林誠司 俳句オデッセイ

新講座(松戸市八柱・第3月曜日)、(荒川区町屋・第2金曜)始まります。地元の方ご参加ください!

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辺界に風まきあがる昼寝覚     大道寺将司
 
(へんかいに かぜまきあがる ひるねざめ)
 
今日は川越へ行ってきた。
大道寺将司句集について、作家で詩人の辺見庸さんとお会いし、いろいろとお話させていただいたのだった。
 
大道寺将司は死刑囚である。
東アジア反日武装戦線「狼」部隊の元メンバーで、1974年8月30日、三菱ビル爆破テロ事件の犯人である。
死者7名負傷者約200名。
1987年に最高裁で死刑が確定し、それ以来、東京拘置所で、死刑囚として拘置されている。
 
母親が俳句の本を差し入れしたのをきっかけに、1996年暮れより句作を始めた。
今年4月、辺見さんの尽力で、太田出版より句集『棺一基』(かんいっき)が刊行された。
 
句集名は、
 
棺一基四顧(しこ)茫々(ぼうぼう)と霞みけり
 
からとった。
今日は、そのいきさつ、大道寺俳句の魅力などを語っていただいたのだった。
収録作品をいくつか紹介しよう。
 
天穹の剥落のごと春の雪
 
ひとゆるぎして凍雲の溶けはじむ
 
逝く春の疾風(はやて)のごとき己なり
 
中でも「逝く春の」に、私は感銘した。
こういう自然詠もあるが、多くは、
 
囚人に貧富の差あり秋深し
 
独房の鉄扉冷たき夜半かな
 
絞縄(こうじょう)の揺れとどまりて年明ける
 
などの獄中風景、あるいは、
 
いなびかりせんなき悔いのまた溢る
 
などの、自分の手によって、命を奪われた人への思い、悔やむ心などで構成されている。
「絞縄」とは絞首刑の縄である。
この情景(もちろん想念であるが)がすさまじい。
また一方では、
 
瘡蓋(かさぶた)を剥けばおぼろの国家かな
 
など、原発事故に対する政府への義憤、死刑囚への同情、死刑制度への反発、天皇制への批判など、人によっては、多くの人の命を奪った死刑囚がなおも言うか! と思うような、自己の思いも率直に表現されている。
 
その問題はともかく、この句集を読んだ時、私はしきりに正岡子規を思った。
大道寺氏は、獄中で癌となり、椎間板ヘルニアにもなった。
2メートル先のトイレに1時間這って行った、という。
同じ椎間板ヘルニアであった子規は、トタン屋根に映った月光を見て、月を見たいと、窓まで何時間も這って見ようとした。
子規は「病床六尺」と称し、病床の六尺四方の世界を詠み続けた。
大道寺氏も、独房、約二畳の閉ざされた部屋で俳句を詠み続けている。
 
私はどの句集よりも、四季の移ろい、というものを感じた。
彼は外の風景を見ることは出来ない。
彼が感じることの出来るのは、温度(気温)だけなのである。
しかし、この句集には、実に切実な季節感がある。
四季の移ろい、そのものが命の移ろいになっている。
むき出しの命と、四季の移ろいが一致している。
そういう凄味がある。
 
この句集は有季定型で構成されているが、決して美しい四季の歌ではない。
しかし、四季の移ろいとは、命の移ろいなのだ、と考えると、俳句はなぜ四季の歌なのか、ということがわかってくる。
 
死刑囚が、句集を発行することに違和感を覚える人もいるだろう。
被害者の家族の心情を思うと、もろ手をあげて歓迎すべきことであるかどうかはわからない。
しかし、この一冊『棺一基』に俳句の凄さをあらためて思った。
辺見さんもその点を同意してくれたのが、うれしかった。
 
句の鑑賞を忘れてしまった。
「辺界」とは「辺境」のことである。
辺境とは、この場合、獄中という外の世界から隔離された場所のことだろう。
さらに言えば、そういう境涯にある、自分の心そのものでもあろう。
そこに風が巻き上がり、作者は静かに昼寝より目覚める。
そのことだけで、凄味を私は感じるのだ。
 
 

閉じる コメント(5)

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「四季の移ろいとは、命の移ろいなのだ、と考えると、俳句はなぜ四季の歌なのか、ということがわかってくる。」
この言葉に全てが集約されます。やっぱり俳句は命の調べです。命の調べは四季の移ろいです。この文章を鑑賞して、そういう思いを深くします。四季が育む命、四季に育まれる命。自然あらばこその命、生かされてある有難い命。であるからこそ、歌わねばならない四季の命がある。ということを、つくづくと思います。感謝。

2012/5/17(木) 午後 8:37 大介 返信する

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大介さん 俳人も四季の移ろいをもっと考えるべきでしょうね。

2012/5/21(月) 午後 9:39 セセエト 返信する

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初めまして。辺見庸さん、遅ればせながら読んでみます。また、寄せていただきます。

2012/5/27(日) 午後 0:42 after stroll 返信する

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strollさん 初めまして。ぜひ読んでください。私も今、読んでいます。

2012/5/27(日) 午後 10:50 セセエト 返信する

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誠司さん。これは、どうも。読書なんてものではありません。とりあえず眺めてみようかな〜そんなところです。じゃあ、また。

2012/5/28(月) 午前 2:01 after stroll 返信する

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