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「えっ、右京君が!」
宙太の声は上ずり、顔もサッとこわばった。
――右京さんって人、どうしたんだろ、なにかあったのかな……。
宙太の反応をみると、ただ事じゃなさそうだ。でも、立ち入って聞くわけにはいかない。
「わかった、すぐいくから」
宙太が緊張した顔でいうと、マサル、ナナハンのエンジンをかけて、星子を無視したまま猛然とダッシュさせた。その爆音が、星子への怒りだけじゃなくて、心に秘めた想いをぶつけるようにも聞こえる。
「星子さん、ごめん」
宙太、申し訳なさそうにいった。
「ちょっと急用が出来ちゃってさ。今から、出かけなきゃならないんだ」
「そう、遅くなりそう?」
「うん、帰りがいつになるか……」
「……」
「あ、もちろん、君はキリのいいところで帰っていいんだ。明日は、君、学校があるわけだしね」
「え、ええ……でも、星丸クンと宙美チャンは……」
「大丈夫、春ちゃんがいてくれるから」
「パーティは、どうするわけ?」
「ま、中止するしかないな。僕もマサル君も今日中に戻ってこれるかどうかわからないしさ。宙美も星丸もがっかりするだろうけど、あとでちゃんと話せば分かってくれるよ。いままでもこういうことは度々あったしね、二人とも、パパの仕事にはそれなりに理解してくれてるんだ」
宙太、ちょっとさびしそうに笑うと、ふと、真顔になって星子を見つめた。
「君には、ほんとに迷惑かけたね。おかげで、助かったっていうか、久しぶりに我が家のあったかさを思い出したよ。ほんとうに、有難う」
「そんな……」
マジメな顔でいわれると、かえって困ってしまう。
「でも、わたしがいなくなったら、星丸くんと宙美ちゃん……」
「うん、ちょっと心配だけどね。でも、君のいったことを信じて、二人にはしっかりといって聞かせるから」
「わたしのいったこと?」
「ほら、星子ママは、この二日の間に、きっと、帰ってくるって……そういっただろ、君……」
「ええ、そんな気がして……」
「今は、どう? 変わらないかい?」
「ええ」
星子、ぎこちなく微笑んだ。ほんとは、あまり自信がなかった。
「じゃ、そういうことで……春ちゃんには、君のこと、ちゃんと話しておくから。わかってくれるといいけどね。なんせ、思い込みが激しいからさ、カレ、あ、カノジョ」
宙太、苦笑したあとで、ふと、星子を見つめた。
じきに、その目に涙のようなものが光り、宙太、あわててぬぐった。
「いけねっ、いや、急に思い出しちゃってさ。君にキスしたこと……」
「あ……」
星子、顔をパッと赤らめた。
「あの時は……正直いうとね、君が本物かどうか試すためじゃなかった……」
「え?」
「どうにも気持ちがね……逢いたかった、恋しかったんだ、死ぬほど恋しかったんだぜ!……そんな気持ちで心臓がこわれそうになってさ……ほんと、ごめん。申し訳ないっ」
「……」
「でも、キスの味は違ってた。いや、ほんとは同じかも……ただ、なんていうかな、青いリンゴと熟したリンゴの違いっていうか、僕がはじめて君に長崎で会った時、もし、キスしてたらこんな味だったのかな、って……」
「……」
「だから、君がただのそっくりさんとは思えなくってさ。まるで、時間が戻っただけのような……」
宙太、まじまじと星子を見詰めたが、
「いや、ありえないよな、そんなこと。絶対に、ありえない。君はキミ。ハニィはハニィだ」
宙太、自分にしっかりといい聞かせると、
「昔の僕だったら、ハイ、ここでお別れのキス! なんて、調子良くいうところだけど、今はやめとくよ」
宙太、悲しそうな笑顔を見せた。
「宙太さん……」
「じゃ、僕、出かける前に春ちゃんに事情を話しておくから。君は今のうちに支度して出たいったほうがいいな。星丸と宙美が保育園から戻ってくると、君も出ずらいだろうしさ」
「……」
「んじゃ、これでお別れだ。せめて、かるくハグだけでも、と、思ったけど、ええぃ、未練がましいぜよ、おぬし!」
宙太、軽くウインクすると、「さよなら、ハニィ!」といって、パッと背中を見せながら戻っていった。
「……」
宙太の後ろ姿、とっても寂しそうだ。なんだか知らないけど、泣けてきちゃう。
いいヒトだよね、宙太さんって。好きになりそう。でも、人様のご主人です。好きになってはいけない人なのです。
喝!
それに、くらべて、さっきのそっくり宙太はなによ。やたら調子が良くて、にやけているだけのサイテイ男だわ。もう、二度と会いたくない。と思うけど、なぜか、あいつの顔がくっきりと焼きついている。
その顔をゴシゴシと消しながら、星子、荷物を取りに宙太のマンションへ戻った。
リビングのほうから、春之介の「えっ、星子ちゃんが? そんな!」と、かん高い声が聞こえてくる。きっと、宙太から事情を聞いてショックを受けているのだろう。
ごめんね、春ちゃん、あなたとはもう一度、ゆっくり会いたかった。
ベッドルームへいって、リュックを背負う。昨夜はいつの間にか隣りに星丸くんが寝ていて、宙美ちゃんに「おにいちゃん、ずるい!」って、いわれてたっけ。すごくかわいい双子ちゃん。わたしがいなくなったら、双子チャンがどんなに悲しい思いをするか。もう、胸がいっぱい、今にも張り裂けそう。でも、ダメ。宙太さんのいう通りにしなくては。
それこそ、心を鬼にしてベッドルームから出ようとした星子、
「あ、忘れてた、ゴンベエ」
道理で、リュックが軽いわけよね。でも、どこにいるんだろ、ゴンベエ。
星子、低い声でゴンベエの名前を呼びながら廊下へ出た。
すると、奥のほうからフニャーゴとゴンベエの鳴き声が聞こえる。
あんなところにいたのか、と目をこらすと、星子ママの部屋の前にゴンベエがうずくまっている。
「ゴンベエ、帰るよ」
星子が声をかけても、ゴンベエ、気がつかないのか、ドアの前でゴロゴロとのどを鳴らしている。
「どうしたよ、お部屋の中に可愛いメス猫ちゃんでもいるわけ?」
そういいながら近寄った時、ふと、低く音楽が部屋のドア越しに聞こえてきた。
ん! わたしの大好きなシンガーのラブソングじゃないの。しみじみと愛を歌い上げるステキなバラードだよね。そういえば、今朝、星子ママの部屋に入った時、机の上のCDラックにその曲があったっけ。
でも、誰が聞いているんだろう。今、この家にいるのは、わたしと宙太さん、それに、春ちゃんだけなのに。
待って、わたしの好きな曲が同じってことは、もしかして……そうよ、星子ママかもよ!
星子ママが、聞いているんだ。だから、ゴンベエもゴロゴロとのどを鳴らしてたのね。
よかった! わたしが思った通り、星子ママ、帰ってきてくれたんだ。
ああ、宙太さんや双子チャン達がどんなに喜ぶか。
おかえり、星子ママ。みんな、お待ちかねよッ。
おかえりなさい!
そう心の中で叫びながら、星子、ドアをパッと開けた。
「!……」
(つづく)
追記 星子の大好きなラブバラード、どんな曲かな。一人で聞いてると、泣けてくるような曲だと思うけどね。
かなり冷え込んできましたね。お互い、風邪には気をつけましょう。もっとも、僕の場合は心の風邪のほうが心配でして。あ、もちろん、フトコロのほうもです。
キリギリスにはつらい冬が近くなってきました。
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おかえりママに薔薇のキス
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宙太さんの気持ちがせつないです。
もう11月に入りましたね。一気に寒くなり、蝶の幼虫がびっくりして、慌ててサナギになったり…サナギになっても力尽きたり、サナギになることも出来なかったりです。
蝶のサナギって越冬もするんですよ(*^^*)春にはきっと…☆
少し、来年の楽しみが出来ました。
先生も、風邪には気を付けて下さいね!
2010/11/2(火) 午後 10:16 [ こっきー ]
切ない・・・
宙太さんの背中を想像すると、わたしも切なく涙が出ます。
そして、やっぱりパラレルな世界が気になります。
そっくり宙太さんと、星子ママ。
イクメン宙太さんと、17歳の星子さん。
この先がどんな風になっていくのか気になって仕方ありません!!
こちらの天気は、なかなかスッキリと晴れないです
山浦さんの方は如何ですか?
朝晩も冷え込んできましたし、さむ〜い冬が近づいて来ましたね;
キリギリスさん、『つらい冬』の前に『美しい紅葉』をみんなで一緒に楽しみたいですね☆
2010/11/2(火) 午後 10:45 [ とも ]
泣き過ぎてPCの画面がぼやけてしまいます(><。)
『逢いたかった、恋しかったんだ、死ぬほど恋しかったんだぜ!……そんな気持ちで心臓がこわれそうになってさ……』って私も心臓壊れそうです〜〜〜(号泣)
宙太さんの気持ち、本当に切ない…。。。
星子ママが帰ってきたら思う存分キスして、ハグしてね(:;)
(むしろ私が宙太さんをハグしたい)
本日、久しぶりに『ハッピーエンドはJKの罠』を読みました。
犯人に捕まってボロボロになっている宙太さんを星子さんが助けに来たシーン、すごく感動しました。
そのとき星子さん、傷だらけの宙太さんを力一杯抱きしめているんですよね…そして『ほんとに、会いたかった』って。(T−T)
読み返した後に、この『おかえりママ〜(11)』を読んだので余計宙太さんの『逢いたかった、恋しかった』という言葉が胸に沁みました。。。
2010/11/2(火) 午後 11:15 [ ゆず ]
宙太さんの思いに胸がつまり言葉が。・゚゚ '゜(/□\) '゜゚゚・。
星子さんも宙太さんもやさしいままですね。
泣いてしまいましたけれども、今こうしてまた
星子さんを読むことが出来、昔と同じ様に泣いたり
優しい気分になれたりと心動かされる作品に出会えて
とても幸せだなぁと思い、改めて思い先生に感謝したくなり
書きこみに来ました。
こうして書いて下さって本当にありがとうございます。
寒くなってきてますが、先生もお体お大事になさってください。
2010/11/2(火) 午後 11:46 [ 蒼華 ]
おはようございます。
宙太さんの想いをが、とてもとてもせつないです。
エンゼル星子さんだから、あまりにも昔の星子さんにそっくり?で、自分と一緒の時間をすごしてきた星子さんじゃないから、家庭のあたたかさを思い出した反面、宙太さんも恋しさや寂しさがさらに自覚?しすぎて、つらい部分もあるんだろうなあ・・って、今までのお話を読んでて、ずっと感じてきました。
(星子ママが戻ってこれないのなら、こっちから迎えにいくー。
どこにいるのー。。)と、心の中で雄たけびをあげています。
このお話の最後にエンゼル星子さんがみた光景が、すごくすごく気になります。。。
コッココで引っ張られるので。。。
続きがまた気になって、はたまたお仕事が・・。
P.S だんだんと寒くなってきました。
体調にはお互いに気をつけて過ごしていきましょうです。
2010/11/3(水) 午前 6:34 [ ちびすけ ]
おはようございます。
私も皆さん同様 宙太さんの気持ち・・想いが とってもせつないです・゚・(ノД`;)・゚・
そうよね・・。逢いたいにきまってますよね(ノ_-。)
早く星子ママに帰ってきてほしいなぁ。。。
ドアを開けた先に 星子ママがいますように☆☆
寒くなってきました、先生もお風邪気をつけてくださいね。
こちらは、星子さんが旅に出たくなるようなとても良いお天気です。
星子さんが、宙太さん双子ちゃんの事を想いながら、今日のこの空を見上げてるといいなぁ。
2010/11/3(水) 午前 7:46 [ じゃすみん ]
星子ちゃんのバラード・・ズバリ!!
山根康広 Get Along Together 愛を贈りたいから
です!!
こんな僕ではあるけれど誰より君を愛している
深夜の君の電話寂しい夜もしたけど
もう二度と離さない君の瞳僕は君をずっと守ってゆく
ここからいい詞・・
冷たい雨の中かさもささずに二人海まで歩いたあの頃
これからもずっとそばにいて愛を贈りたいから
もう二度と離さない君の瞳僕は君をずっと守ってゆく・・
この曲好きな人から歌われたら恋に落ちる・・と思います。
女性がキュンとする歌。星子ちゃんは宙太さんの事想って
この曲聴いているのでは??すっごく女性がドキドキする曲。
結婚式の二次会で新郎が新婦に歌っていましたね。一時期・・・
恋の素晴らしさを教えてくれる歌です。最高です。
2010/11/3(水) 午前 10:41 [ アユ ]
もしご機会ありましたら皆様 聴いてみて欲しい曲です。
本当に素晴らしい名曲です。
本当に宙太さんの気持ちを表している曲です。
君に逢いたかったんだ、恋しかったんだ 死ぬほど恋しかったんだ
という言葉で山根宏康さんのこの曲が宙太さんの気持ちにドンピシャと思いました。宙太さん!!この曲星子ちゃんに歌ってあげて〜。
絶対ドキドキして戻ってくるから・・・。せつないせつない
宙太さんの気持ちを歌ったような曲ですね・・。
思わずジーン・・感動しました。曲と合わせて小説読んで・・
2010/11/3(水) 午前 10:52 [ アユ ]
こんばんは。
今日はさわやかにいいお天気になりましたね。。
どこかいきたいなーって外を眺めつつも、今日はお仕事の日でした。
仕事中も、星子ママどこでどうしているのかなあ。。
ずっーときになりぱなしで。。
11の最後で、エンゼル星子さんがみた光景って、
イクメン宙太さんが星子ママを想って、さびしいときに星子ママのラブバラードを聞いて、恋しさや寂しさ、弱さをさらけだしまくっているところ??なのかなあ。。って思ったり・・。
星子ママ、どこでどうしているのでしょう。。。
いい恋を探すことがいけないとはいえないけれど、腹据えて育てていくことも大切だと思う今日この頃。。。
2010/11/3(水) 午後 7:19 [ ちびすけ ]