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「星子ちゃん、気分どう?」
春之助が、レンタカーのハンドルを握りながら、助手席の星子へ目をやった 。
「顔色がよくないみたいだけど…」
「大丈夫、パワー全開よ」
星子は、微笑んで見せた。本当は、睡眠不足と疲れで、へとへと。でも、頭の中は研ぎ澄まされたナイフのようにピーンと張っている。自分でも気味が悪いくらいだ。これも、まりも姫と霊交信しているからかもしれない。声こそ聞こえないが、見えない霊力のようなものが、星子を磁石のように引き寄せていた。
「だけど、今頃、宙太さん、さぞかし、怒っているでしょうね」
春之助は、ため息混じりにいった。
「だって、ゴンベエをおとりに、だましちゃったんだもの。宙太さんに申し訳ないわ」
「そのことだけど、少しうまくいき過ぎたんじゃない?」
「どうして?」
「ほら、南千歳で降りた時のこと…」
そう、星子と春之助は南千歳で急行『はまなす』から降りたのだった。それも、列車が発車する寸前だ。
「宙太さんのほうはゴンベエががんばってくれたけど、五月さんはどうして気がつかなかったのかな。ホームでしっかりと見張っていたのに」
「それは、あたしの変装がうまかったからよ」
春之助は、自慢げに微笑んだ。
あの時、春之助はミンクコートを裏返しにすると、真っ赤なフードつきコートに変えて星子に着せた。そして、自分はタカラジェンヌのようなかっこいい黒革のジャンパーにブラックジーンズ姿…じつは、もともと、その上にミンクのコートを着ていたわけ…に変身した。そして、星子の肩を抱くと、なに食わない顔でホームへ降りてエスカレーターへ向かった。
「あの時、五月さんはチラッとこっちを見たけど、じきに他のほうへ目をやってたわ。まったく、気がつかなかったみたいよ」
「そうかな。あの人、切れそうだし、油断できないと思うけど…」
「んもぅ、心配性ね、星子ちゃんって」
春之助は、くすっと笑ったあとで、
「それより、気になるのは、圭一さんのほうよ。殺しのターゲットを追って、まりも姫の住む湖にむかうはずだわ」
「……」
春之助のいうとおりだ。今回の事件は、まりも姫伝説に登場する砂金がからんでいるのは間違いない。そうなると、殺された中島の仲間は、きっと、まりも姫伝説の湖へ向かうはずだ。そして、その後を圭一が追っていることも確かだった。
「とにかく、どんなことになっても、あたしがついているから。しっかり、星子ちゃんを守ってあげる」
「大丈夫よ。春ちゃんこそ、砂金に目がくらんで、おかしくなったりしないでね」
「そんな。あたし、砂金なんかにキョウミないわ。あるのは、星子ちゃんへの愛だけよっ」
春之助は、真剣な顔でいった。
その言葉に、間違いはないと思う。星子だって、まりも姫伝説にひかれて、危険覚悟の行動に出たわけだ。
星子は、春之助が買ってくれた缶コーヒーを飲みながら、車窓へ目をやった。いかにも北海道らしい大地が、朝日をいっぱいに浴びながら、果てしなく広がっている。かなたにかすんで見えるのは、冬真近い日高山脈の山々だ。春之助の運転するレンタカーは、その日高山脈を分け入って、一路、大雪山めざしていた。
「やっぱ、いいなぁ、北海道…」
星子は、思わずつぶやいた。迫ってくる危険もふと忘れるほど、すばらしい景色だった
だが、星子は気がついていなかった。レンタカーのあとを、距離を置いて、一台の車がつけてくることを。
その車のハンドルを握っているのは、五月だった。
(つづく)
追記 いよいよ、クライマックスに向かって、上りはじめたようです。とはいえ、まだまだ、いろいろとありそうな気配。ま、最後までお付き合いください。よろしく!
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春ちゃんの変装は返って目立ちそうな気がしますが笑 星子さんを思いやる優しさはさすがです☆
クライマックスに向かって五月刑事や圭一さんが星子さんとどうなっていくかドキドキです。宙太さん、頑張って〜!
2008/11/22(土) 午後 5:14 [ mati0017 ]
宙太さんの登場がいつになるか気になるぅ( ̄〜 ̄)ξ その前にマサルさんがまだだった(´Д`) もちろん、先生も(笑)
2008/11/22(土) 午後 5:58 [ いちそこ ]