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カネミ油症事件に先立って起きたダーク油事件


ダーク油事件(ダークゆじけん)とはPCB汚染されたダーク油を含む飼料によるニワトリの大量死事件である。

概要

1968年2〜3月頃、西日本で約49万羽[1]ものニワトリの大量死事件が発生した。家畜衛生試験場や福岡肥飼料検査所等の調査により、カネミ倉庫製造のダーク油を含む配合飼料が原因と判明した(その後、ダーク油から多量のPCBが検出される)。
このダーク油なるものは米糠から米糠油を製造するときに生じる油滓や飛沫油を再利用して作られた黒っぽい油であるが、これに脱臭塔の熱媒体として使われていたPCBが混入してしまったことによって本事件が引き起こされた。
PCBの混入はダーク油だけでなく米糠油にも発生しており、こちらはカネミ油症事件という大規模なヒトに対する健康被害を引き起こした。

カネミ油症事件に先立って起きたダーク油事件
(1)ダーク油事件の概要
カネミ油症事件発覚に先立つ1968年2月から3月にかけて、西日本各地の養鶏
場で、鶏の大量中毒事件(以下「ダーク油事件」という)が起きた。同事件では、約
200万羽の鶏が中毒となり、内約49万羽がへい死した。
この事件の原因は、X(カネミ倉庫)がライスオイルを製造する際に生じる副産物であるダーク油
にカネクロール400が混入し、これを配合飼料に添加したことによるものであるこ
とが判明した。

(2)ダーク油事件発生後の事実経過
これに対する行政の対応は概ね以下のとおりであった。

① 農林省福岡肥飼料検査所(以下「福岡肥飼検」という)は、1968年3月15
日、農林省畜産局流通飼料課(以下「流通飼料課」という)にダーク油事件の発生
を報告するとともに、同年3月16日、東急エビス産業株式会社に対して、ダーク
油を原料として使用している配合飼料の生産と出荷の停止を指示した。

② 同年3月18日、福岡肥飼検は、九州、山口の各県にXのダーク油を使用した飼
料の回収を指示するとともに、同一飼料による再現試験の実施を依頼した。

③ 同年3月19日、福岡肥飼検は飼料課長のC課長らを鹿児島県に派遣し実情調査、
東急エビス産業株式会社九州工場に係官を派遣して立入調査を行った。
C課長は本来の職務権限としては農林大臣の指定している飼料生産工場に対して
立入調査権限が認められるにとどまり、Xに対しては立入調査権限はなかったが、
Xの了解を得て同年3月22日に現地実態調査の実施に踏み切った。
C課長はダーク油の製造工程を見て廻るうち食用油も同一原料により同一工程で
製造されていることが判ったが、X側から、食用油の方はダーク油とは全く関係が
ないという説明がなされた上、それ以上触れられたくないという口振りであったし、
余り深く追求すると今回の調査に影響すると考え、またC自身の職務も餌の検査、
飼料の調査を所管するものであって食用油を所轄するものではないから、Xの方で
関係ないという以上ことさらに関心を持つまでもないと思い、結局あえて食用油の
方には触れずダーク油の調査一本にしぼった。
X側は、C課長の調査に対して、ダーク油はいつも同じ工程で同じ原料を使用し
ており、何ら異常はなく問題もない筈であると反発した。これに対してC課長は、
Xがダーク油を混入した配合飼料によって現実に事故が発生していると反論したが、
Xの代表者らはこれを否定した。

④ C課長は福岡肥飼検のD所長に対し、実態調査の結果について「ダーク油の大ま
かな工程を把握したがその製造工程中にはなんら心配がない」旨報告し、その旨は
直ちに農林省流通飼料課に連絡された。さらにC課長から福岡県農政部の係官に対
して非公式に、「実態調査の結果では食用油には危険を生じないであろう」という情
報が伝えられた。これが後日福岡県農政部が同県衛生部にダーク油事件の経緯を連
絡しなかった理由の一つにあげられた。
同年3月25日、福岡肥飼検から農林省家畜衛生試験場(以下「家畜衛試」とい
う)に配合飼料及びダーク油を添えて原因物質の究明を目的とした病性鑑定が依頼
された。

⑤ 同年6月14日、家畜衛試のEは、鑑定回答書を福岡肥飼検に提出したが、回答
書には、「本中毒と極めて良く類似した鶏の中毒がアメリカで1957年に発生し
ている。アメリカで発生した中毒の毒成分と同一であるかどうかは不明であるが、
油脂製造工程中の無機性化合物の混入は一応否定されるので、油脂そのものの変質
による中毒と考察される」と記載されていた。
Eは当時農薬、殊に有機塩素系のBHC,DDTの研究に従事していたところ、
当時有機塩素系化合物の検出にガスクロマトグラフィを使用することは、専門家の
間では一般的知見であった。そして上記の「考察」にいう「油脂の変質」がなされ
たかどうかを調べるについては、簡単な手続で一応の検査をすることもでき、さら
に酸価、過酸化物の数値、カルボニール価、不けん化物の含有量の性状分析等検査
すべき全項目にわたって分析調査しても、一週間余りあれば容易に検査しうるにも
かかわらず、家畜衛試では油脂の変質の存否について何らの化学分析、検査等も行
わなかった。

⑥ 厚生省国立予防衛生研究所で食品衛生部主任研究員をしていたFは、同年8月1
6日、友人から借りた家畜衛試の病性鑑定書を読み、鶏がこれだけ死ねば常識的に
見ても精製食用油も人体に影響を及ぼすのではないかと思い、同月19日流通飼料
課のG技官に電話し、「農林省の方ではよく検査していないようだから厚生省の方
で検査してみたいのでダーク油を分けて欲しい」と頼んだが、同技官から「ダーク
油事件は既に解決済みであるし、ダーク油そのものも廃棄処分にした」として拒否
された。
そこで、Fは同日厚生省に赴き、同省食品衛生課のH課長補佐に対し、ダーク油
事件では精製油にも危険性があるのではないかと注意を促した。



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(3)ダーク油事件に関する国会での質疑
1975年11月16日の衆議院農林水産委員会で、社会党(当時)のI委員が、
ダーク油事件に関して、1968年3月22日の福岡肥飼検のC課長のXの立入り調
査の際にライスオイルの汚染について何も調べていなかったこと、また、その時点で
農林省から厚生省に知らせていないこと等について追及した。
この点に関し、J農林省畜産局長は「現実に食用油工程の一分岐としてダーク油が
生産されていたことから見て、また油症事件が発生し、原因物質が判明した時点でい
ろいろ振り返ってみると、調査方法について、より適切な方法を取るべきではなかっ
たかという反省はしている。」と答弁している。


また、K農林政務次官は「厚生省との連絡についても、不十分な点があったことは
今にして考えると、ご指摘のとおりである。私どもは単に配合飼料のみを考えるので
はなく、食品衛生全般について今後、足らざるところは十分に反省をし、また厚生省
を始め関係当局との連携も密にするように、今後努力をしていきたい」と答弁してい
る。


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7 事件発生後の国・自治体の対応
(1)事件直後の対応
1968年10月3日、油症被害者から大牟田保健所に届出があり、同月8日、同
保健所は福岡県衛生部に報告し、同月11日に同部は厚生省食品衛生課に報告した。
同月15日、食品衛生法に基づき、福岡県が、Xに対してカネミライスオイルの販売
禁止命令を行い、北九州市が、同社に対して1か月の営業停止処分を行った。

(2)その後の対応
① 米ぬか油中毒事件対策本部・カネミ油症問題関係省連絡会議
前記のとおり、対策本部は、1968年10月19日に設置されたところ、19
69年3月20日までに4回の会議を行なっているが、その後に開催されたとの事
実は認められなかった。また、会議の内容は、事件の経過、研究結果の報告などで
あった。
2003年3月28日、カネミ油症事件が再度社会問題化する中で、カネミ油症
問題関係省連絡会議が設置され、2004年10月1日までに4回の会議が行われ
ているが(厚生労働省に対する照会結果によれば、その後も随時開催しているとの
ことである)、現時点では各省の情報提供、意見交換にとどまっている。

② 厚生省における調査研究
厚生労働省に対する照会結果によれば、「1968年度に、厚生省国立衛生試験所
等の研究員が、油症並びにダーク油中毒事件における原因物質としての塩化ジフェ
ニルの役割を明確にする目的で研究を行った」とのことであるが、国がカネミ油症
事件に関して残した記録としては、1972年6月の厚生省環境衛生局食品衛生課
編「全国食中毒事件録」以外には見当たらず、その内容も、事件の端緒の概要が記
載されているにすぎない。

一方で、厚生省の担当部署の係官の作成した論文が1969年から1973年ま
でに4本発表されている。この内、「PCBによる人の健康に及ぼす影響」厚生省環
境衛生局食品衛生課近寅彦著(「食品衛生研究」1973年5月号))によれば、「カ
ネミ油症問題は油症に対する診断と治療の開発と健康障害による生活困窮の救済が
必要である。」、「診断と治療についてはまだ研究の余地が大きい」「最近改訂された
診断基準によってもなお疑症は残っている。」、「未認定患者の把握(診断)も含めて患
者の追跡調査は慢性中毒事件として急性中毒と同様に行政機関が中核となってもっ
と積極的に対策をすすめてゆくことを考える必要がある。」などといったことが既に
指摘されていた。

しかるに、国は、事件発生当初は、上記論文に窺われるように、「慢性中毒事件と
して急性中毒と同様に行政機関が中核となってもっと積極的に対策をすすめてゆく
ことを考える必要がある」といった認識を持ちながら、その後は現在の全国油症治
療研究班に研究を委ね、研究費の支出を行うのみにとどまっている。しかも、次に
記載のとおり、同研究班の活動は、油症被害者の救済・支援にとって、十分な役割
を果たしてきたとはいえない。


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③ 油症研究班の活動
油症の研究・治療は、1968年の事件発生当初より、九州大学医学部を中心に
組織された油症研究班が行ってきた。その後、研究・治療を行う組織は、添付の図
表2(略)のとおり変遷してきた。現在、油症の研究・治療を行う組織である全国
油症治療研究班は、油症治療研究班並びに班長の下部に組織される追跡調査班、油
症診断基準再評価委員会及び油症相談員によって構成されている。
全国油症治療研究班は、2001年度からL九州大学大学院皮膚科学教授が班長
になり、「熱媒体の人体影響とその治療法に関する研究」を行っている。
追跡調査班は、油症治療法に関する基礎的な臨床的研究を行うとともに油症患者
の検診並びに追跡調査を目的としており、全国に11(千葉県、愛知県、大阪府、
島根県、広島県、山口県、高知県、福岡県、長崎県、鹿児島県及び関東以北ブロッ
ク。関東以北ブロックについては、東京都、川崎市、埼玉県、茨城県、長野県、福
島県、横浜市、神奈川県及び栃木県の9自治体で構成されている)設けられている。
追跡調査班の活動内容は、研究班会議への参加、油症患者の追跡調査、油症患者の
実態把握、定期検診の実施、健康管理の指導、油症患者からの相談等である。
厚生労働省は全国油症治療研究班に対して研究費を補助しており、その額は19
68年度の2265万2000円から始まり、2004年度は1億4214万90
00円となっている。

なお、関連する規程は、厚生労働科学研究費補助金取扱規程、厚生労働科学研究
費補助金取扱細則、厚生労働科学研究費補助金公募要綱である。


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④ 認定制度・治療体制の問題点
現在でも油症専門の病院等はなく、油症被害者は、それぞれの個別症状に対する
処置を一般の病院において行っているのが現状である。油症であることを伝えない
で受診している油症被害者も多く、陰部の症状など、受診しづらい症状も多々ある。
PCBの排泄促進に向けた治療など、油症治療研究班の研究成果を活かした治療を
行う専門病院などは存在しない。
油症についての認定は、都道府県と指定都市が行っており、その基準は、現在の
全国油症治療研究班が定めている。認定までの主な手続の流れは、添付の図表1(略)
のとおりである。診定会議は、福岡県、長崎県、広島県のみで開催されており、そ
れ以外の県では、診定を全国油症治療研究班の油症患者診定委員会に委託している。
認定されると、Xに請求すれば、一時金22万円が支払われ、医療費についても、
Xに請求すれば支払われるが、手続は煩雑である。
この認定手続によって、1969年に認定された患者は、1万4627人の届出
の内、わずかに913人で、2006年1月末までの累計でも、1892人にとど
まっている。

認定に至るまでの問題点としては、受診のためのアクセスの障害や、認定基準の
問題点、認定を受ける意義が少ないことが指摘されている。
すなわち、認定を受けるための検診は、年1回しか実施されておらず、検診場所
も福岡県と長崎県で各3ヶ所、他の9県では各指定病院1ヶ所に限られている。油
症被害者は散在しており、遠方から行くことは容易でない。症状が悪ければそもそ
も行くことすらできない。油症によって十分に働けず、経済的に困窮している患者
も多く、交通費も負担となっている。

認定基準の変遷については、添付の図表3(略)の「油症診断基準比較表」のと
おりである。認定基準については、皮膚症状に偏った診断がなされてきた。届出に
対する認定の割合はわずか13%ほどにとどまり、ほとんどの被害者が認定されて
こなかったという経緯がある。また、1983年にPCDFが原因物質の一つと確
認されてからも、それに対応する形で基準自体は見直されず、2004年になって、
ようやくPCDFの血中濃度が判断要素に加えられたにすぎない。これについても、
ライスオイルを摂取してから長い年月が経過しているため、一旦PCDFが体内に
入っても年月の経過によって排出されてしまうこともあり、基準として十分とはい
えないという問題がある。

そもそも、食中毒事件においては、同じ飲食物を摂取し、体調に変調を来たした
集団を対象にして行政対応がとられ、症状の特異性には拘泥しないのが通常である。
しかるに、カネミ油症事件では、皮膚症状に偏った診断がとられてきたため、同
じ家族で、同じようにライスオイルを摂取しながら、認定・不認定が分かれるなど、
不合理な状況が生じている。

さらに、仮に認定されても、一時金が22万円支払われるだけである。医療費は、
認定されると、前述のとおり、Xが治療券を交付し支払うことになっているものの、
Xに医療費を直接請求してくれる医療機関は限られており、一旦医療機関に立替払
をした後、Xに請求するという手続をふまなければならない。

以上のとおり、患者個人が、それぞれの症状について、自費で医療機関に通って
対症療法を受けているのが実情である。しかも、カネミ油症であることを秘匿せざ
るを得ない患者が多く、かつ、医師側に、油症に関する専門的知見のある者はほと
んどいないため、どこまで適切な医療がなされているかは、極めて疑問である。

⑤ 生活支援
油症被害者には、症状によって職を失った者、十分に働けなくなった者が多数存
在する。これは当然、収入の減少につながり、生活の困窮をもたらしている。民事
訴訟により、Yから、和解金等の支払を受けた者や、国から仮払金の支払を受けた
者もいるが、治療費・生活費として使用してしまい、それでもなお困窮から抜け出
せない状態である。
日常生活においても、体の障害、だるさ等から、不便を来たし、他人の助力を必
要とする者もいる。通院は容易ではなく、交通費の負担も少なくない。
また、次世代への影響があるとされていることから、婚姻をあきらめた者、出産
をすることを控えた者も少なくない。油症被害者のほとんどは、自身が油症被害者
であることを秘匿しており、このことが親戚に知られることをおそれている。その
ため、父母等の仮払金返還債務についても、相続放棄によって第2順位の親族らが
請求を受けることになるのを避けるため、相続放棄をせずに支払うこととしたり、
子らが婚姻する際、その相手方に発覚することを避けるため、無理をして子の債務
だけは支払ったりした者もいる。しかし、これらの油症被害者の苦難について、国
から何らかの援助、支援等がなされたとの事実は認められなかった。
⑥ 1985年の法務、農林、厚生三大臣協議
1984年3月の小倉1陣訴訟の控訴審判決及び1985年2月の小倉3陣訴訟
の第一審判決において、国の責任を認める判断がなされたことを受け、同月22日、
法務、農林、厚生三大臣は協議を行い、国の法的責任について争うこととは別個に、
「カネミ油症事件に関する措置について」と題して、以下の措置を行う合意をした。
Ⅰ 油症被害者に対し、厚生省と農林省は、さらに綿密な連携の下に必要な対応
を行う。
Ⅱ 油症治療研究と油症被害者追跡検診の有機的連携を図る等研究体制を整備強
化するとともに、生活困窮世帯に対し、世帯更生資金の特例貸付けを引き続き
実施する。
Ⅲ Xに対し、JAS認定工場としての必要な指導を行うほか、こめ油製造業に
ついての中小企業近代化促進法に基づく経営合理化の指導、こめ油製造業にお
ける米ぬか油の円滑な調達のための協力要請及び同社所有の倉庫について米の
需給操作上可能な範囲内での有効活用の配慮を行う。
この合意のうち、国は、Ⅲについては、Xに対して、毎年倉庫料を支払ってきた。
しかし、Ⅰ、Ⅱについては、前記の点以外に顕著な取組みの成果はなかった。申
立人らからの事情聴取等によっても、この協議以降で、状況に変化は認められない。

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