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こ、このぉ! いわせておけば!
星子が大爆発しかけた瞬間、宙太、すかさず、その前に立ち塞がった。
「なるほど、人形か。でも、人形にも心がある。大事にしてくれる人には、ちゃんと、あったかくなる気持ちを返してくれるもんスよ」
宙太、おだやかな顔でいった。たしかに、こういう時って、頭に血がのぼったほうが負けだよね。でも、星子には、そんなこと無理。それだけ、純粋ってこと。
「ふっ、あったかい心か」
黒木、せせら笑った。
「こいつには、心なんかない。命の恩人の私に、感謝の気持ちも見せないからな」
「命の恩人?」
「そうとも。自殺するところを助けてやったんだ」
「自殺!」
星子、宙太、顔を見合わせたあと、茜へ目をやった。
茜、こわばった顔を伏せたままだ。
「半年ほど前だ。長崎の海に身を投げようとしたところを、丁度、写生にきていた私が見つけて助けてやったんだよ」
「!……」
「自殺の理由は、いくら聞いてもいわなかった。それこそ、人形のように押し黙ったきりだ。そのあとも、自殺をくり返す恐れがあったし、私の傍に置いておくのが一番いいと思ってね、丁度、私も前の妻と別れて一人だったし、この女を妻として迎えたんだ。ま、私好みのタイプの女でもあったしな」
黒木、薄く笑った。
助けてやったというよりも、はじめから、自分の思い通りにしてやろうと思ったに違いない。薄く笑っている顔が、何よりの証拠だ。
それはともかく、茜が自殺を図った時期から考えて、もしかすると、涼とのことが原因かも……オランダ坂の教会の前で、待ち続けたけど、とうとう、涼は現れなかった。絶望した茜は、死を選んだ……きっと、そうだ。
その涼とこんなつらい状況で再開するなんて。星子、茜の気持ちを思うと、胸がキリキリと痛んだ。
そんな茜の気持ちには関係なく、黒木は喋りつづけた。
「でも、私の気持ちは通じなかった。いくら、やさしく可愛がってやっても、相変わらず人形のままだ。その挙句、私を殺しにきた相手と顔見知りで、しかも、そいつのことは一言もいわん! そんな奴を叩いてどこが悪い!」
よくいうよ、まったく!
涼のことも気になるけど、今は黒木のことで怒り心頭だった。 たとえ、夫婦の間でも暴力は許されない。
その思いは宙太も同じに違いない。でも、宙太はあくまで冷静だった。
「ま、そのことは、あらためて伺いますか。それより、もっと、大事なことを聞きたいですね」
「大事なこと?」
「なぜ、あの殺し屋はあなたの命を狙ったんスかね? 心当たりはありますか?」
「いや、別に」
「ほんとかな」
「もちろんだよ、今の私はアブナイ仕事から足を洗い、この長崎でのんびりと趣味の絵を描いて暮らしているんだ。人様に命を狙われるような真似をしていないつもりだ!」
「そうですかね」
宙太、黒木をするどく見つめた。
星子に調子のいいことをいっている時の宙太とは、まるで別人、カッコいい刑事そのものだ。ま、だから、許しちゃうわけだけど。
「こう見えても、オレ、パソコンなみの記憶力がありましてね、この前読んだ極秘資料によると、あなたは麻薬密輸組織のウラ幹部、つまり、面の顔はリタイアした絵が趣味のフツウの市民だけど、ウラじゃ、最近、組織を離れて独立しようとしている。そこで、組織から裏切り者として命を狙われた……」
「ふふっ、面白い話だ。君は刑事としては落第だが、作家の才能はありそうだな。ただし、三流のね」
「あなたとは、逆ですね。画家としては一流だけど、犯罪者としては三流だ」
「なに!」
「ま、ほんとは警視庁のほうへご同行願いたいところですが、証拠がないんじゃ、そうもいかないな。じゃ、身辺保護ということで、デイトさせてもらいますか」
「ボディガードなら、ここにいる。君の保護は受けんよ」
「じゃ、せめて、奥さんだけでも。いろいろと伺いたいこともありますので、よろしく」
「お断りする」
「オレ、奥さんに聞いているんですがね」
「家内も同じだ。そうだな、茜?」
「……ええ……」
茜、蒼ざめた顔で、小さくうなずいた。
「でも、奥さん……」
宙太がいいかけた時、携帯電話が鳴った。
「もしもし、マサル君か……なに?……わかった、すぐ、応援にいく!」
宙太、キッとなって電源を切った。
「どうしたの、宙太さん?」
星子が小声で聞くと、宙太、
「こいつの部下と撃ちあいになったらしい」
「えっ」
「黒木さん、ちょっと、ヤバイことになったようなんで。シー・アゲイン!」
そういって、宙太、サッと走り出した。
星子もあとを追いながら、茜に目をやった。
茜、今にも倒れそうなくらい、真っ青だった。
(第四章へつづく)
追記 北海道では、雪になるとか……いよいよ、ですね。白銀の世界のドライブ、最高です! なんて、僕の目には良くないので、控えなくてはいけないようです。ワープロの方も、騙し騙しやっています。列車到着が遅れ気味ですが、ご容赦を!
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茜さんが気になる所だけれど、マサルさんや乙女さんの方も気になります〜! 続きが早く読みたいけれど、先生のお身体も大切になさってもらいたい……。
ゆっくりアップは、それだけ作品を長く楽しめるということですネ^^
2007/10/12(金) 午前 10:49
今日は仕事で疲れてさっき帰ってきて、先生のお話読めて元気出てきました。これから、頑張ってまた、夜勤に行ってきまーす。
2007/10/12(金) 午後 7:29 [ ari*ru*97*11*1 ]
本当にありがたいお言葉ありがとうございます。おかげでまた、頑張る気になりました。
私の仕事は、いろんな人と会うことの出来る仕事なのでいろんなことがあって大変な反面、非常に人間的にも勉強させていただける仕事で、とても楽しいです。
ちなみに、星子さんのお母さんに関わる医療職(医師)です。
2007/10/14(日) 午後 5:57 [ ari*ru*97*11*1 ]