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「ん!」
ロープウエイの一番前に座っていた宙太が、ハッと顔を上げた。
「どうした?」
わたしは、いぶかしそうに宙太を見た。
「星子さんの声が…」
「星子の?」
「うん、宙太さん、助けてって…」
「えっ」
「俺と星子さんは、以心伝心、惚れ合った同士のテレパシーってヤツさ。きっと、何かあったんだぜ!」
宙太は、座っていられずに、立ち上がった。
「早く! 早く着いてくれよ!」
「宙太君…」
わたしも、宙太と同じだった。
すでに盛りを過ぎたとはいえ、見事な紅葉の樹海をゆっくりと登っていくロープウエイが、まだるっこい。
やっと、終点の姿見駅に着いたあと、宙太とわたしは大急ぎで改札口を飛び出した。
眼前に見えるはずの旭岳は、すっぽりと雲に覆われている。それも、白色と灰色の雲がもつれるように渦を巻き、なんとも不気味な光景だった。
「おかしいな、天気予報じゃ、今日の大雪山は快晴のはずなのに…」
宙太は、不安そうにいった。
「山の天気は、変わりやすいっていうぞ」
「それだけかな、なんか、ホラーとか、カルトっぽいぜ」
確かに、異様な感じがする。
「とにかく、急ごう」
「でも、大丈夫かい、パパ? もう若くないんだからさ。あとは俺に任せて、ロープウエイの駅で待ってたほうがいいと思うけどな」
「うるさい! 余計な心配するな。君こそ、大人しくしていたほうがいいんじゃないのか。圭一君からも、警告されているわけだし」
「ふん! そっちこそ、余計な心配しなさんな。圭一君のおどしにビビるような俺じゃないぜ! 星子さんを助けるためなら、この命、喜んでプレゼントしてやるさ!」
啖呵を切った宙太は、急ぎ足で旭岳への登山道に向かった。
わたしも、負けまいと歩きだした。星子を想う気持ちは、宙太に負けていないつもりだ。わたしにとって、星子は愛しながら別れた人の面影を映した少女だ。星子の身にもしものことでもあったら、わたしは生きる望みを失ってしまうだろう。それだけは、絶対に避けたかった。
歩きだして間もなく、噴煙とも霧ともつかないもやが流れてきた。吹きつける風も、かなり冷たい。麓で登山支度をしてきたので、なんとか、耐えられそうだ。
霧は次第に濃くなり、宙太の姿も、時折、見えなくなる。風の音に混じって聞こえる熊よけの鈴の音を頼りに、宙太のあとを懸命に追った。
「パパ、こっちの方向でいいのか?」
宙太が、コンパスと地図を見ながらいった。
伝説によると、まりも姫の住むカムイ火の海は、地獄谷から東へ向かったあたりにある。
「うむ、大丈夫だ。ただし、これから先は、地形がきびしいから十分気をつけないと」
「わかった」
うなずいた宙太は、慎重な足取りで進んだ。
それにしても、本当に不気味な霧だ。妖気をはらんでいる、とでもいおうか。今にも、何かが霧の中から襲いかかってくるような気がして、体がすくんでしまう。
どれくらい登っただろう、ふいに、宙太が、
「パパ、きてくれ!」
と、叫んだ。
急いでいってみると、宙太の足元には、血痕が点々としたたりながら、霧の奥へ消えている。
その血痕を指先でぬぐった宙太は、
「まだ、生暖かいな」
と、つぶやいた。
その血痕をたどると、何かが落ちている。黒革の手帳のようだ。
「ん!」
拾った宙太は、ハッとなって、手帳を開いた。
「どうした、宙太君?」
「五月さんの警察手帳だぜ!」
「なに!」
覗き込むと、確かに五月の警察手帳だ。
「でも、なぜ、こんなところに…」
「きっと、五月さんの身に、何か、トラブルがあったんだ。この血痕もきっと五月さんのだぜ!」
「!…」
「こいつは、ますます、ヤバいぞ!」
宙太の顔が、こわばった。
「星子さん、ハニィ! 無事でいてくれよ! 頼むぜ!」
(つづく)
追記 宙太クン、やたらと張り切っているけど、大丈夫かな。先が僕にも読めません。お手柔らかに、 ですぞ、宙太クン。
ところで、めざせ、十万回! ゲキレイ有難うです。細々ながらも、なんとか、続けてまいりま した。もうひと踏ん張りして、有終の美とやらを飾らねば。よろしくです!
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74000回おめでとうございます♪
先生、有終の美、そうですよ〜人はいかに人生を自分らしく生きられるかで輝きを増します(*^_^*)
体調はいかがですか?10万回どころか、もっともっと。先生のペン(ネットでは指になるのでしょうか)が動き続けるうちは連載してくださいね〜
やっと宙太さん登場となるか!たのしみです。
そうそう、先日ネットで星子ひとりたびシリーズほぼ注文し終わりました。読み終えたら徐々にシリーズ集め制覇します〜
2008/12/6(土) 午前 0:05 [ まりも ]
ずっと見ていましたが、先生が長編を始めて、どうしても声をかけたくなったので書き込みします。
小さい頃星子ちゃんシリーズを読んで以来の先生のファンです。
星子ちゃんに憧れて育って、恋や愛は命、そして命がとっても大事だと思う医学生になりました。
私の憧れの星子ちゃんがまた元気に旅をしていて嬉しい!
有終の美なんていわず、先生の旅に、いつまでも星子ちゃんや私たちを連れて行ってほしいです。
私、先生と旅をしながら私の宙太さんを探します。
五月刑事に、圭一さん、素敵な男性がたくさん出てきて
最後どうなってしまうんだろう。ドキドキです。
続きも楽しみにしています!
2008/12/7(日) 午前 4:04 [ - ]
宙太さんかっこいい(*^_^*)急いで急いで♪♪
山浦先生続きがかなり気になります( _
2008/12/10(水) 午後 7:35 [ にゃお ]