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その計画を大胆にも実行して、十日後には本当に電気店からテレビが届いたから、栄治は驚いて、目を
白黒させた。電気店の従業員がテレビを室内に運び込み、室内アンテナの配線をして帰って行くと、それ
を見ていた大家さん家族が吃驚仰天して、直ぐに菊江のところに飛んで来て聞いたのだった。
「山本さん、この長屋でもテレビを持っている家はそうはあらへんのに、よくも思い切ってテレビを買い
なさったねぇ」
「いえ、大家さん、このテレビは観るために買うたんとちがいますのや、お金が必要で買いましたんや」
「えっ!観るために買うたのと違うて、それどう云う意味ですねん?よう分かるように説明してください
な」
「緊急にお金の要りようが有りまして、それで買いましたんや・・」
「よう分かりません、もっと分かるように話してください・・・」
菊江もここは腹を据えて、すっかり話すしか無いと思った。
「実は、住み込みの良い条件の仕事が決まりまして、引越し費用や、何やかんやでお金が緊急に必要にな
りまして、それで月賦で一旦買ったこのテレビを質へ入れて換金し、それで引越しと当座の生活費を得よ
うと思うてるんです」
「そしたら残りの支払いの方はどうしますのや?」
「それは、あとからボチボチ返していきます・・」
「へぇー、それでは残りの月賦の支払いのことを思うとちょっと大変ですなぁー、そやけど確かに今すぐ
お金は入ってきますわね。それはえらいこと考え付きはりましたなぁ、そのアイデア私らもお金が必要に
なった時は使わせて貰ってよろしいかな?」
「そらぁどうぞ遠慮せんと使ってくださいや」
「わ、ははははー」
いやはや、なんとものん気な会話である。貧しい人々が切羽詰まった時に考えた事とはいえ、無計画で
無節操な感じがする。これを生活の知恵と思っていたらまた何時の日か破綻を繰りかえすであろう。菊江
の金銭感覚を心配する栄治は傍で聞いていて、こんな事では、この先どうなるのであろうかと、不安でな
らなかった。 つづく
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