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一瞬、宙太が「よう、ハニー!」、ニカッと笑顔で見上げた……ような気がした。でも、それは、幻覚、ベッドはカラッポだ。
拍子抜けというか、寂しいというか。なんだか、しょんぼりとなってしまう。でも、たぶん、あとであらわれるかもよ、と、自分にいい聞かせて、なんとか、気持ちを取り直す星子だ。
その時は、宙太になんて声をかけようか。抱きついて、ワーッて泣いちゃうかな。それとも、激しいキッスの雨でも降らせますか。
なんだか、その瞬間を想像するだけで、ドキドキワクワクしてくる。
ちょっとロマンチックな旅先の出会いよね。だけど、出会いといっても、宙太のように見てくれと実際がいい意味で違うのなら大歓迎だが、その反対で、いい人間に見えたのが、とんでもないワルってことだってある。
そういえば、この前、『さくら』で旅したときに出会ったオジサマもそんな人間の一人だった。親切でやさしくて、おまけにルックス最高のダンディな紳士だったオジサマ……でも、じつは、自分の出世のために不倫相手のOLを殺そうとした、とんでもない男だった。
あのオジサマと出会ったのは、食堂車の中だ。口をきいたのは朝だったけど、前の晩、たしか、食堂車にいるのを見かけた覚えがある。
ひょっとすると、今、食堂車にいるかも……ちょいと、この目で確かめてみますか。
星子、ガバッと起き上がると、通路へ出ようとした。そのとたん、丁度のぞきこんだ大きな人影とドスンとぶつかった。
「イタッ」
星子、顔をしかめながら相手を見上げると、メガメをかけたお巡りさんじゃないですか。腕には、鉄道警察隊の腕章を巻いている。
そのお巡りさん、「失礼」といいながら、鋭い目つきで上段と下段の四つのベッドを見回した。このボックスの乗客は今のところ星子一人で、他のベッドは空いている。
隣のボックスでも、別のお巡りさん達がベッドを調べているようだ。じきに、メガネのお巡りさんは顔を引っこめると、仲間のお巡りさん達をうながして立ち去った。
なんか、ただならない気配じゃないですか。もしかして、事件がらみかもよ。いったい、どんな事件かな。
好奇心が人一倍強い星子さんだ。目がギンギンしかけたけど、押さえて押さえて。その前にオジサマのことを確かめなくては。
えーと、食堂車はどこかな。どこかいな。通路を歩いて探してみたけど、どういうわけか、見つからない。
おかしいな、どうなってんの。首をかしげたところへ、車掌さんがやってきた。
「すいません、食堂車はどこですか?」
星子がたずねると、車掌さん、ていねいな口調で答えた。
「申し訳ありません、食堂車はないんです」
「ない?」
星子、目をぱちくりさせた。
「そんなことないでしょ。ちゃんと連結してるはずです。だって、わたし、明日の朝、食堂車でコーヒーとトーストを食べることになってるんですから」
そう、時間が戻れば、そういうことになる。
「は?」
今度は、車掌さんが目をぱちくりさせた。そして、なつかしそうな顔でしみじみとつぶやいた。
「そう、そんな時もありましたよね。朝の食堂車からコーヒーのこうばしい香りがプーンと薫ってきて、乗客の皆さんの楽しい笑い声が……ああ、いい時代だったな……」
「いい時代って……」
「はい、食堂車が連結されていた頃が、この『さくら』も一番ハナがありましたよ。まさに、ブルトレの全盛時代でしたから」
「はん?」
星子、またもや、目をぱちくりだ。
「ま、まさか、食堂車は連結されていないって……」
「そうなんですよ、もう、何年になりますかね。めっきりさびしくなりましたよ、ほんと……」
車掌さん、目をしばたきながら立ち去った。
……もう何年も前に、この『さくら』から食堂車がなくなった……そんな……ということは、わたし、あの時の時間に戻ったんじゃないんだ。その後の時代へきてしまったんだ。
ということは、宙太さんとも会えないし、星丸くんや宙美ちゃんとも会えない、春ちゃんやマサルさん、そして、右京さんとも……再会できない。
なんてことよ、もう!
星子、ぼう然と立ちつくした。
(宙太より)なんか、『さくら』の雰囲気があやしくなってきたな。これで、僕と星子さんの出会いはあるわけ? 頼むよ、しっかりしてよ、ヤマチャン!
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その後の時代に来てしまったって…どうなるんだろう! 宙太さんには無事逢えるの?!
2007/1/3(水) 午前 0:11 [ makogizumo ]
こうゆう展開になりましたかぁ・・・この後が楽しみ♪ワクワク!!
2007/1/3(水) 午前 1:13