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第三章 愛の鐘が鳴る、一人旅
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わぁ、グラバー邸じゃん! なつかしーっ!
あの有名な歌劇のヒロイン蝶々夫人と最愛の人ピンカートンが住んだ束の間の愛の住まい……なんて、ほんとうは何の関係もない、幕末のイギリス商人グラバーさんがお建てになったお屋敷ですけどね。でも、蝶々夫人の舞台だっていっても、フム、なるほどって思ってしまうほど、ムードがある観光スポットだ。
わたしも、カレと二人で住んでみたぁーぃ!
なんて、うっとりしている場合かっ。
しゃんとせい、星子!
うるさいっ、いちいち、いわれなくても、こっちはかなり深刻な状態なんだ。ショックと緊張で心臓がギューッとしめつけられっぱなし。
だって、初恋のヒト・リョウクンにそっくりのあの乙女さんが殺し屋だなんて、それこそ、信じられない。宙太のヤツ、悪ふざけでいっているんだ。きっと、そうよ!
でも、宙太の顔、真剣そのものだった。
「いいわ、だったら、証拠を見せて」
星子が、つっかかるようにいうと、
「ザンネンでした、それは捜査のヒミツ」
「じゃ、信用できないな」
「星子さん……とにかく、あとでまたくわしい事情は話すから、クルマから降りてイイコチャンしててね、バァイ!」
といいながら、なんとか、星子を降ろそうとしたけど、もちろん、テコでも動くような星子じゃない。
すったもんだしているところへ、カップホルダーに置いてあった宙太の携帯電話が鳴った。
ディスプレイには、「M携帯」という着信表示が……Mっていうのは、きっと、マサルだ。
宙太、あわてて携帯電話を掴むと、
「あ、もしもし……」
すかさず耳を澄ませた星子の耳に、聞こえてきたのは、やはり、マサルの声だった。
「警部、オレだ。今、グラバー邸に着いたところだ。ヤツのターゲットは、ここにいるらしいぜ」
「な、なに! わかった、すぐ、いく!」
急いで携帯電話を切った宙太に、
「ターゲットって、なんなの?」
「君にはカンケイない」
「おおありよ。もし、コロシにかんけいしているんなら、立派な証拠になるじゃない」
「ったくぅ、そういうのをヘ理屈っていうの」
「いいから、早く!」
「でも、こわくない?」
「こわいのは、オトコだけ」
「よくいうよ」
というわけで、宙太、仕方なく星子を乗せたまま、グラバー邸へ――そして、駐車場に車を停めると、石段を駆け上がった。星子もあとから遅れまいと、懸命にくっついていった。
なにしろ、グラバー邸といえば、長崎観光の目玉の一つだよね。そのせいか、観光客で大賑わい。その間を縫うようにいくと、見晴らしのいい庭園に出た。眼下には長崎湾が見えて、大きな船が岸壁に横付けされ、向こうには稲佐山が美しい姿を見せている。
でも、残念ながら、景色に見とれている余裕はありません。
懸命にあたりへ目を配っていると、いた、マサルだ!
木陰の手前で、何かをうかがっている。マサルのその視線をたどっていくと、前方の建物の陰に人影が……乙女だ。
その姿を見て、星子、一瞬、背筋を冷たいものが流れた。だって、星子と一緒だった時の乙女とは、まるで、別人だ。かなり離れているのに、獲物を狙う野獣のような殺気が伝わってくる。
――やっぱり、宙太さんのいうとおり、乙女さんは……。
そうなると、いったい、獲物は、殺しのターゲットはどこにいるわけ?
と、すかさず、宙太が低い声でボソッとつぶやいた。
「あの男がターゲットだな」
「え?」
宙太の視線を追うように見ると、庭園の片隅のベンチで、パイプをくわえた中年の男の人がカンバスに向かい、写生をしている。顔立ちは柔和で、身なりもきちんとしていて、品が良い。プロの画家か、それとも、絵が趣味のお金持ちのオジサマっていう雰囲気だった。
「あのオジサマが、ターゲット?」
星子、ちょっと、信じられない顔でいった。
「ま、じきにわかることさ」
宙太がそういった直後だった。
乙女、コートの下に手を突っ込んで、何やら取り出した。
オヒサマの光りにキラッと光ったものは……。
細身のナイフだ!
「あいつは、ナイフ投げの天才なんだ。狙ったターゲットは、絶対にはずさないぜ」
「!……」
(追記) ちょい遅れ気味ですが、よろしく。あとは、明日につづく!
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私もグラバー邸、行った事あります〜^^ 情緒があって、人は多かったけれども時間がゆっくり流れているような〜。
なんて言っている時ではありませんネ〜! 乙女さん、本当に殺し屋なんですか〜! 次が気になりますぅ〜。
2007/10/5(金) 午後 11:03