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4
「ふーん、星のマリアさまですか」
星子、クスッと笑いながら宙太を見つめた。
宙太がアニメのキャラに憧れているなんて。イマイチ、ピンとこない。
そもそもですよ、宙太クン、星子一筋、星子いのち、星子のためなら、たとえ火の中水の中、一生お仕えします、永久にお守りいたします!
の、はず。本人もしつこくキザっぽく、そういってたしね。
そうか、熱烈アタック作戦が効果なしと見て、作戦変更、星のマリアを使って星子にヤキモチをやかせようってわけか。
浅はかなオトコよな。でも、ういヤツじゃ。
もう一度、笑いかけて、星子、ふっと真顔になった。
だって、宙太、いつもとは別人のように真面目な顔している。しかもですよ、可愛いタレメちゃんが、うっすらと潤み、口からはあらためてせつない吐息がもれた。
その顔は、恋する男の顔そのもの。
ま、まさか?
「ね、宙太さん、あなた、本気ってわけ?」
星子、宙太の顔を覗き込んだ。
「ほんとに、星のマリアを……」
「モチロン」
宙太、真顔で頷いた。
「星のマリアは、男の子にとって、理想の恋人、永遠のマドンナ……少年は、星のマリアと旅をすることで、本当の男になる……光り輝く銀河の騎士になれるんだ」
「銀河の騎士……」
「そうさ、正義と愛のために戦う最強の騎士にね。あのリトルボーイのように!」
――リトルボーイ……母を殺された悲しみに耐えながら、星のマリアと銀河鉄道に乗って銀河を旅する少年だ。星子も大好きなアニメキャラだった。
「もしかして、この銀河鉄道のチケットは……」
宙太、銀河鉄道のチケットを見つめた。
「僕に、リトルボーイのような戦士になれという星のマリアからのメッセージかも……きっと、そうだぜ!」
「そんなぁ、しっかりしてよ、宙太さんっ」
星子、宙太の腕をつかんだ。
「星のマリアもリトルボーイも、あくまで、アニメのキャラなのよ。このチケットだって、たぶん、銀河鉄道のキャンペーンとか、ほら、よくあるじゃん、そういうイベントが」
そう、銀河鉄道のイベントは今でもあちこちで見られる。
「わたし、はじめはこの銀河鉄道のチケット、宙太さんのイタズラだと思っての。でも、そうじゃないとすると、やっぱり、イベントよ。ぜったい、そうよっ」
「いんや、違う」
宙太、首を振った。
「これは、本物の銀河鉄道のチケットさ。もうじき、このホームに銀河鉄道がやってくるんだよっ」
「まさかぁ」
星子、鼻をふくらませた。
「見て、線路はここで行き止まりよっ。反対側は、地下鉄の線路と合流してるんでしょ?」
線路の先は、コンクリートの壁でしっかりとふさがれている。その反対側は、かなりの上り勾配となって、暗いトンネルに吸い込まれていた。
「もし、もしもよ、仮に銀河鉄道が実在するとしても、一体、どこからくるのよっ」
このまぼろしの駅、つまり、新橋旧ホームは、現在、地下鉄銀座線の引込線として車庫代わりに使われているだけだ。
歴史をたどれば、1934年、浅草と新橋の間に出来た日本初めての地下鉄、東京地下鉄道の終着駅なんだよね。当時はすごく賑わっていたけど、5年後の1939年に渋谷と新橋の間に別の地下鉄が出来た。それも、新橋駅ホームは別々ですごく不便。でもって、お役所の仲裁で新駅のほうを一緒に使うことになり、古い新橋駅は廃止、車庫となり、今では旧新橋駅、まぼろしの駅と呼ばれているわけ。
ちなみに、まぼろしの駅の出入り口は、地下鉄新橋駅構内の×番出口のそばにある。さて、何番出口でしょう。
なんてクイズやってる場合じゃない。そもそも、銀河鉄道がこの地下ホームにくるわけが……。
「いや、くるさ。きっと、くるぜ!」
宙太、目をキラキラさせながらいった。
「ああ、星のマリア! 早く、星のマリアに逢いたい!」
「んもっ」
バカじゃないの。アニメオタクもいいとこ。
星子、あきれ顔で肩をすくめた。でも、ちょっぴり、ヤキモチもね。いつも星子ばかり見ている宙太が、架空の存在とはいっても別の女性にここまで熱を上げているとは。
「とにかく、銀河鉄道はこないわ。絶対に現れないから!」
星子、むきになっていった。でも、宙太は、
「いいや、くるぜ!」
「こない!」
「くる!」
「こない!」
星子が一段と声を張り上げた時だった。
ボーッ、ボーッ。
汽笛が遠くで聞こえ、線路にガタゴトという音が伝わってきた。
ん?
まさか、そんな。きっと、空耳よね。
そう思っているうちに、駅のホームが青白い閃光に包まれ、まばゆい光りの渦がトンネル全体を大きく包み込んだ。
な、なんだ。何事よっ。
星子が立ちすくんでいると、汽笛は次第に近づき、線路の音はさらに高まった。そして、じきに、光りの渦の中から閃光を放ちながら、蒸気機関車が轟音と地響きを轟かせ、グオーッとのしかかるようにあらわれた。
「!……」
(つづく)
5
「銀河鉄道だっ」
星子、何度も息をのみこみ、茫然と見上げた。
目の前には、蒸気機関車の黒光りする巨体が青白いスパークを放ちながら横付けされ、後ろにはチョコレート色のクラシカルな客車が何両も連結されている。アニメで見た銀河鉄道そのものじゃないですか。
まさかと思っていたけど、ほんとに銀河鉄道があらわれるなんて。
「ど、どうなってんの……ね、宙太さん?」
星子、震える声で宙太にいった。
「これって、なにかのイベント? それとも、3Dの映画とか……」
「いんや、たぶん、ドリームワールドかもな」
「え? なに、それ?」
「つまり、つまりさ」
宙太も、興奮で声を震わせながらいった。
「なんかで読んだことがあるんだけどね、異次元空間には、人間の脳が作り出した空間、つまり、憧れとか夢が現実の世界となってあらわれることがある。そいつを、ドリームワールドって呼ぶんだってさ」
「憧れとか夢が……」
「そういうこと。つまり、銀河鉄道に憧れるハニィやボクチャンの熱い夢が、特別な脳エネルギーによって現実の世界となってあらわれた、ま、そんなところかな。コホン」
宙太、自分にいい聞かせるように頷いて見せた。
「……」
宙太の説明、今ひとつわからない。でも、銀河鉄道が目の前に停車していることは間違いない。
とにかく、この列車に乗れば、銀河鉄道で旅が出来る。それも、星のマリアやリトルボーイと一緒に。そして、憧れのキャプテン・プリンス様に逢えるんだ。
キャッホーッ!
星子のつぶらな瞳が、ピンクのハートの形になってキラキラと輝いた。
「宙太さん、早く乗ろ! 乗ろうったら!」。
星子、とび跳ねるように客車のデッキに向かいかけた。その瞬間、宙太が星子の腕をつかんだ。
「ちょっと、待った!」
「なによっ」
「この列車、銀河鉄道じゃないぜ」
「え?」
なにいい出すんだろ、このオトコ。
「銀河鉄道にきまってるじゃん! 夢と憧れのドリームワールドよっ」
「いいから、列車の表示板を見てみろよ」
そういいながら、宙太、客車の列車名表示板を指差した。
「ん? ……銀河連絡特急・すばる……」
目をこすって見直したけど、間違いない。
『銀河連絡特急・すばる』
虹色の表示板には、金色の文字ではっきりとそう書いてある。
「つまり、この列車に乗れば、どこかで銀河鉄道に連絡しているってこと?」
「らしいな」
なにが、ドリームワールドよ。直接銀河鉄道に乗れないなんて、おかしいじゃない。
頬っぺたをふくらませた星子に、
「ま、ま、ま、そんな顔をしないの。夢も憧れも、いっぺんにかなえられたら、かえってつまらないだろ。列車に揺られながら、恋しい人、いとしい人の面影を銀河の世界に追い求める……それが、恋旅のだいご味ってヤツさ。だろ?」
「ん、まぁね」
たしかに、夜汽車の車窓に流れる灯を見ながら旅を続けるのって、サイコウにロマンチックよね。
「いいわ、じゃ、乗りましょ」
「そうこなっくちゃ!」
「でも、その前にパパとママにメールしとかないと。心配するかもしれないし」
「大丈夫。ドリームワールドの旅は、時間と空間を超越しているんだ。何時間何日旅を続けても、カンケイないの」
そういうものですか。便利なものなのね。
「ただし、いっておくけどさ」
宙太、真顔になった。
「もし、旅の途中でトラぶって、旅が続けられなくなったら、その時は……夢の時空がはじけて、この世界には帰ってこれなくなるらしい」
「そ、そんな……」
星子の背中を、冷たいものが走った。
どうしよう、帰れなくなったら、サイアク。でも、銀河鉄道に乗るっていう夢を捨てるのは勿体ない。こんなチャンスって、二度とこないかもね。
「で、宙太さんはどうするわけ?」
「もちろん、いきますよ!」
宙太、ニカッと白い歯を見せた。
「あこがれの星のマリア様に逢うためなら、たとえ火の中、水の中!」
また、それだ。
「で、ハニィ、君は?」
「当たり前じゃん! キャプテン・プリンスさま命のわたしよっ。ビビるわけないでしょ!」
星のマリアへのヤキモチもあって、つい、売り言葉に買い言葉。
「さ、乗りましょ!」
「よっしゃ!」
ということで、星子と宙太、客車のデッキに飛び乗った。
ほとんど同時にドアが閉まり、汽笛が鳴って、列車は一段と激しいスパークに包まれながら、ガタンと動き出した。
でも、前方にはコンクリートの壁が……ぶつかる!
と思った瞬間、列車はコンクリートの壁に吸い込まれるように突入していった。
デッキに立つ星子、車内に激しく渦巻くスパークに包まれ、声も上げられない。突き上げる恐怖に、思わず宙太にしがみついてしまう。
もう限界か、と、思った時だった。車体を覆っていた青白い光とスパークが一瞬のうちに消えて、静寂が戻った。
ふーっ、と、息を吐きながらドア窓の外へ目をやると、
「うわぁ、きれい!」
なんと、無数の星が銀色や金色、青色、赤色、白色、灰色の光りを放ちながら光り輝いている。
「宇宙だぜ! 銀河の海だ!」
「この星の世界のどこかを、銀河鉄道が走っているのね……」
「うん! 早く乗りたいぜ」
「わたしも!」
星子と宙太、身じろぎもしないで、銀河の海を見つめた。
(つづく)
追記 名称変更、お許しいただけて、助かります。気にしながら書きたくなかったもので。憧れと現実の両立は難しいですよね。恋と同じでして。ハイ!
とにかく、この先も山浦ワールドの銀河鉄道を走らせますので、よろしく!
では、あらためて出発進行!
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先生の世界の銀河鉄道、楽しみにしております〜♪
私も早く銀河鉄道に乗りたいな〜☆ わくわく
2010/2/7(日) 午前 7:04
名称変更、悩まれましたか?
イメージを持たせつつ、直接的な表現を避けつつ。。。
でも、いいですね♪星のマリア♪ほんとそんな感じですよね〜
東北地方は昨日からまたしても雪。銀河を見たくても、曇天続きです(>_<)
2010/2/7(日) 午前 10:02 [ まりも ]
山浦さん、こんばんは!
星のマリアや、リトルボーイなんて、とてもステキな名前が付いたんですね☆
どんな旅になっていくのか、とても楽しみです♪
2010/2/7(日) 午後 8:31 [ とも ]