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「ゴンベエ!」
わたしは、思わず大声で叫んだ。
「無事だったんだ、ゴンベエ! 首輪だけが落ちていたし、心配していたんだぞ!」
首輪のないゴンベエは、まるで、野良猫のボスのような風格がある。
「で、星子はどうした? どこにいるんだ?」
わたしが問いかけると、ゴンベエはいきなりパッと体を翻して、通路の自動ドアを開け、車内へ飛び込んだ。
「あ、待ってくれ!」
わたしは、あわててゴンベエを追った。
私が函館で乗り込んだ車両は最後部1号車のB寝台車だ。函館で方向が変わって、1号車が最後部になった。
深夜ということもあって、乗客のいるベッドはカーテンを閉めている。カーテンが開いているのは、空席のベッドだけだ。
ゴンベエは、通路を走り抜けて、ドアを開けると、前方の2号車へ向かった。
自動ドアをなんなく開けていくのだから、頭がいいというか、旅慣れているというか、顔に似合わず大したドラネコだ。
ゴンベエを追って2号車に飛び込むと、こちらの車両もほとんどのベッドがカーテンを閉じて、車内は静まりかえっている。通路には、ゴンベエの姿は見当たらない。
前方の3号車へいったらしい。太っているくせに、動きの速いやつだ。わたしは息を切らせながら通路を通り過ぎて、ドアを開けようとした。
その瞬間、わたしの視界の隅にキラッと光るものが映った。気になって振り向くと、左側の薄暗い下段ベッドの前にゴンベエがうずくまり、目を光らせている。
「ゴンベエ、そんなところにいたのか!」
わたしは、急いで戻った。
上下四つのベッドが向い合せになっていて、下段ベッドの一つを除いては空ベッドになっている。残った下段ベッドのカーテンは半開きのままで、隙間から、うつ伏せになった人影が見える。
ベッドは暗いし、体には毛布がかかっているが、わたしにはその人影が誰か、すぐにわかった。
「星子っ」
そう、星子に間違いない。わたしは、カーテンを開けて、星子の肩を掴んだ。
星子は、うつぶせのまま、動かない。
まさか、死んでいるんじゃ……。
「星子! 星子っ」
わたしは、懸命に星子の肩を揺すった。
駄目か……不安で、今にも心臓が壊れそうだ。助けてやれなかった悔しさと悲しみで、涙があふれた。
すると、ふいに、
「やだ、パパ」
ふいに、星子の声がした。
ハッと見ると、星子が上目づかいに私を見ている。
「星子っ」
「泣いてるわけ? おかしいの」
星子は、からかうようにわたしを見ながら体を起こした。
「な、なにが、おかしいんだっ」
わたしは、思わず怒鳴った。
「さんざん、心配させておいて、それはないだろう!」
「心配って?」
「きまっているじゃないか。君が事件に巻き込まれたんじゃないかと…」
「事件?」
「殺人事件だ」
「いつ? どこで?」
星子の顔が、キョトンとなった。
「なにいってるんだ! 君の乗っていた5号車のトイレで男が拳銃で撃たれて殺されたろう! 」
「ウソ」
星子は、クスッと笑った。
「パパったら、わたしをからかってるんだ」
「バカな! そばには、ゴンベエの首輪も落ちていたんだぞ!」
「ゴンベエの?」
「君の姿はどこにも見えないし、宙太君と二人で懸命に捜していたんだ!」
「宙太さんも?」
「ま、無事に見つかってよかったが、どうして、ここに…どういうことなんだ?」
「どうって…知らないよ、わたし…」
「知らない?」
「そうよね、わたし、5号車の女性専用のシートに座ってたんだ。でも、ここは…」
星子は、あたりを見回した。
「わたし、なんで、ここにいるわけ? ね、パパ?」
「星子…」
わたしは、唖然と星子を見た。
「覚えていないのか?」
「うん、ぜんぜん」
「事件のこともか?」
「もちろん」
「そんな…」
わたしは、絶句したまま、立ち尽くした。
星子は、どうやら、事件前後の記憶を喪失しているようだ。そうとしか、考えられない。
「とにかく、宙太君に連絡しなくては。ゴンベエ、宙太君を呼んできてくれ。早く!」
「ムリムリ。出来っこないよ」
ゴンベエも、当然といった顔だ。
「わたし、ケータイ番号わかるから」
そういって、星子は着ていたハーフコートのポケットに手をやった。
「いけない、リュックの中だ。取ってこないと」
星子が立ちあがろうとした時だった。
ふいに、通路から携帯電話が差し出された。
「ありがと…ん?」
思わず礼をいいかけて、星子はけげん顔を向けた。
そこには、長身のスリムな男が立っている。黒革のジャンパーに黒のジーンズ。長髪の彫りの深い顔立ちで、サングラスをかけている。
歳は三十歳前後ぐらいか、黒ずくめの服装に、胸元には金のペンダント、左の薬指には金の指輪が光っていた。まるでダンサーのように小粋でオシャレな容姿だが、全身から、ひんやりとした殺気が漂ってくる。
わたしは、ちょっと、たじろいだ。
星子も緊張した顔で立ち上がり、ケータイを受け取ろうとした。
ところが、男はケータイを引っこめると、ドスのきいた低い声でいった。
「その前に、聞きたいことがあるぜ」
「え?」
「な、なんだ、君は?」
わたしは、星子をかばいながら、男と向き合った。
「名前は? 一体、誰なんだ!」
「……」
男は、黙ったままだ・
もしかして、犯人かもしれない。その可能性はある。
わたしの背中を、冷たいものが走った。
(つづく)
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星子さんがご無事でなによりでした(>_<)
パパさん有難うございます つД`)・゚・。・゚゚・*
けど今度はパパさんがピンチじゃないですかΣ(゚△゚;)あわわ
次回更新されるのをドキドキしながら待ってます(>_<)
2008/10/10(金) 午後 1:10 [ ゆうきあおい ]
星子さんの記憶がない!?
もう、ドキドキしっぱなしです。
そして「既婚者らしいイイ男」が気になります。
続きが楽しみです☆
2008/10/11(土) 午後 5:39 [ とも ]
きゃ〜!また先生の星子さんシリーズに会えるなんて感動です!!ずっと探してました
あぁ、新たな旅の始まりですね 続きが気になります 楽しみです
2008/10/13(月) 午後 10:50 [ いちそこ ]