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恋の殺気よっ
――愛三四郎、あの新撰組の若き超美形剣士といわれる沖田総司の生まれ変わりといわれる高校生剣士……。
そういえば、うちのクラスでも、愛三四郎のうわさを聞いたことがある。たしか、つい最近、女の子向けの某グラビア誌の「美形高校生特集!」とやらで、剣道着姿の三四郎が取り上げられていたっけ。
「カッコいい!」「ステキ!」「キャーッ」って、みんな、三四郎の写真を見ながら大騒ぎ。
中でも、リツ子なんか強烈に熱を上げちゃって、「ああ、三四郎サマ、サイコー」「斬られたぁい」なんて、もうキッスしまくりのメロメロ、ヘロヘロ状態。
あ、もちろん、お高くとまったお嬢様だし、人様の前ではそんなはしたないことはしない。放課後のおトイレで一人こっそりと大はしゃぎ。たまたま、隣りのトイレブースに入っていたわたしが聞いちゃったわけ。
でも、星子、ぜんぜん、興味なし。三四郎の写真もろくに見ていない。もともとアマノジャクだし、皆が騒いでいる子なんかお呼びじゃない。それに、星子としては同年齢の高校生にはほとんど関心がない。やっぱり、男は年上の人がいい。お子チャマは恋の対象にはなりません、ハイ。
ということで、
『星子』に三四郎のことをいわれても、星子、ふーん、てなもんだ。
「あ、興味ないってわけ、あんた」
星子の顔を覗き込んだ『星子』に、
「そういうことね」
星子、フンってな顔で答えた。
すると、『星子』、
「じゃ、仕方ない、好きにやらせて貰うから」
「え?」
「だから、三四郎クンを食べに行くってこと」
そういって、バスタブのお湯の中にザボッと。それっきり、どこかへさよならだ。
「どうぞ、ご勝手に。胃薬でもたっぷり持っていくのね」
星子、せせら嗤ったあとで、ハッと口に手を当てた。
――ちょっと、待ってよ。これって、他人事じゃないんだ。『星子』は、わたしの分身。つまり、あいつが三四郎クンを誘惑するってことは、わたしが誘惑するってことになる。
それもよ、あの調子だと今すぐにも三四郎サンのもとにあらわれて、必殺キッスのセクシィアタックをかけるかも……。
と、とんでもない! あってはならないことデス!
大至急阻止しないと、ヤバい。
大ヤバっ。
星子、じっとしていられずに、バスタブから飛び出した。
ヒ、ヒエーッ、まぶしすぎます、ご主人さまぁ。
さすがのゴンベエも、ビーナスのように美しくセクシャルな星子の姿――ちと、いや、かなりオーバーかも……に、卒倒したかどうか。
そんなことより、肝心の三四郎クンがどこに住んでいて、どこの高校に通っているのか、今いるとしたらどこなのか、何一つわからない。
どうやって調べたらいいんだろう。どうやって。
焦りまくっているうちに、ふと、ひらめいた。
「そうだ、カノジョに聞いてみようか」
カノジョとは、リツ子のことだ。三四郎サマにあれ程テンション上げちゃってるし、プライベートな情報もかなり掴んでいるはずだ。
で、スッポンポンのまんま、ってわけにはいかないか、タオルを体に巻くと、ケータイをかけた。
「え? 三四郎サマの居所? 誰、それ?」
リツ子の気取った声が、ケータイからこぼれた。
んもぅ、とぼけちゃって。こっちには、みんな、わかってるんだから。
でも、リツ子のプライドを損ねるのも面倒だし、「ほら、沖田総司にそっくりの……」と、ご説明申し上げる。
「ふーん、そんな人いたっけ。で、それがどうしたの?」
リツ子の声、あくまで、そらっとぼけている。
「うん、じつはね、今、どこにいるのか、情報通っていうか、感が鋭いっていうか、テレパシーがきくっていうか、我が尊敬する友、リツ子サマならわかるんじゃないかなと……」
「そうね、ま、わからないわけじゃないけど。聞いてどうするの? あなた、カレにのぼせてるわけ?」
それは、お前だろうがっ。
「うん、まぁね。だから、ね、教えて。お礼に、来週の掃除当番、代わってあげるから」
「次もね」
こ、このぉ! 人の足元、見おって。でも、今回ばかりはアキバのお姉ぇ、「わかりました、ご主人サマ」だ。
「えーと、その愛三四郎って人が今いる所は……」
「ど、どこ? 自宅? まさか、ベッドルーム? キャーッ、サイアク!」
「ちょっと、うるさいな」
「ゴメン」
「どうやら、警察にいるようね」
「ケイサツ? な、なにか、やらかしたの? ケンカ? 万引き? まさか、チカン?」
「んもう、三四郎サマはそんな男じゃないわ! 切るわよ、電話!」
リツ子の金切り声で、ケータイ、今にも破裂しそうだ。
「ゴメン、謝る! カンニン!」
必死で謝る星子に、リツ子、やっと機嫌を直して、
「警察っていうのは、道場よ」
「ドジョウ?」
「違う違う、道場。湾岸中央署の剣道の道場に稽古で通っているの」
「あ、そのこと」
「この時間、丁度、三四郎サマ、必死になって稽古中よ。もう、ほんとに凛々しくて、カッコ良くて、失神しそう」
リツ子の声、ため息でもやもや、今にも失神しそう。
うふっ、たわいないもんじゃ。
とにかく、これで三四郎の居所もわかった。警察の道場で稽古中なら、『星子』もそう簡単に手は出せないだろう。
ホッとなった星子、急いで身支度すると、ゴンベエをリュックに放り込んで、いざ、湾岸中央署へ。今夜は両親とも夜勤と残業で留守だし、門限の十時までに戻れば自由行動オッケーってわけ。
<やれやれ、こんな時間にお出かけですかいな。>と、ゴンベエ、迷惑そうに横目で星子を睨んだが、そんなことお構いなし。
世田谷の我が家から渋谷に出て、りんかい線直通の埼京線電車に乗りる。途中、大崎を過ぎてからはずっとトンネルだ。一気に海の下をくぐってお台場へ。湾岸中央署は、そのお台場の中にある。
真新しくてモダンな建物にちょっと圧倒されたが、そこは腕と度胸の星子姫、
「すいませーん、剣道の稽古、見学させてくださぁーい」なんて、受付のお巡りさんに女の子っぽく甘え目線で頼むと、二つ返事で案内してくれた。
剣道の道場は柔道の道場の隣りにあって、気合の入った声が開け放したドアからワァーッとあふれ出てくる。
道場へ入ると、何十人もの剣士たちでいっぱい。地区の子供たちやお巡りさんたちが、「エイヤッ、エイヤッ」「お面、胴、小手!」と、鋭い気合いを掛け合いながら、宙太内を打ち合っている。
――うーん、いいなぁ、こういうシャキッとした雰囲気って……。
思わず見惚れながら、さて、三四郎サマとやらはどこにいるのかな。稽古着をつけているので、顔が見えず、さっぱりわからない。
まいったな、と、唇を尖らせた時だ。
「うふっ、やっぱり、きたのね」
隣りに、『星子』が影のようにあらわれた。
「わたしのことが気になって、あとを追いかけてきたってわけね」
「当たり前じゃん。バカな真似されたら、迷惑するのはこっちなんだから」
「だったら、手遅れかな」
「ええっ」
「なんて、ウソ。残念ながら、近づけないの。カレ、殺気が強くてさ」
「殺気?」
なんのことかな、と、思っていると、
「トォーツ」
裂ぱくの気合いが聞こえて、バシッと竹刀がはじける音がした。
星子が目をやると、一人の長身の剣士がバラバラに割れた竹刀を手に立ち尽くしている。
どうやら、相手に激しく打ちかかった時、竹刀が割れたらしい。
相手の剣士は、肩で苦しそうに息を吐きながら、面を取った。中年の体格のいいオジサマ剣士だ。
と、長身の若い剣士も面をはずした。青白く彫りの深い、ちょっとハーフっぽい顔立ちだ。相手と違って、呼吸の乱れはなく涼やかな表情だった。
瞬間、星子の目がパッと見開き、カーッと一気に頭に血が上った。
な、なんてきれいな顔をした男の子……そうか、三四郎クンだ。写真よりさらに素敵に見える。
「見てよ、彼のあの目。怖くって、とてもそばにいけないよ」
『星子』、肩をすくめて見せた。
たしかに、三四郎の目は氷の炎が宿っているかのように、暗く冷たく鋭い光りを秘めている。『星子』がいうように、「殺気」というものかもしれない。
「だけど、あの殺気、すっごく、いい……」
『星子』、ため息混じりの熱い息を吐いた。
「もう、体中が熱くなって、じりじりしてきて……早く、食べてみたい、早く……」
「んもぅ!」
睨みつけたけど、その気持ち、わからないわけじゃ……こ、こらっ。
――それにしても、なぜ? ただの稽古だと思うけど、なぜ、あんなに強い殺気が……。
けげん顔で三四郎を見つめた星子の視界に、ん、なんと、宙太が……奥の柱の陰で、いつになく厳しい顔だ。その視線は、三四郎の姿を捉えているようだった。
「!……」
(つづく)
追記 どうにか、第二話登場です。この先、どういう展開になりますやら。乞う、ご期待!
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星子・あぶないハイスクールラブ
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警察署の道場かぁ。そういえば高校時代、友人が柔道の稽古で警察署に通っていたなぁなんて思い出したり。
なんて思っていたら、真剣な表情の宙太さんが?! 三四郎くんにしても、真剣な表情の殿方は良いですなぁ〜♪ なんて言ってられない不穏な雰囲気??
双子のようにツーショット状態の星子ちゃんズが、画面的に萌えですネ〜!
続きがめっちゃ楽しみです♪
2010/7/17(土) 午前 6:34
湾岸署〜もう大捜査線の世界です(*^_^*)
道場があるのですね〜
先生の細かな描写で、目の前に星子ちゃんや三四郎君がいるようです〜(*^_^*)
暑い中、本当にありがとうございます
東北は毎日雷雨があり、あ〜夏だなあと
先生も終焉といわず、一緒にラブライフを星子ちゃんとともに楽しみましょう!
2010/7/17(土) 午後 7:59 [ まりも ]
先生こんばんわ。星子さんシリーズ読みました。先生にいろいろ
お便りをお送りしたいな〜と思いますが、コバルト様に送ったら先生にお手紙届くのでしょうか?なんだか設計の仕事で技術士に怒られてへこんでいる三連休です。理系の中で仕事をして10年・・・宙太さん
みたいな人がいなくて独り身です。仕事はやっぱり厳しいですね・・
求められる技術が高くてギャップを感じたり・・・
宙太さんみたいな人と出会いたかったな〜と思いつつコンビニ弁当を食べている私です。星子ちゃんに出会ったのが中学一年生・・星子ちゃんより年上になりました。技術士の資格が欲しい私です。明るく元気な星子ちゃんを楽しみに待ってます。宙太さんがいいな・・と思ったのはフルハウスです。先生にお便りが届きましたらお手紙書きたいと思います。技術系コンサルタントから公務員に転職する人が多いです。転職したら宙太さんに会えるのかな〜と思いつつもう受験資格が年齢制限でダメになりました。火曜日からお仕事頑張ります。
2010/7/18(日) 午後 8:09 [ N A ]