星子&宙太yyy

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星子とパパの恋旅ガイド

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 旅愁という言葉が、わたしは好きだ。夜汽車に乗って、深夜、ターミナルの駅に到着する。とくに、晩秋の港町の駅には、特別な雰囲気がある。
 昔、あの人と二人で深夜の函館駅に降り立った時もそうだった。暗い港から流れてくる冷たく湿った夜霧、物憂い霧笛の音、そして、押し黙ったまま、改札口へと向かう乗客達。石川啄木の詩の世界のような…。
 そんな光景を見ているうちに、ふいに、あの人は私の手をきつく握り締めた。
「どうしたの?」
「こわい…」
「なにが?」
「あなたに置いていかれそうな気がして…」
「僕が?」
「ええ、黙ったまま改札口へいってしまって、いくら、あなたのことを呼んでも振り向かないで、そのまま、暗い街へ消えてしまって…」
「そんな、あるわけないだろう」
 わたしは、微笑むと、あの人を促した。
 だが、あの人は立ち止ったまま、握る手に力を込めた。
「もうすこし、ここにいて。お願い…もう少し…」
 あれは、はじめて、二人で函館を訪れた時だった。そして、二度目の時、わたし達は別れた。
 あれから何年になるだろう。その恋を追憶するはずの旅が、こんなことになるとは。それも、あの人の面影の化身ともいえる星子が事件に巻き込まれるとは。
「もうじき、函館の駅に着くぜ」
 宙太の声に、わたしは頷いた。緊張のせいか、それとも、デッキの寒さのせいか、体が小刻みに震えている。
 殺人者は、函館で降りるのだろうか。降りないとしたら、このあと、どういうことになるのか。それよりもっと、気がかりなのは星子のことだ。密室状態のこの列車から、消えてしまったとは思えない。きっと、乗っているはずだ。問題は、はたして無事なのかどうかだった。
 間もなく、ドアの窓の外に函館駅の構内の灯や信号がいくつも流れた後、列車の速度が落ちて、ホームがあらわれた。
 警官隊が配備についていると思ったが、見当たらない。いつのの深夜のターミナル駅の閑散とした雰囲気だ。
「ホシを刺激しないように、目につかないところで張り込んでいるようだぜ」
 宙太は、小声でいった。
「なんせ、ホシはハジキを持っているし、余程慎重にやらないとな」
「でも、どの乗客が犯人なのか、まだ、わかっていないんだろう。裏をかかれて逃げられるってことも…」
「デカの辞書にifの文字はないの。あるのは、ベストって文字だけさ」
 宙太は、軽く片目をつぶって見せた。こういう緊迫した場面でも、余裕を見せてくれる。ナイスガイとは、この男のことだろう。
 デッキには、函館で降りる乗客が四五人ほど現れた。パニックを防ぐため、宙太は車掌に事件のことを口止めさせていた。そのせいか、乗客の顔には緊張感は見られない。
じきに、ガクンと列車が止まって、ドアが開いた。
 急いでホームに降りたとたん、身を切るような寒さがわたしを包み込んだ。車内には暖房が入っていたので、ジャケットを着たままだった。
 思わず身震いしながら、ホームへ目をやる。横付けされた列車のドアから、かなりの数の乗客達が降りてきた。深夜とはいえ、北海道の玄関口といわれる街だけのことはある。
 この前、わたしがあの人と二人できた時は、ホームには跨線橋がかかり、青函連絡船に通じる線路が残っていた。でも、何年か前に改造されて、バリアフリーのモダンな駅舎に変わったようだ。
 わたしは、5号車と6号車、7号車から降りた乗客達をえぐるような視線で見た。宙太の話だと、犯人も星子も、この三両の車両のどこかに乗っている。もし、降りるとしたら、この乗客達の中にいるはずだ。
 だが、星子に似た女の子は見当たらない。ということは、星子は降りなかったということだろうか。
 わたしが戸惑ってうちに、暗がりで待機していた白衣姿の救急隊員や検視官、駅員等の一団が5号車に近づき、素早くデッキに乗り込んだ。この列車は、函館駅で23分間停車する。その間に、死体の収容や現場の検証をおこなうらしい。さらに、他のドアから、私服姿の刑事達が乗り込んでいく。犯人が車内に残っている場合に備えてのことだろう。
 車内に残った宙太からは、まだ、何の連絡もない。やはり、車内にはいないのか。
 焦ったわたしは、改札口へ走った。函館駅の改札口は突き当りに一か所あるだけだ。四本のホームが広いコンコースで一か所にまとめられ、自動改札機がずらりと並んでいる。
 もっとも、使われているのは一か所だけで、数人の警官が金属探知器を使って乗客を調べたり、荷物の検査などをしている。周囲にも大勢の警官達が待機して、万一に備えていた。
 わたしは、目をこらして見つめた。だが、時間ばかりが過ぎていき、改札口では乗客の検査も終わって、入れ替わりに「はまなす」に乗る乗客の改札がはじまった。
 列車のほうも、このまま、定時に発車するようだ。札幌方面へ向かう乗客もかなり多いし、発車を遅らせたり、運転を中止するわけにはいかない。そのかわり、かなりの数の警官達が列車に乗り込んでいく。もし、犯人が車内に残っていても、下手な動きは出来ないようにするためだった。 
 時計の針が深夜の1時22分をさした。もうじき、発車だ。昼間の函館駅では、列車が発車する時に、美しいメロディが流れるが、深夜の列車では聞くことはできない。
 わたしは、重い足を引きずるようにして列車へ戻った。札幌へ向かう「はまなす」は、函館から逆編成になる。つまり、函館までは先頭だった1号車が最後部となり、7号車が先頭になる。牽引する機関車も電気機関車からディーゼル機関車に代わっていた。
 結局、星子が函館で降りた気配はなかった。だが、この列車に乗っているとは断言出来ない。
 わたしは、疲れ切った体でデッキの壁に寄りかかった。
 その時、だった。
 足元で、猫の鳴き声が聞こえた。かわいいというより、どこか、ドスのきいたような太い鳴き声だ。
 まさか!
 ハッと見下ろしたわたしの目に映ったのは、ゴンベエだった。

                                (つづく)




追記  函館駅、ほんとに立派になりましたよね。でも、僕としては、あの青函連絡船とつながっていた頃の、函館駅が懐かしい。恋の舞台としても、最高だったと思う。なんていってるから、時代に取り残されてしまうのかな。
 恋といえば、星子さんの恋の相手の刑事、次回に登場します。よろしく!


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