|
社説:解散・総選挙 政治のねじれ解消の好機だhttp://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20050809k0000m070140000c.html
小泉純一郎首相が政権の命運をかけてきた郵政民営化法案が8日の参院本会議で大差で否決された。首相は直ちに衆院を解散し、総選挙は9月11日に行われる。与党が解散回避を求め、解散詔書の署名を拒否した閣僚を罷免した末に首相が踏み切る異例の解散である。自民党の分裂選挙に突入すれば、政権交代の可能性をはらんでくる重要な衆院選となる。
反対票を投じた自民党議員は実に22人。雪崩を打って造反者が続出する事態に至ったのはなぜか。一言で言えば、小泉改革を現状のままの自民党の構成で続けていくのは限界が来たということだ。
小泉政権が誕生して4年余。当初から首相の改革路線には自民党内に根強い対立を抱えてきたが、首相はこれを逆手にとり、「抵抗勢力との対決」をアピールし、世論を引きつけることでしのいできた。一連の小泉改革は毎回、党側との妥協の産物ではあったが、一応の結論を出せたのは、首相が国民の高い支持率を維持し、党側もそれを恐れたからであろう。
今回、空気が変わったのは、首相が頼みとする支持率が低下し、反対派が「恐れるに足りず」と感じ始めたことの裏返しだ。法案の内容だけでない。党や派閥を無視してきた首相の政治手法や人事に対したまってきた不満が一気に噴き出したということである。
小泉首相も法案の中身は二の次で権力闘争意識をむき出しにした。首相本人が現状に限界を感じており、それを打破するため、実は元々、成立より選挙を望んでいたのではないかと思えるほどだ。
表の内閣より、党が陰で力を握る二重権力構造を解消するため、小泉首相が内閣主導の政策決定を目指したのは間違いではない。だが、議院内閣制は、国会での与党の数が前提だ。「自民党をぶっ壊す」と叫んで与党との対決に活路を見いだす手法をいつまでも続けるのは根源的に無理があった。
本来、郵政法案も選挙のマニフェストに盛り込む時点で党内の決着をつけるべきだったのだ。その点、反対派の責任は首相以上に大きい。小泉首相の最重要テーマが郵政民営化であるのを百も承知で党総裁に選び、民営化を国民に公約しながら具体化する段になると造反するのは、「選挙の顔」として利用しただけだと言っているのに等しい。そうなら国民をバカにした話だ。
執行部も右往左往しただけだ。法案の良しあしでなく、「解散すれば政権を失うかもしれない」と反対派を説得するのは、政権を担当し、政策を遂行していく自信がないと告白しているようなものだった。首相も党も、政党の命であるはずの政策を軽視し、党内のねじれを放置してきたツケが、いよいよ回ってきたのである。
しかし、政策で大きなかい離がありながら、同じ自民党を名乗るという分かりにくい状況が、今度の内紛の結果、少しでも解消されるのであれば悪いことではない。
小泉首相が法案反対者を公認せず、その選挙区には新たな候補を擁立し、選挙後も組まない方針を打ち出したのは当然である。反対派内には新党を結成する動きがあるものの、「選挙が終わり、小泉首相を除いて一緒になればいい」との声が聞こえる。だが、これは有権者には分かりにくい姿勢と映るだろう。
早々と民主党との連立の可能性にも言及している公明党も「政権の枠組みは選挙結果次第」では済まされない。自民党との連立政権を継続するというのなら事前に有権者に明確にしておく必要がある。
小泉首相は解散・総選挙を郵政民営化に対する国民投票だと位置づけている。郵政のみに争点を絞り、民営化に反対する造反組も民主党もひとまとめに「抵抗勢力」と批判して選挙を戦うつもりなのだろう。ならば、この際、既に妥協を重ねた形ばかりの郵政民営化案を、「官から民へ」の原点に立ち返って作り直し、有権者に提示すべきだ。
だが、争点は郵政に限らない。国民に関心の高い年金、財政再建と増税、政治とカネ、首相の靖国参拝、行き詰まった対中国・韓国外交、北朝鮮の拉致問題と核開発、国連安保理常任理事国入り、イラク・サマワに派遣した自衛隊をどうするか、そして憲法改正……。こうした重要課題をひとまとめにした国民投票だ。そして、それぞれの政策を各党が競い、有権者が判断する。それが2大政党化時代の政権選択選挙だ。
民主党もこのままではいられない。今回の解散は、民主党が政権を追い込んだのではない。現状は、自民党分裂という「棚ぼた」式で政権交代の可能性が取りざたされているに過ぎないのだ。他の争点だけでなく、当然、郵政に関しても党内できちんとした対案を出すべきだ。
郵政民営化は、ひいては「大きな政府か、小さな政府か」につながるテーマだ。岡田克也代表が「将来的には民営化が望ましい」と言いながら、政府案の批判だけに終始したのは、党内の労組系議員を中心に、自民党と同様、民営化反対派を抱え、対立を回避するためだと既に有権者も見抜いている。民主党も、そんな党内のねじれを解消して初めて、「小泉・自民党」か、「岡田・民主党」か、政策を通じて有権者が選ぶ政権選択選挙の土俵が整う。
選挙の行方はもちろん分からない。どの党も単独過半数が取れなければ、一時的に政界は混乱するかもしれない。だが、それが新たな政界再編に進む可能性もある。行き詰まった政治を変えるきっかけになるのなら、今回の郵政騒動は決してむだではない。
誰が本当に実のある改革を進めてくれるのか−−。それを見極める総選挙にしたい。
|