と日本語で書かれた看板のある店に飛びこんだ。
 無愛想な背の高い褐色の男が、郁雄を睨みながら、
「どうぞ。お好きなところへ」
 流暢な日本語で応対してくれる。ただ眼は笑っていないのが不気味ではあった。(つづく)
 
 
 
 
 
〔4〕失われた光・・・(10)
 
 鉄骨にモルタルを塗り付け固めただけのような歪な窓の桟に、ソープケースが置かれている。新しい石鹸が置かれていて、それを手に取り身体を洗う。アメリカの銘柄のアルファベットの4文字が、みるみるうちにすり減って、何処のメーカーの石鹸かわからなくなってしまった。
 唯、しっかりと香りだけが残っており、バラのフレーバーが、窓の隙間から入って来る夜風と溶け合って、急に人恋しくなってくる。
・・・・・着替えて、街に出よう。・・・・・・
 そそくさとバスタブから上がると、素早くシャワーを浴びて、タオルハンガーに掛けられたバスタオルを頭からかぶった。 スーツケースの中の清潔なシャツに着替えて、ダウンパーカの袖を通した。
 外付けの螺旋階段を降りると、そこはちょうどテナントが立ち並ぶ赤線の裏通りになっていて、そんなすれ違うことさえできないような路地裏でも、ひとが頻繁に行き来している。
 多国籍の夜の蝶たちも急ぎ足で通り過ぎ、昼間みた不思議な静けさとは裏腹に、静かなざわめきが感じられる。垢抜けのしないジャケットを着たチンピラが、わざと肩をぶつけてきた。自分でぶつかってきておきながら、
てめえよう、とインネンを付けてくる。しかし、郁雄は何も語らず、相手の眼を読んだ。
 すると、チンピラは、これからは気を付けろ。と捨て台詞を残し去って行った。(つづく) 
 
 
 
〔4〕失われた光・・・(9)
 
 首に無造作に巻いたマフラーを解くと、明るいブルーのダウンパーカのファスナーを下ろす。白いプラスティックのスーツケースを床にころがすと、ジップを回して中から口を開けていないマルボロの箱を取り出した。
 ベッドに背中からダイブして、一度天井を見上げてみる。煙草を一本取り出すと、ポケットの中のライターを手探りで探す。ポケットというポケットをまさぐってみたが、
ライターが見当たらない。
 転がり込んだ時から、この部屋には青い煙が似合うと思ったのに、煙草を吸うことができない。白いビニルのバスカーテンが、床から一段低くなったバスルーム?の場所を教える。煙草を諦めて、バスタブに湯を溜めようと考える。カランのレバーを上げると勢いよく水が飛びだした。しばらくすると湯気が立ち始める。ぼんやり湯気を眺めていると、なんとなく気持ちが落ち着いてきて、さっき瞬間的に見えた幻影はいったい何だったのだろう。
しかも、ヘンディーは「見えたんだね」とも云った。ということは、ヘンディーは初めて函館で出逢ったとき、既にそのことに気付いていたのだろうか?いつ気付いたかは別にしても、既に彼が二人の関係に気付いていたことは確かなことである。だからこうして今、彼に誘われるように、自分の知らない街に来て、知る必要のある、まだ知らない何かを探しに来たのかも知れない・・・・。「運命」。ふと頭の中に浮かんだ言葉。
 気が付くとバスタブには、程良い暖かさの湯が溜まっていた。身に付けた余分な衣類をひとつずつ脱ぎ去ることで、探していた「暖かさ」にありつける・・・。郁雄はゆっくりとバスタブに身をゆだねながら、ふ〜っとひと息、大きなため息をついた。ただそれは、諦めとか不満から出るものではなくて、自分が探すべき確かなターゲットに、辿りつけそうな予感から出たのだった。(つづく)
〔4〕失われた光・・・(8
 
「郁ちゃんに任せる店はここだよ。しばらくゆっくりして、この街に馴染んでから始めるといい」
 やる気満々でもなかったが、多少拍子抜けするような口ぶりに、郁雄はゆっくりと首を縦に振りおろした。
 貸し部屋にしている2階の部屋は、現在空室になっていて、さっそく身の置き所の無い郁雄の、今夜からの「巣」に宛がわれることになった。
 荷物を下ろすと部屋を検証し始める。クイーンサイズのベッドが置かれており、既に真新しいリネンが二組置かれている。ベッドパッドにピローケース、一枚でも充分暖かそうな上質の毛布も用意されている。
「ありがとう」
 郁雄はヘンディーのやさしさを噛みしめる。声に出すこと無く、左眼を軽くウインクして、郁雄に答えるヘンディーの、ブラウンの瞳に自分の姿がそのまま映し出された瞬間、この男と自分は、実は遠い昔からの旧友であったことを思い出した。瞬間的に。二人とも米軍兵で、後ろ手に手錠をかけられたふたりの姿を客観視した。瞬間的に・・・・・・。
 ふと、我に返った郁雄に、ヘンディーが声をかける。どうしたの?と聞いてから、見えたんだね。と云った。郁雄はやっぱりスローモーションで、首を大きく縦に振りおろした。
 屈託の無い笑みを浮かべながら、ヘンディーはしばらくこれで生活の足しにするようにと20万円を、シルバーのマネークリップごと郁雄に手渡した。一週間もうろつけば、この街の空気の吸い方がわかる。そう云って、仕事を始める気になれば、連絡するようにと、帳合先の一覧を渡してくれた。そして、取りあえず一週間、ひとりで歩け。ふたりで歩くと気付かないことを、先に気付くことが肝心だからね!そう云うと、振り返らずに背中を向けたまま左手を一回振って、ドアを閉め外へ出て行った。
 20秒後、フラットフォーのエキゾーストノートから、1回シフトアップしたのはわかったが、その直後のスロットルの音が聴こえる頃には、かなり遠くを走っていることだけがわかった。(つづく)
〔4〕失われた光・・・(7
 
 カウンターに眼をやると、L字型に造作られた、デザイン的にはごく普通のカウンターなのだが、よく見ると、靴先があたる部分がすり減って横方向に線状の模様になっている。
 ところが、真鍮管でできたフットレストの少し上あたりと、明らかにフットレストが干渉してあたる筈の無い部分も同様にすり減って線状の模様になっているのである。
 どちらが古い痕跡なのか、郁雄はふと考えてしまう。
 推測だが、恐らくフットレスト下の模様がかなり古いものであり、客のほとんどが米軍基地関係者だったのではないか?その後、円が強くなり基地関係者の利用が減るとともに、一方で体格の小さいアメリカンカルチャー愛好家の日本人が、メインゲストになっていったのではないのだろうか?
 今度は椅子に眼をやった。カウンターに合わせて購入したのだろうけど、見事にすべてのカウンターチェアのデザインはまちまちで、ハイトと色目が揃っているだけだ。これはいったいどうしてなのか?数えてみると12脚あり、そのうち2脚だけ、かなり似通ったロココ調デザインのものである。似通っている・・・・。ほぼ同一に見えるのだが、ネコ脚の縦線の数が一本違うだけなのだ。
 一瞬気になって、その他の部分についても精査するよに見ていると、壁際の1脚の座面の裏に何か大きくアルファベットで書いてあるようだった。ただ、文字自体が薄く変色しているのと、ヘンディーが変な目つきでこちらを見ていることに気付いたので、それ以上興味本位でみるのは止めることにした。(つづく)
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