|
15
「ランランラン、おべんと、おべんと、たのしいなぁ」
ううーっ、なんじゃぁ、この調子ぱずれのこの歌声は。
なんと、まぁ、リツ子さまが、お台所でお弁当を作りながら、ご機嫌で歌っているじゃないですか。
お台所といっても、さすが、麻布の大邸宅。そんじょそこいらのレストランよりも、はるかに立派。調理器具だって、外国製の最高級品がずらっと揃っている。
もちろん、リツ子に使いこなせるわけがない。というより、普段、リツ子がお台所なんかに立ったためしがない。
セレブのお嬢様たるもの、お料理はお手伝いさんがこさえるもの。あたし、食べる人。あなた、作る人。その言葉に徹底しているわけ。ちなみに、リツ子のママも、右同じ。そんな暇があったら、エステにいくか、デパートでビップクラスのカードを使ってのお買い物だ。
でも、そんなリツ子さんに愛妻弁当が作れるのかって。ご心配なく。前の晩に、家族で行きつけの三ツ星レストランに頼んで、特別料理を届けてもらっている。あとは、お弁当箱に詰めるだけ。
そして、仕上げに、チェリーとミニトマトとイチゴで、ハートマーク、そして、リツ子のキスマーク。
「チュッ、愛してるわぁ、宙太サマ」
キスしてお弁当の蓋を閉じると、
「はい、愛妻弁当の出来上がりデース。星子なんかには絶対に作れない、愛情たっぷりのお弁当でございます」
優越感にうっとりの、リツ子さんだ。
バカバカしい。お弁当箱に詰めるだけで、なに、威張ってるのよ。
え? あんたんちに三ツ星レストランと付き合いがあるかって?
それをいっちゃ、おしまいよっ。
さて、リツ子さん、お部屋へ戻ってオシャレすると、お弁当を大事そうに抱えて、いざ、お出かけだ。玄関先には、父が呼んでくれたハイヤーが、丁重なご挨拶でお出迎え。
なぜ、そこまでと思うでしょうね。じつは、エリート刑事の宙太さんを、リツ子のパパとママ、いたくお気に入りなんです。
じつは、以前、リツ子のパパの会社が、とある恐喝事件に巻き込まれた時、捜査を担当した宙太が鮮やかな手腕を見せて犯人を逮捕した。
以来、リツ子のパパとママは、ぜひ、宙太を可愛い娘の婿に迎えたい、と、熱望。それにも増して、リツ子のほうが、宙太に熱烈ラブコール、というか、当然、結婚出来るものと思い込んでしまったわけ。
ま、そんなわけで、本人だけでなく、親から親戚、さらに、パパと親しい政財界の大物まで巻き込んで、総がかりで宙太婿取り作戦を展開中、といっても、過言ではない。
そのあたりは、いずれ、お見苦しいところをお目にかけるやもしれませんが、取りあえず、今朝のリツ子さん、「御苦労さま」なんて、いつなく運転手さんにごあいさつ。普段は、目もくれないヒトなのにね。
あ、申し遅れましたが、本日は土曜日でして、学校はお休み。
「オチコボレの誰かさんは、試験前のお勉強で大変でしょうねぇ」
余裕の笑顔のリツ子さん、ちなみに、誰かさんとは、もちろん、星子のことだ。
いちいち、いうなっつうの。
で、リツ子を乗せたハイヤーは首都高速道路に乗って、レインボーブリッジを渡り、お台場へ。さすが、土曜日ということで、かなりの賑わいだ。
お台場に隣接する有明地区には、有明のテニスコートとかオリンピックの選手村候補地があるし、その先には、今、注目されているスポット・豊洲もある。最近は超高層のマンション群が続々と建てられ、エネルギッシュに発展するトウキョウの新しいシンボルのような所だ。
「このあたりのどこかに、宙太さんはマサルさんと二人で張り込んでいるんだわ。きっと、探し出して、愛妻弁当を渡してあげなきゃ!」
リツ子、膝の愛妻弁当を抱えながら、車窓へ目をやった。
丁度、近くのグラウンドでは野球の試合が行われている。どこのチームが試合をしているのか、愛妻弁当でアタマがいっぱいのリツ子には、どうでもいいことだった。
でも、ほんとは、どうでもよくない。じつは、花太郎の天女学園が相手校と試合の真っ最中だった。そして、詰めかけた観衆の中には、なんと、星子がいた。
その星子の目の前で、
ガキーン!
花太郎が今日二発目の場外ホームランをかっとばして、ベースを一周しながら、星子に「どんなもんだい!」と、得意満面、 指を立てて見せた。
ベンチでは、細井たちが大騒ぎだ。でも、星子はぶぜんとした顔で、
「よしてよっ、わたし、あなたの活躍ぶりを見にきたんじゃないの。リツ子が宙太さんの邪魔をしないか、心配できただけよっ」
と、唇をとがらせた。
そんな星子の気持ちも知らずに、花太郎、
「おい、星子ォ! ケータイで写真取れや!」
と、大声で叫んだ。
なんじゃぁ!
「お前」と呼ばれるだけで腹が立つのに、「星子」って呼び捨てかよっ。わたしにはたくさん男友達がいるけど、みんな、「さん」とか「ちゃん」づけで呼んでくれるよ!
いったい、わたしを何だと思ってるのさ!
憮然となった星子の気持ちをさらに逆立てるように、花太郎、
「あ、とった写真はリツ子さんに送るんだぜ! ヒーローの姿を見れば、愛はさらに高まるってもんだ。ダハハハッ」
だって。
リツ子といい、花太郎といい、どこまでノーテンキなんだろ。ほんと、こんな二人のキューピット役は、やめたい。もう、おしまいよ!
星子、怒り心頭の顔で立ち上がりかけた。
その時、ふいに隣から手が伸びて、星子の肩を押さえた。
振り仰ぐと、なんと、宙太だ。
「宙太さんっ」
「ワリイ、僕とカップルのふりをしてくれ」
宙太、そういいながら、星子の隣に座ると、肩に手を回して、グイッと引き寄せた。
「ちょっとォ」
「だから、カップルのふり」
なんて、そのわりには、やけに、強く抱き寄せている。品のいいオーデコロンの香りが、すっごく、シゲキ的だ。
うふーん、と、なりかけたけど、なんとか、我にかえって、
「でも、どうして?」
「じつはね…」
宙太、真顔で星子に耳打ちした。
「ホシが、観客席のどこかにいるらしいんだ。それも、拳銃を持ったまま…」
「!…」
星子の顔から、サッと血の気が引いた。
(つづく)
追記 ボクも、リツ子の愛妻弁当を食べてみたい、といったら、思いっきり、蹴飛ばされた。それにしても、この先、どういうことになるのやら。ま、楽しみながら、書いていきます。よろしく!
|
こんばんは^^
番外らぶっす、益々面白くなって来ましたvvv
毎日ブログをチェックするのが楽しみです^^
宙太さんが登場すると何だか安心します。
展開は緊迫してますが(苦笑)
2008/6/19(木) 午前 0:46 [ - ]
私もリツ子嬢の愛妻弁当を食べてみたいです(*´Д`*)
そして許されるならば星子さんのお名前を呼び捨てで呼んでみたいです・:*:・(*´∀`*)ウットリ・:*:・ ←ちょww
宙太さんっていい香りがするんですねwww萌え(*゚∀゚)=3ハァハァ
2008/6/19(木) 午後 1:34 [ ゆうきあおい ]