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――流星子という名前の生徒は、昔の生徒名簿には載っていない。載っているのは、今のわたしの名前だけ……。
リツ子の電話の声が、星子の頭の中でぐるぐる回っている。リツ子、ウソと赤点は一生関係ないヒトだ。わたしと違って。
流星子は、正真正銘、このわたし。ここにいるわたしだけ。
つまり、宙太さんや双子チャンが帰りを待ちわびている星子ママは、わたしの名前を使い、わたしになりすましている偽星子だ。
なぜ、わたしになりすますの?
わたしは、まだ、高校二年生の十七歳。双子チャンは今三歳っていうし、もし、わたしが産んだとすると……えーと……ヒ、ヒェーッ、中学三年の時じゃないの。
そりゃ、たしかに産める体にはなっていましたよ。自慢じゃないけどさ。
だけど、あり得ない。中三の頃のわたしなんて、男の子をいじめたり、からかったりしていたオテンバのガキ大将だった。好きな男の子なんかいなかったし、ましてや、エッチなんて無縁の世界、考えたこともなかった。いわゆる春の目覚めとやらは、高二から。まさに、突然変異デシタ。
そんなわたしのこと知らずに名前をかたってるわけ? それとも、知っていて流星子になりすましているの?
星子、だんだん腹が立ってきた。
いったい、ワレ、どこのどいつなんじゃい!
なんか、探る手がかりはないだろうか。そう、手紙とか写真とかグッズとか、なんでもいいからあたってみよう。
ということで、星子、急いで部屋へ戻ると、宙太に、
「ね、ね、あの、ちょっと!」
「ん、コーヒーね」
宙太、コーヒーを淹れながら軽くウインクした。
「今、淹れてるとこ。愛情たっぷりの甘―いカフェオレ!」
「そうじゃなくって……」
「ん、ブラックがいいわけ? にがい恋の味がお好みとは」
「違います! コーヒーじゃなくて、星子ママのことで……」
「ん?」
「写真とか、手紙とか、あったら見せてくれますか?」
「くれますかって、他人行儀ないいかたはなし。ここにいる間はハニィとダーリンの仲の約束だろ」
「え、ええ」
「で、もちろんあるけど、どうして?」
「どうしてって、つまり、わたし、そんなに星子ママに似てるのかなって……」
「確認したいわけか。ナルホド。じゃ、見せてあげる」
宙太、星子を促すと、奥の部屋へ向かった。
「星子ママのお部屋だよ」
ドアを開けると、狭いけど明るくて小奇麗な部屋だ。星座模様のカーテン、星の刺繍のレースカーテン、机や本棚の上には日本各地の木彫りの人形とかガラス細工とか、観光地のポスターとか、旅で集めたらしいグッズがたくさん……中には、変わった形の流木とか、石とか、解体された列車のパーツとかが所狭しと飾ってある。
ふーん、あんまり女の子っぽい雰囲気じゃないけど、いい感じ、わたしの趣味と同じ……って、ちょっと、待って。
この部屋、今、シモキタのマンションの星子の部屋にそっくりじゃないですか。もっとも、ここまで片づけてはいないけどね。
「どう、旅少女・星子ってイメージにふさわしい部屋だろ。ただし、カノジョが使ってた時は、こんなに綺麗じゃなかったけどね。整理整頓は苦手だってさ」
うへっ、そんなとこまで真似してるのかい。
「星丸も宙美もこの部屋が大好きでさ、いつも入りびたっているんだ。きっと、ママの匂いとかぬくもりを感じるのかな。あ、僕もだけどね……」
宙太、ちょっと照れ笑いを浮かべた。
わかるな、それって。わたし、カギっこだったから、ママが夜勤でいない時なんか、ママのベッドにもぐりこんでいたものね。
「そうそう、写真だったね」
宙太、机に飾ってある写真立てを手に取り、星子に差し出した。
双子チャンがまだ赤ん坊の頃に撮った写真で、宙太と星子が赤ん坊を一人づつ抱いて映っている。
「僕が抱いてるのが宙美で、カノジョが抱いてるのが星丸さ」
「かわいいっ」
もう、幸せいっぱいといった顔だ。だけど、返ってつらくなり、星子は写真を机に戻した。
「こっちなんか、どうかな」
次に宙太が差し出した写真には、ウエディングドレス姿の星子と、モーニング姿の宙太が映っている。なんとも、ステキなカップルだ。
「わぁ、きれい」
思わず、ため息が出てしまう。
「うん、日本一、いいや、世界一きれいな花嫁さんさ」
そうつぶやく宙太の目に、キラッと光るものが。
これも、見ていてつらくなる写真だ。目をそらした星子、隣りに飾られた写真を手に取った。結婚式のあとに撮ったのか、宙太と星子を囲んで友達らしい人達が映っている。
「あ、僕とカノジョの仲間達さ。この真面目くさった顔の男がマサルくん、となりでおどけているのが、僕と父親違いの兄弟でゲンジロウ……」
「そういえば、似てる」
「とんだ迷惑だよな。で、この生意気顔が小次郎くんで、隣りで気取っているのが左京くん。その隣りの美女が……」
「春之介さんね」
「そう、みんな、楽しくていいヤツさ。もちろん、ケンカとかするけどな。ま、じゃれあってるようなもんさ」
「いいなぁ、そういうのって。あ、この人は?」
星子、皆と離れて立つ若い男を指差した。
「カッコイイッ」
スラッとした長身で、長い髪が彫りの深い顔にかかり、ちょっと悲しげな双眸がなんとも印象的だ。
「この人も、仲間?」
「う、うん……」
宙太、顔を曇らせた。
「……十文字右京くんだ……」
「えっ」
星子、ドキッとなった。
――この人が、右京さん……星子ママが、あとを追った相手……。
そうか、仲間の一人だったのか。宙太が紹介をためらった理由もよくわかるような気がする。そして、宙太の哀しさ、つらさも……。
「ごめんなさい、この人のこと、カッコいいなんて……」
わたしって、ほんとにバカ。
すると、宙太、首を振り、
「いいのいいの、カッコいいのは事実だしさ。ボクチャンなんか、足元にもおよばない、礼儀正しい青年紳士で正義感が強く、弱きを助け強きをくじく、まさに男の中の男ってヤツさ。僕も右京くんが好きだ。尊敬さえしている。だから、余計つらいっていうか……あ、でも、違うよな、右京くんがカノジョを奪ったんじゃない、カノジョがあとをおっていった、そういうことなんだ……右京くんを恨むのは逆恨みだよな。だけどさ、だけど、やっぱり……」
「……」
「ワリイ、こんな辛気臭い話、聞きたくないよな。僕だって、他の人間には、たとえ友達だろうと、絶対にいえないことだけどさ。弱みを見せたくないのかな、やっぱり」
宙太、肩をすくめると、
「でもさ、君といると、つい……ごめん、ごめん、あやまる。ソーリー・ダーリン」
「……」
――いいのに、わたしで良ければ、もっと聞いてあげたい。少しでも宙太さんが楽になれるのなら……。
ふと、そんな気持ちになってくる。でも、ダメ。立ち入り禁止。入るべからず。
宙太も、気持ちをふっ切るように、
「そうだ、高校の頃の写真も見てみるかい?」
「ええ、ぜひ!」
そうよ、それが一番問題なんだ。
宙太、机の引き出しを開けて、中からアルバムを取り出した。
「このアルバムが、そうだよ。高校時代のカノジョが映っているんだ」
ふん、どこの高校だか。リツ子の話じゃ、名簿には載っていないわけだし。宙太さんにはウチの学校の名前をいってるけど、実際は違うはずよ。
化けの皮を、はぐっ。
「見せて下さいっ」
星子、ひったくるように受け取ると、ページをめくった。
『二年A組』と書かれたページには、クラス全員が担任教師と一緒に撮った大判の写真が貼ってある。
二年A組といえば、わたしと同じクラスの名前だ。
「ほら、ここにカノジョがいるだろ」
宙太が写真の真ん中近くを指差した。たしかに、星子にそっくりの女の子が映っている。制服は、ウチの学校にそっくり。
ん、担任教師の顔も見覚えが……なによ、うちらの担任の赤田センセイにそっくりじゃないの。そして、その隣り、一番目立つ中心の位置には、リツ子そっくりな子がいる。
うふっ、ホンモノのリツ子も、いつも一番目立つ所にいるもんね。
一旦はクスッとなった星子、次の瞬間、あんぐりとなった。
ちょ、ちょっと待って。他にも似ている子が、ゆうこ、カズコ、きな子、あけの、やすえ、まいこ、ひゃあ、どいつもこいつもそっくり!
よくもまァ、ここまでそっくりな子をそろえ……られるわけないよ。そうじゃなくて、うちらのクラスの写真を、そっくり使っているんだ。
あわててページをめくると、間違いない、運動会や学園祭、遠足、どの写真を見ても、わたしのアルバムと同じ写真が貼ってある。
なによっ、これは!
完全に、わたしになりすましているじゃないですか。
もう、腹が立って、頭の中が真っ白。
「どうしたい、ハニィ? 星子さん?」
宙太が心配そうに星子の顔を覗き込んだ。
「どうもこうも、ありません!」
星子、目を釣り上げて叫んだ。
「このアルバムの写真、全部、わたしのです! 映ってる子も、担任の先生も全部、わたしのクラスのヒトよっ!」
「はぁ?」
「それに、わたし、友達に調べて貰ったけど、ウチの学校の昔の生徒名簿には流星子の名前はないの! あとにも先にも流星子はこのわたし一人なんです!」
「……」
「ちょっと、宙太さん! 聞いているわけ!」
「もちろん。ちゃんと、聞いてるさ」
宙太、余裕の顔でいうと、ニッコリと笑った。
「な、なにがおかしいのっ」
「ごめん、ごめん。だってさ、キミがそこまで星子ママになりきるとはね」
「なりきる?」
「だってさ、僕は会ってるんだよ、担任の赤田先生に。君との結婚のことでね」
「ええっ、い、いつ?」
「三年前さ」
「えっ」
「その時、クラスの子たちにもね。あ、もちろん、結婚のことは話さなかったけどさ。リツ子さん、ゆうこさん、キナコさん、他のみんなにも」
「う、う、う……うそーっ……」
星子、完全に頭の中がマッサラ。
あ、ありえない。そんなバカなことって、絶対にありえない。
宙太さん、アタマがおかしい。どうかしちゃってるよ。でも、だったら、赤田先生やリツ子達の名前、どうして知ってるわけ?
どういうこと? どういう……あれこれ考えているうちに、フワーッとなって、倒れかかった。
「あ、星子さん、ハニィ、どうしたい?」
宙太、素早く抱きとめると、そばのソファに星子を寝かせた。
「大丈夫かい?」
「ええ、ちょっと、フラッとしちゃって……」
「きっと、気を使い過ぎたんだよ。よし、マッサージしてあげようか」
「マッサージ?」
「星子ママにも、してあげたんだ。とてもよく効くってさ」
そういいながら、宙太、星子の首から肩にかけてマッサージをはじめた。
――気持ち、イイ……。
アルバムのことは後回し。しばし、オヤスミタイム。
うっとりとしていると、ふいに、
「あららっ、オアツイこと」
春之介の声がした。
目を開けると、いつの間にか春之介が近くに立っている。
「春ちゃんか」
宙太、びっくり顔で振り仰いだ。星子も、あわてて起き上がった。
「ごめんあそばせ、オジャマしちゃって」
ニヤリと笑った春之介に、宙太、
「違う違う、そんなんじゃないったら」
「いいのいいの、ほんとに久しぶりなんだもの。求め合って当然よ。ね、星子ちゃん」
「あ、う、いえ……」
星子、何て答えていいのか、困ってしまう。
「こんな時になんだけど、宙太さん、今夜はパーティよっ」
「パーティ?」
「そ、星子ちゃんの無事帰還を祝ってね。マサルさんやゲンジロウさん、小次郎さん、左京さん、タケルさん達もくるって。みんな、あたしがメール入れたら、大感激! 星子ちゃんに会いたいって、もう、ウルウルよっ!」
「!……」
追記 全部入りきれなかったので、二回にわけます。よろしく!
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おかえりママに薔薇のキス
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こんばんわ。
新星子さん×宙太さんのカップルが一番上手く行くんじゃないか
思えてきました(TT
星子さんと宙太さんは最初女子高生とペテン師のケンカ友達で
出会った為、素直になるきっかけを失ったような気がします。
今の宙太さんだったら年齢差も広がって、子持ちで更に包容力があるし
新星子さんは子ども達の手前、拗ねたり出来ないし。
新星子さんと宙太さんの別れを想像すると今から涙です。
山浦先生の罪作り(><)
山浦先生、皆さまの今日のご飯がおいしくあります、ように。
2010/10/27(水) 午前 1:41 [ 田島なせ ]
やっぱり星子ちゃんひとりが、この未来の世界へ入り込んでしまっているのかな〜? でも携帯は時空を超えて、リツ子と繋がっているし。
…もしかしたら、星子ちゃんはこのまま、本物の星子ママになってしまうんだろうか? そうすれば、宙太さんたちのところで星子ちゃんがいて、右京さんのところにも星子ちゃんがいて。必要とされているところにそれぞれ星子ちゃんがいるなんて、わぁい♪(←なんて都合のいいこと考えちゃダメじゃん〜
なんだか不思議で先が気になる〜。
2010/10/27(水) 午前 6:52