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「地球を、回してみせる…あなたが?」
リツ子は、メガネ越しに花太郎を見上げた。
「ああ、そうともよ!」
花太郎は、ドンと分厚い筋肉の塊のような胸を叩いてみせた。
「欲しいものは、力ずくでも取る。世間の奴らは、皆、俺に従わせる。それが、おれの流儀ってやつさ。ようするに、俺、ナポレオンってとこかな。すべての道は、この俺に通じるってこと!」
「でも、ナポレオンの最後は哀れでしたね」
リツ子の薄い唇が、静かに笑みを浮かべた。
なんて、イヤミな女の子だ。相手が男だったら、今頃、息はしていないかも…なんとか、こらえる花太郎だ。
「それで、どうしますか?」
「なにが?」
「二億円、です」
「あ、それか。なんでぇ、なんでぇ。いつでも払ってやるぜ!」
花太郎は、もう一度、胸を叩いた。
「でもよ、すんなりと払ったんじゃ、面白くもねぇ。どうだい、賭けをしてみねぇか?」
「ギャンブルは嫌いです。人間の品性を汚すだけですから」
「クソまじめなこと、いいやがって! じゃ、ゲーム、そう、ゲームならいいだろう?」
「あたし、ゲームはしません」
「ううっ、アタマだな、まったく! だったら、そうだ、経済のお勉強はどうだ?」
「経済の?」
「そ、この企画が成功すれば、利息が一割、増える。つまり、二億二千万円になるってこと!
どうだい、すごいだろ!」
「企画って、どういう内容ですか?」
リツ子は、相変わらず、表情を変えずにいった。
「そうだな…たとえば、俺がナナハンで首都高を十周暴走する、とか…東京タワーをナナハンで駆け上る、とか…マスコミを集めて、ド派手にドカーンといくわけ! オモロイぜ、こいつは!」
「下らないこと」
「なにぃ!」
「子供じみてます、バカみたいです」
「こ、このぉ!」
花太郎の顔、今にも大爆発しそうなくらい真っ赤になった。
「じゃ、どうしろっていうんだ! いってみろ!」
答え次第じゃ、たとえ、相手が女だろうと、許さない。
タタキコロス!
「あなた、野球をやっているヒトですよね」
「ああ、そうだ! 天女学園野球部のエースで四番だぜ。ほんの今さっきまで、そこのグラウンドで試合やってたところだ。そん時かっ飛ばしたホームランボールがそいつよ」
花太郎は、リツ子が握っているボールを自慢そうに見た。
「じゃ、甲子園ですね」
「あ?」
「甲子園を目指して、野球をやっているんですよね」
「もちろん! と、いいたいけどよ、うちのチームじゃ、とてもムリ。だから、途中でバイバイしてきたのさ」
「ナポレオンじゃなかったんですか」
「ん?」
「さっき、自分はナポレオンだ。地球を自分の周りで回してみせるって、いいましたよね」
「ああ、いったさ。だから?」
「甲子園へいって下さい」
「なにっ」
「欲しいものは、何でも手に入れるんでしょ。だったら、甲子園のキップを買って下さい。二億円で」
「!…」
花太郎は、呆気に取られた。
このオンナ、やっぱり、アタマがおかしいんだ。いってることが、まともじゃない。
それとも、意地悪なのか。どうせ、出来っこないとわかっていて、俺をからかっているのかも知れない。
でも、それにしては、平静で真面目そのものといった顔つきだ。
そう、大真面目でいっているんだ。変わり者だけど、超の字がつくマジメな女の子なんだ。
きっと!
花太郎の居丈高な態度が、ちょっとばかり、弱まった。マジメ人間、それも、超の字がつくとなると、かなり、苦手な人種だ。あまり、かかわりたくない。
「わかったぜ」
花太郎は、軽くうなづいて見せた。
「買って差し上げましょう、甲子園の出場切符、二億円でな」
「きっとですね」
「ああ、もちろん。男の約束だぜ」
なんて、もちろん、口約束。とにかく、一刻も早く、リツ子から離れたかった。
「信じていいんですね」
「しつこいな。武士に二言はねぇ!」
そういい捨てると、花太郎は、ナナハンにまたがり、猛然とダッシュさせた。
リツ子の姿が、たちまち、視界の後方へ消え去った。
「ふーっ、まいったぜ、まったく!」
サドルを握りながら、花太郎は肩をすくめた。
甲子園行きなんて、実現するわけがない。奇跡の神様が束になってかかっても、無理なものは無理だ。
ま、あのメガネブスとは、もう、二度と会うこともないだろう。もし、会いにきても、今度はぶっとばしてやるだけだ。
それでなくても、女は苦手、大嫌いなのに、あのリツ子っていう女は、まさに、サイアク。地球は自分の周りを回っている、なんて、ぬかしやがって。
だけどよ、ほんとに変わったオンナだったな。俺の姉ちゃん達や妹達とは大違い。同じ女とは思えないぜ…。
花太郎が、ふと、そう思ったのも無理はない。
じつは、花太郎は姉二人、妹二人に挟まれた五人兄弟の真ん中っ子。しかも、二人の姉、二人の妹ときたら、もう、なんというか、口にするのも、おぞましいというか。
甘える、おねだりする、すねる、くすねる、だます、すぐ泣く、たかる、うるさい、媚びる、嘘をつく、ケチ、たかる、ごまかす、ひとまかせ、責任転嫁、その他、エトセトラ、エトセトラ…。
花太郎が女嫌いになった理由のほとんどは、そんな姉と妹達にある。
それにくらべて、あのリツ子という女の子は、花太郎に面と向かっても、まったく、ビビらない。それどころか、逆に、怒鳴りつけ、弁償まで要求した。
じつに、堂々としている。自己チュウも、あそこまでくると、立派に思えてくる。
オシャレ一つしていないが、きっと、白雪姫のママと同じで、「世界一の美女は、このワタシ」なんて、思っているのかも知れない。
「けっ、オメデタイやつだぜ!」
花太郎は、笑った。
ゲタゲタと笑いながら、ナナハンをぶっ飛ばした。
と、ふいに、胸の中をキューンと…突き刺すような感覚が、突き上げてきた。
でも、痛くはない。変に甘酸っぱくて、どことなく、やるせなくなるような、そんな痛みだ。
同時に、頭の中で、一人の女の子の姿が、おぼろげに浮かび上がった。やがて、鮮明になったその姿は、リツ子だった…。
(つづく)
追記 ま、恋というには、段取りがあるようなないような…或る日、突然、ひょんなことから生まれるようです。花太郎クンの場合もそのようで…そこが、ま、人間のおもろいところかも知れません。
さて、この番外の二人の番外の恋、はたして、いかなることになりますやら。
今のところ、星子も宙太も出てこないけど、この先、どうからんでくるのやら。ご期待ください!
なんて、はしゃいでいるのは、僕だけかな? (笑)。
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物語が進むたびに思わず声を出して笑ったり、二人のやり取りに仰天したりで、毎日の更新をとっても楽しみにしています。
タイプの違う人間って大きく反発するけれど、ミョーに魅かれるんですよね。花太郎クンもまさにそんな感じでしょうか。
花太郎クンは女きょうだいに囲まれてたんですね。彼の女ギライの理由のひとつにはきっと幼少期に女装させられたことが入っているハズ!(笑)
2008/6/4(水) 午後 10:57 [ lil*_c*sab*an*a_22* ]
センセー、お疲れ様です!!
いよいよ始まりましたねぇ〜リツ子編
相変わらずのリツ子さんの思い込み自信ぶり健在ですね!!
今後の展開が楽しみです(^_-)-☆
そして、これからの展開に星子さんや宙太さんがどう絡んでくるのかも楽しみにしてますよ〜ん!!
センセー頑張ってねぇ〜(^O^)/
今回も私のブログでも紹介させていただきます!!
2008/6/5(木) 午後 5:32