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「き、君か、5号車で殺しを…君がやったんだな!」
わたしは、星子を背中にかばいながら、男を睨みあげた。わたしとしては、精一杯、凄みをきかせたつもりだった。
だが、男はまったく動じない様子で、微笑を浮かべた。
「まいったな」
「なにっ」
「わかりませんか、俺のこと」
男は、ゆっくりとサングラスを外しながら、私を見た。
憂いをたたえた、切れ長のやわらかな目だ。どことなく、少年のような目にも思える。
「ま、無理もないか。写真とか具体的な顔を見せたわけじゃないですからね。あくまで、活字の上のイメージだったし」
「活字?」
「『あなた、ほんとに刑事?』。たしか、俺がデビューした時、手配中の女にそういわせていましたよね」
「!…」
わたしは、まじまじと見つめた。
「君は…五月…千春…」
「思い出してくれましたか」
五月は、もう一度、微笑んだ。
「…誰なの、この人?…ね、パパ?」
星子は、私の耳元で、けげんそうにいった。
「五月千春君といってね、警視庁広域捜査課の刑事だ」
「刑事さん?」
星子は、唖然と五月を見つめた。
「この人が? うそーっ」
「ただし、君と同じ存在だが」
「同じって…」
「つまり、僕の作品の主人公ってこと。以前、集英社文庫で書き下ろした『旅刑事』シリーズのね」
「ほんと!」
星子は、あらためて五月を見上げた。
「カッコいいじゃん。パパの小説よりも、本物のほうが、ずっと、かもね」
「さぁ、どうかな…」
わたしは、戸惑いながら五月にいった。
「しかし、なぜ、君がここに…どういうことなんだ?」
「俺は、旅刑事でしたよね」
「つまり、捜査ってことか?」
「他に能のない男でしてね」
そういって、五月は肩をすくめた。
「じゃ、さっき…」
星子は、五月を見上げた。
「私に、聞きたいことがあるっていったのは…」
「口説くつもりはないよ。子供は相手にしない主義でね」
「なんですって!」
星子は、キッと睨み上げた。
「わたしが、子供?」
「なんなら、鏡を用意しようか」
「ちょっと!」
星子の顔は、怒りで真っ赤になった。
「お、おい、五月君…」
私は、うろたえながらいった。
星子を怒らせると、大変なことになる。それも、子供扱いだなんて、最悪のパターンだ。
だが、五月は涼やかな美形顔で星子を見据えた。
「君は、5号車で殺しがあった時、現場にいた。そうだな?」
「――」
「ところが、君は事件直後から姿をくらまし、この列車が函館を出発した後、この寝台車で寝ていた。一体どういうことなのかな」
「――」
「黙ってないで答えたほうが利口だぜ。こう見えても、俺って、結構きついとこあってさ」
五月の目に、刺すような光が走った。
「――」
だが、星子はそっぽを向いたまま、いった。
「その前に、きちんと謝ったら」
「いいから、ちゃんと答えろ」
「ふん!」
「おい、俺を怒らせたいのか?」
「ちょ、ちょっと、五月君…」
わたしは、五月をなだめるようにいった。
「星子は、当時の記憶を失っているらしいんだ。原因はたぶん、何かのショックだろうが…落ち着いたところで、わたしが聞いてみるから…」
「余計な真似はしないでほしいですね」
「君っ」
「ちょっと! パパにそういういいかたはないでしょ!」
星子は、血相を変えて五月に詰め寄った。
「せ、星子っ」
「いいから、パパは黙ってて!」
「星子…」
「ね、五月さん! パパがいなかったら、わたしもあなたもこの世には生まれなかったの。もっと、口のきき方に気をつけるべきよ!」
「この世には、生まれたくなかった人間もいるさ」
「サイテイ! サイアクね、あなた!」
星子の頭の中は、真っ白になった。いくら、美形に弱い星子でも、今回ばかりは例外だ。
こうなったら、もう、タダでは収まらない。星子は、拳を握り締めると、五月の向かって殴りかかろうとした。
瞬間、飛び込んできた人影が、星子の腕をパッと掴んだ。
「はい! おまっとうさん、ハニィ!」
その男は、宙太だった。
(つづく)
追記 連休中、失礼しました。といっても、連休を楽しめるような世の中じゃございませんでしたが。それはともかく、今回の旅、五月チャンの登場で、なんだか、予想もつかないような展開になってきました。先行き、ものすごく、不安です。というのも、星子と五月の恋物語を書くつもりだったのに、はじめからバトルですからね。やれやれ。
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いやぁ 早くも星子節を見せてくれました これからどんなふうに発展するか、先生は先行き不安そうですが、私はワクワク楽しみです(o≧∇≦)o
2008/10/14(火) 午後 9:28 [ いちそこ ]
星子さんの短気っぷり(笑)と宙太さんの登場のしかたが、とても懐かしく、これからの展開にますますワクワクです!
2008/10/16(木) 午後 4:20 [ mati17 ]
わわわw
五月刑事さん、むちゃくちゃかっこいいじゃないですか(〃ω〃)w
こんな刑事さんがいたら逮捕された…いや、お会いしてみたいです(笑)
星子さんは怒ってる時も可愛いですw萌wwwww
2008/10/16(木) 午後 5:02 [ ゆうきあおい ]
今日このサイトを見つけました^^
懐かしさのあまり、最初の方から読みまくり!!
私も、高校時代にずっと読んでいましたが〜結婚&子育てと共に、文庫から遠ざかっておりました^^;
数年前から、古本屋を巡り先生の本を探して〜離れていた間の星子&宙太に会いたくて〜でも、全部は揃わないですね(;;)
でも、このサイトで先生のお元気な姿と作品にお会いできてとても嬉しいです^^
これからも、沢山ドキドキ&ワクワクさせて下さい!!
2008/10/17(金) 午後 2:15 [ bgp*q4*7 ]