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「リツ子、一緒にきなさいったら!」
星子、リツ子の腕を掴んだ。
「痛い! 乱暴しないでよっ。腕が抜けちゃうから!」
「知るか! さ、早く!」
渋るリツ子を、構わず、ぐいぐいと引っ張っていく。
「あたしを、どこへ…ね、どこへつれていくわけ? 星子っ」
「うるさい! 黙ってついてくる!」
星子の顔、ものすごく不機嫌だ。
だって、当たり前でしょっ。あまりにも、わがままというか、自分勝手というか、ハートがないというか、とにかく、許せない、リツ子の態度が。
あの時、花太郎はリツ子をかばって撃たれた。リツ子を愛するが故に、我が身を省みず、楯になったんだ。
泣かせる話じゃないの。ところが、リツ子ときたら、花太郎を介抱するわけじゃなし、感謝するわけでもなし、しばらく、茫然と見つめたあと、姿を消してしまった。
そんな態度は、許せないっ。
で、学校帰りのリツ子を、タクシーに押し込んで、救急病院へ向かったいるわけ。
その前に、経過を伝えておくと、花太郎がここに救急車で運ばれたのが、昨日の日曜日の午後。
いくら花太郎が巨大ロボか怪獣なみのボディとはいっても、まともに左の肩口に弾丸を食らっちゃオシマイだ。
星子、宙太と一緒に、花太郎が運ばれた救急病院へ駆けつけ、夜遅くまで付き添った。途中で、魔女軍団が現われなかったら、徹夜していたところだ。
それにしても、魔女軍団、つまり、花太郎の四人の姉妹のやかましかったことったら。
「花太郎、死んじゃ駄目よ!」
「あなたが死んだら、私たちも後追い自殺するわよっ」
「がんばって、花太郎兄さん!」
「死んじゃいや、許さない!」
等など、口々に大声で叫び、さらに、途中から花太郎の父親まで加わって、
「死ぬな、花太郎! お前は、わが家の大事な跡取りだぞ! 絶対に死ぬな! 死んだら、タダじゃおかんぞ!」
と、号泣しながら、花太郎に負けない巨体をふるわせて叫びまくっていた。
魔女軍団の誰かが、「ママを呼んだほうがいいんじゃない?」といったけど、
「バカいわないで!」
「あんな女、死神と同じよ!」
「かえって、花太郎が可哀そうよ!」
と、姉妹達の猛反撃にあった。
そういえば、この前、花太郎も母親のことを「あんな奴、死んだも同然だ」みたいないいかたをしていたっけ。
花太郎の家族と母親の間に、一体、何があったのか。ま、そのあたりは、いずれ、機会があったら、あらためて、ということで、
それよりも、今、問題なのは、はたして、肝心の花太郎の命がどうなるか、だ。今朝、宙太が医者を問いただしたところ、「助かる確率は、五分五分」です、と、いわれた。
五分五分!
はじめは、なんとも食えないヤツだったけど、星子としては、花太郎のリツ子を想う一途さに、だんだん、あったかい気持ちになり、なんか、ニクめない男の子ね、って思い始めていた。
その花太郎が、こんなことになるなんて。
星子、すごいショック。だから、余計、リツ子の無関心な態度がアタマにきた。そこで、リツ子を強引に連れてきたってわけ。
でも、いざ、タクシーが救急病院の前に着くと、リツ子、見舞うのはいやだ、と、いった。
「どうしてよ? カレ、あなたを助けようとして、大けがしたのよ!」
星子が真剣な顔でいっても、リツ子、そっぽをむいたまま、
「あたしが頼んだわけじゃないし」
と、冷やかな顔でいった。
「そんな! そんないいかたって、ないでしょ!」
「どこがいけないの。勝手に愛情を押しつけられて、あたしには迷惑なだけよ。ストーカーと同じだわ。ストーカーは犯罪よ。あんなことがなかったら、とっくに宙太さんに逮捕されているところよ」
「違う! 花太郎さんは、ストーカーじゃない。あなたとの約束もあるし、甲子園を目指して頑張っているのよ!」
「あたしは約束してないわ。あいつが、勝手にきめたことよ。でも、その約束とやらも、おしまいね。カレ、もう、試合には出られないでしょ」
「リツ子っ」
星子、もう、キレた。思いっきり、リツ子の頬にピンタをくわせようとした。
その時、「星子さーん!」と、細井が走ってきた。
「細井クン、どうしたの?」
「今から、届けに行こうと思っていたんです! 先輩から、これをリツ子さんにって…」
そういいながら、花束を差し出した。
「昨日の試合、勝ったんで、ハイ」
そうか、花太郎さん、勝つたびに花束をリツ子に渡すことにしていたんだよね。
「あ、星子さんにも、これを渡せって…」
「わたしにも?」
細井、バラを一輪、花束に添えた。
「花太郎さんたら、ひどいケガのくせに、こんな気を使って…」
ういヤツ。胸が熱くなる。
「あ、それから、リツ子さんにメッセージを伝えてくれって、いってました」
「メッセージ? あたしに?」
「はい、俺の見舞いはやめてくれって」
「え?」
リツ子、ポカンと口をあけた。
星子も、唖然となった。
「ほんと? リツ子にお見舞いするなっていうわけ?」
「はい」
「どういうわけ? 命を的に守ってやった相手じゃないの」
「きっと、無様な姿を見せたくないんでしょ。あれで、結構、プライドが高そうだし」
リツ子の顔に、冷笑が浮かんだ。
「いえ、そうじゃないんです」
細井、真剣な顔で否定した。
「センパイは、こういってました…俺は、同情されたくないし、恩も売りたくない。俺に助けられたことで、リツ子さんに気持の負担をかけるとしたら、それは、本当の愛情じゃないんだ。だから、俺は見舞ってほしくない。病院には、こないでほしいんだ、って」
「!…」
花太郎さん、柄に似合わず、いうことがマトモだ。
「でも、その代わりに、次の試合を見にきてくれって…」
「次の試合を?」
「はい、リツ子さんのために、ホームランを打つ。それが、俺のサイコウのラブコールだって…そういってました」
細井、込み上げるものを抑えるようにいった。
一瞬、絶句の星子さんだ。
「そんな…次の試合って、いつなの?」
「明後日です」
「あさって? ムチャよ、そんな! あの怪我じゃ、試合に出られるわけないわよっ」
「はい、僕も同感です。でも、センパイの顔は真剣でした。こわいくらい、いや、本気でこわかったです」
「でもねぇ…」
「とにかく、球場でお待ちしているそうですから。じゃ、失礼します」
細井、ぺこりと頭を下げると、病院へ戻っていった。
呆然と見送る星子の耳に、リツ子のククッという含み笑い声が聞こえた。
「リツ子、なにがおかしの?」
「御苦労さま、とんだ無駄骨だったわね、星子」
「なにごよっ」
「だって、あいつのほうから、お見舞いの必要はないっていってきたのよ。これで、不愉快な思いをしないですんだわけじゃない」
「リツ子」
「それにしても、よくいうわよね。なにが、ラブコールのホームランよ。アタマがおかしくなったんじゃないかしら。きっと、そうよ」
リツ子、声をあげて笑った。
「リツ子!」
星子の顔、怒りで真っ赤になった。
「あなたには、人の心ってもんがないの! 花太郎さんが、どんな思いでいるのか、少しは考えてあげたらどうなの!」
「あら、星子、あなた、あいつに同情しているわけ。それとも、あいつが好きになったのかしら。どうぞ、ご遠慮なく。あたしには宙太さんがいるんだし、遠慮なんかいらなくてよ。喜んでお譲りしますわ、ふふふっ」
おかしそうに笑ったリツ子の顔に、
ピシャッ!
星子の平手打ちがとんだ。
「イタッ、なにするの!」
「あんた、サイテイよ! 目がさめるまで、ひっぱたいてやるから!」
星子、リツ子の胸倉を掴み、さらに、殴ろうとした。
寸前、その手が背後から掴まれた。
振り向くと、宙太が立っている。
「星子さん、よさないか」
「宙太さんっ」
「リツ子さんだって、本気でいってるんじゃないさ。心の中じゃ、きっと…な、リツ子さん?」
「……」
リツ子、黙ったまま、頬を押さえていたが、急にパッと体を翻すと、そのまま、走り去っていった。
「なによ、あんなヤツ! もう、絶交よ!」
星子、憤然とした顔でいった。
「ま、ま、ま、ハニィ、気持ちはわかるけどさ…」
「うるさい! わかんなくていい! とにかく、絶交なんだから、もう!」
星子、そういい捨てると、歯噛みしながら、そっぽを向いた。その眼に、キラッと涙が光った。
そして、二日後の午後――、
世田谷にある野球場では、天女学園が予選第三戦を戦っていた。相手は都立高校の強豪チームだ。ベンチには、花太郎の姿はなく、以前の天女学園だったら、とっくにコールド負けしているはずだった。
ところが、今回はチームの全員が猛ハッスル、というのも、花太郎の大怪我で、すっかり意気消沈していたナインを、なんと、あのひ弱なマネージャーの細井クンが、
「このゴクツブシ! イクジ無しのアホ! お前ら、それでも、オトコか! 恥を知れ、恥を! この世には、弔い合戦という言葉があるんじゃ! ハナコ先輩の男気を見習って、死んだ気で戦え! 戦うんじゃ!」
と、小さな体に似合わず蛮声を張り上げて、叱咤激励した。もっとも、最後は貧血を起こしてふらついたりしたけどね。
でも、効果てきめん、ナインもハッスルして互角に試合を進めてきたが、残念ながら、九回表を終わって、1対0。天女学園の最後の攻撃も、ツーアウト、ランナーなし。敗色濃厚だった。
「ザンネンね、みんな、がんばったのに…」
観客席で応援していた星子、ため息をついた。
「いや、奇跡は起きる」
隣に座った宙太が、余裕の顔でいった。
「日頃は野球なんかにはまるで興味のないハニィが、こうして一生懸命、応援しているんだぜ。奇跡が起きないわけがないだろ」
ま、そうあってほしいよね。花太郎くんと知り合うまでは、およそ、野球とかには関心がなかった。せいぜい、サッカーぐらいかな。でも、星子、変わりました。
とくに、今日の試合は、思い入れが強い。花太郎の出場は無理でも、なんとか、皆で花太郎の分まで頑張ってほしかった。
でも、その願いも消え去ろうと…ん?…最後のバッターが、デッドボールで出塁したじゃないですか。勝ちを焦った相手ピッチャーが、つい、バッターにぶつけてしまったらしい。
「よっしゃ! 奇跡の始まりだぜ!」
宙太、立ち上がって歓声を上げた。
ベンチも大騒ぎ、細井は枯れて声にならない声でわめいている。
でも、次のバッターはすでに3打席連続三振している。今度も三振は間違いない。本人もまるで自信がない顔をしていた。
「ああ、もう、ダメかぁ。こういう時、花太郎さんがいてくれたら…」
星子がぼやいた時、
「ん! 奇跡を呼ぶ男があらわれたぞ!」
宙太が、叫んだ。同時に、ベンチから細井が何やらわめきながら飛び出した。
その方向を見ると、な、なんと、花太郎がユニフォーム姿でのっそりとあらわれたじゃないですか!
星子、信じられないといった顔で見つめた。
(つづく)
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奇跡を呼ぶ男が登場! 期待が高まりますネ〜^^
リツ子も、星子さんの思いが伝わったかな? どこかで観ていてほしいなぁ!
2008/6/26(木) 午後 1:38
はじめまして!
突然の書込みで失礼します。
勇気の出るホームページを見てください。
ご迷惑でしたらスルーしてください。
2008/6/26(木) 午後 6:04 [ 井上魔王 ]