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第三部
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――わたし、夢を見ていたのかもね……。
星子、窓の外に見える夕焼け雲を、ぼんやりと見上げていた。
長崎での宙太や双子チャン達との出会いからはじまった今回の旅、ほんとにいろいろあった。ずいぶん時間がかかったように感じるけど、まだ、一日ちょっとしかたっていない。でも、我が家へ帰ってきて、ソファにへたりこんだあと、まるで潮が引くみたいに時間が遠のいていった。同時に、昨日から今日にかけて起こったことが、次第に現実感がなくなってきて、なんだか長い夢でも見ていたような気分がしてくる。
ま、正直いってそうあって欲しい。右京って人がからんだ、なんか、とんでもない事件に巻き込まれそうな感じだったし。
春ちゃんがいったように、もうこれ以上、係わり合いにならない方が、わたしのためなんだ。
そう、夢だ、夢なんだ、忘れよう、忘れちゃえ。いいね、星子。
何度も自分にいい聞かせると、星子、ソファから起き上がった。
さぁ、マジメに試験勉強しないと。明日から始まる期末テスト、がんばらないとヤバイ。今度赤点取ったら、進級できなくなるよ。
本日、サラリーマンのパパは札幌に出張中。看護師やってるママも夜勤で帰りが遅いし、勉強に集中できる環境はバッチリ。一人っ子でカギっ子の身分はお気楽なもんです。晩御飯はピザのデリバリィ頼んで、しっかりと勉強だ。
え? ゴンベエの晩飯どうするかって?
知るかい。そのへんのメス猫にお呼ばれすれば。あんたみたいなドラにラブする物好きなネコちゃんもいるかもね。
だよね、ゴンベエ?
でも、当のご本人はガスストーブの脇で鼾をかいている。あれじゃ、とても、ラブロマンスなんかに縁はなさそう。
ゴンベエのことなんか、どうでもいい。やるぞ、星子。ファイトだ、星子。
おぅ!
気合を入れて自分の部屋に入り、勉強机に向かって、さぁ、始まったよッ。
と、いいたいところだけどォ、
――春チャン、星丸クンと宙美ちゃんをお迎えにいったかな……。
――晩ご飯、なにを作ってあげるんだろ。栄養のバランス考えてあげてよ……。
――宙太パパがお仕事でいないけど、双子チャン、お留守番出来るのかな……。
そして、なによりも気になるのは、
――わたしがいなくなって、双子チャン、大丈夫かしら……ママお帰りって、あんなに喜んでいたのに……急にまた、いなくなったわけだし……ショックでおかしくならないかな……可愛そうな双子チャン……。
あどけない双子チャンの顔が、頭の中にくっきりと浮かんでいる。
星子、急に悲しくなって、涙が目にあふれてきた。
「……ごめん、ごめんね、星丸クン、宙美チャン……」
涙をぬぐっても、すぐまた、あふれてくる。
――ママ、どこ? どこにいるの?……帰ってきて、ママ……。
二人の呼ぶ声が、聞こえてくるような気がする。
星子、たまらなくなって耳を手でふさぎ、頭の中の二人の顔を書き消そうとした。でも、全然、効果なし。
――星子ママ、ね、光の壁から抜け出して、双子チャンのところへ帰ってあげて。お願い!
そうよ、星子ママが帰れば、すべて解決するんだ。それしか、ないんだよね。でも、その見込みはなさそうだった。
こうなったら、ちょっと様子を見てこようか。とても、勉強どころじゃないしね。
春チャンにはもう係わるなっていわれてるけど、ちょっとだけ、外から様子を見るだけだから。
「ゴンベエ、出かけるよッ」
パッと立ち上がった星子、ジャンパーを引っかけ、リュックを掴むと、ゴンベエを促した。でも、ゴンベエ、聞こえぬふりだ。もうお出かけはうんざり、っていう気分らしい。
ま、いいか。どうせ、すぐ戻ってくるわけだし。
「じゃ、留守番、よろしくね」
星子、ゴンベエに声かけて家を出た。
そろそろ木枯らしが吹く頃だし、おまけに夕暮れ時で肌寒い。
うふっ、オトコの肌が恋しい季節ですねぇ。
なんて、バカいわせないでっ。
星子の自宅のある下北沢から宙太のマンションのある田園調布へいくには、井の頭線で渋谷で出て、東横線に乗り換える。ラッシュ時だし、ちょっとユウウツ・タイムのはずだけど、なぜか、気にならない。
早く、双子ちゃんの顔がみたいな。うーん、早く見たい!
気持ちがわくわく、まるで、我が子に会いにいくような……ちょっと、やめてよ。わたしは、星子ママじゃないの。いくら星子ママがわたしにそっくりさんでも、そこだけは違うんだから。
わたし、まだ、バージン・レディ。赤ちゃんの作り方なんて、ゼーンゼン、知りまっしぇーん。なんちゃって。
肩をすくめ、駅に向かって歩き出した時、いきなり、背後から、
「よっ」
ポンと、肩を叩かれた。
まさか、その声は、と、思いながら振り向くと、ああ、やっぱり、そっくり宙太がたれ目のにやけ顔で立っている。
「うーん、やっぱり、運命だね」
いきなりの一言。
「運命?」
「そ、こんなに早く再会出来るなんて。僕達、金の糸で結ばれてるわけ」
「は?」
「赤い糸、なんてダサイ。キラキラ輝く金の糸こそ、僕らの運命にふさわしいのね」
このキザで軽薄さ。宙太パパと顔はそっくりでも、サイテイもいいとこ。
「よしてよっ。わたし、用事で出かけるだけなんだから」
「それでも、僕チャンと出会った」
「ただの偶然ですっ。それとも、ストーカー? わたしが宙太さんの家を出たあと、ずっと、あとをつけてたわけ?」
「いんや。今もいっただろ。キミと僕は金の糸で結ばれているって。だから、ストーカーやる必要はナシ。現にこうして会えたしさ。それに、いっておくけど、君をエスコートしたマンションはほんとに僕の家なんだぜ」
「じゃ、あの時、どうして突然いなくなったのよ? 本物の宙太さんが出てきたんで、あわてて逃げたんでしょ」
「とととっ、本物の宙太はこのボク。それにさ、あの時は君のあとから玄関ホールに入ろうとした瞬間、いきなり、光の壁みたいなものにぶつかって……」
「光の壁?」
そういえば、春之介の話だと星子ママも光の壁に……。
「でさ、一瞬気が遠くなって、気がついたら、光の壁は消えていて、君の姿はなかったんだ。おかしいなと思いながら、あらためてマンションへ入ろうとした時、ケータイに事件のことで連絡が入ってね」
「事件……」
「うん、コインパーキングに駐車中のクルマの中から、殺された死体が見つかったんだ。で、その捜査で下北沢にきたってわけ。あ、申し遅れましたが、これでも、ワタクシ、警視庁捜査一課の刑事でして、ハイ」
そういいながら、宙太、ポケットから名刺を取り出し、星子に差し出した。
「!……」
そっくり宙太、なんと、宙太パパと同じ刑事だったなんて。それも、名刺の肩書は警部。まったく、同じだ。
でも、ほんとにこのヒト、刑事? 宙太パパなら納得できるけど、そっくり宙太、あまりにも軽過ぎる。
「なになに、そんな疑いの目で見たりして。あまりにもいい男なんで、デカのイメージがわかない、ナルホド、ごもっと」
このっ、よくいうよ。
にんまり笑った宙太の前に、一台のオートバイがザーッと乗りつけた。黒色のナナハンで、着古した茶色の革ジャンを着たライダーがハンドルを握っている。夕闇のせいでイマイチわからないけど、どこかで見た顔だ。
「紹介するよ。僕の相棒の……」
ライダー、軽く会釈しながら、ヘルメットを脱いだ。
「あっ」
星子、思わず声を上げた。それほど背は高くないけれど、屈強な体躯に、日焼けした精悍な顔、ワイルドだけど孤独で寂しげな双眸、そして、薄く引き締まった唇。その顔は、宙太パパが紹介してくれた三日月マサルって人にそっくりだった。
「ん? 知ってるのかい、彼を?」
けげんそうに見た宙太に、星子、
「ええ、あ、ううん……」
首を振りながら、しどろもどろに答えた。
「ちょっと、似た人が……」
「そうか、じゃ、あらためて紹介を。彼の名前は、三日月マサル刑事。ちょっと荒っぽいけど、頼りになるヤツさ」
「……」
星子、茫然もいいとこ。だって、三日月マサルという名前まで同じだとは。しいて違うところを探せば、星子を見つめる眼差しが、あのマサルよりは柔らかいってことかな。
本物のマサルの目は、星子ママの一件もあって、星子を厳しく責めていた。でも、そっくりマサルのほうは、初対面の相手を見る時の眼差しっていうか、星子と目が合い、遠慮がちに目を伏せた。取っつきにくいけど、いいヒトみたい。
それにしても、そっくり宙太の次はそっくりマサルさんとは。いったい、どうなってるわけ。
首をかしげる、星子さんだ。
一方、宙太はマサルに、
「で、どうなってる? 何か、手掛かりはあったわけ?」
頷いたマサル、低い声で宙太に耳打ちした。
「ん? カレが現場に? どういうことだ?」
「そこんところは、本人に聞いてみるさ。警部に会いたいって、もうじき、ここへくるはずだ」
「そうか」
そっくり宙太が、さっきとは一転、キリリッと顔を引き締めたところへ、一台のベンツが、すべるように近づいてきた。ピカピカに光るボディには街の光やネオンがきれいに映っている。
「おっ、早速お越しですか」
宙太、ちょっと身構えるようにベンツを迎えた。
すると、停車したベンツの運転席から、白いマフラーを、まるでマントのように翻しながら、一人の男が降り立った。
すらりとした長身で、顔立ちは彫りが深く、女性のように睫毛が長い貴公子だ。それこそ、一目見ただけでうっとりとする、まさに、超の字がつく美形だった。
でも、待って。この人の顔も、どこかで見たような……そう、そうよ、星子ママと宙太パパの結婚写真に映っていた、あの人……。
「……う、右京さんっ……」
星子、思わず叫んでいた。
(つづく)
追記 第三部、なんとかスタートしました。よろしくです。
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きゃ〜・・。ワクワクします。これからどうなるのでしょう・・。
やっぱり日本がいいですね。それは先生のブログが見れるので・・。
出張中はコメントできませんが、応援しています。
そういえば今上海でアニメの一休さんが流行っていました。
確か先生が脚本されたような気がします。日本をこえて中国で人気が
あるそうです。凄いです。一休さん人気・・。
1月は旧正月があるので2月にまた上海に同期とコンビで行くことになりました。九州人のバイタリティーとタフさを買われて東京本社から仕事を取った事にもなります・・。東京本社の方って苦学されてないので・・。確か東京本社になって3日で辞めた人がいる。すごくぼっちゃんだったですね・・。兄の会社韓国支社の人は大変らしいです。
帰国したり・・。確かに南九州のアパートでクーラーナシの4年間はきつかったです。2年生から冷風機いれたけど焼け石に水でした・・
桜荘の4年間・・。とにかく暑かったです。上海語兄からもらったDVD
で勉強中です。兄はペラペラです。挨拶と簡単な会話を話せるように努力します。
2010/11/27(土) 午後 9:19 [ N A ]
なんと! いきなり立て続けに宙太さん、マサルさん、右京さんまで〜!
ハイテンション〜+。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。+゚
でもこの三人、いつの頃の三人なんだろう〜? 宙太さんは長崎直後っぽいけれど、遠慮がちに目を伏せるマサルさん、すでに宙太さんやマサルさんと面識はありそうな右京さん…。
とっても続きが気になります〜!
2010/11/28(日) 午前 6:44
ええ・・?どうなるのでしょうか?未来の星子ちゃんはどうなるでしょうか?登場した右京さんはピアノをひいていた右京さんではないのですよね・・
時空の差の右京さん?でも続きがとっても気になります。前回よりお時間がかかられたのではないかと思います。先生もパラレルのお話考えられるの大変だったと思います。
でもすっごく面白くて続きが気になります。右京さん、登場・・
相変わらずかっこいいですね。女性のあこがれの男性です・・
今でもひかれます・・。ああ・・既婚者なのに・・私・・。
横でねっころがっている旦那さまがクマみたいにみえます・・。
グーグーねてます。どうなるのでしょう?とっても楽しみです。
スマートな男性にひかれる私です。
2010/11/28(日) 午後 2:01 [ アユ ]
こんばんは・・。
あちらの世界の宙太さんたちは、すでに知り合いなのですね〜。
みんな、お仕事つながりの男同士のつながり・・って感じなのでしょうか・・。
色恋はからんでないのかな・・。
これからどんなふうに宙太パパさんの世界とからんでいくのかな。
星子ママは無事に戻ってこられるのかな・・。
心配になっちゃいます・・。
でも、パワレル宙太さんは、初期の頃の宙太さんを彷彿してしまい、なんだかとっても懐かしいです・・。
2010/11/28(日) 午後 7:58 [ ちびすけ ]
先生こんばんは^^
新章スタートはもちろんですが右京先生のご登場を私はずっとずーっと待ちわびていました。ずっと待ってましたああああ!(´;ω;`)
ご登場シーンを読んだ時なんかガチで涙が止まりませんでしたよ°・(ノД`)・°
もうご登場が嬉しくて嬉しくて何を言えばいいか分かりませんが一言。
右京先生、おかえりなさい!本当におかえりなさいませ!!
それにしても新章1回目にて星子シリーズのイイ男御三家がいきなり揃い踏みで萌えすぎてお腹痛いです^q^
2010/11/28(日) 午後 9:03 [ ゆうきあおい ]
これから活気づいてくる売り場です。でも20代前半の方が
来れれるのはとっても嬉しいですね。おかげで私も元気をもらえて
とっても楽しいです。なんだか皆様幸せそうで良い事ですね。
クリスマスはとっても忙しい時期になりますが、(仕事)でも楽しいです。ところで・・ますます目が離せません。右京さん、登場!!
イラスト集見ながら右京さんってステキ・・と思います。
クールな所とか・・。同世代ではいないので不思議・・。もう右京さんの年齢は越したはず・・。多分右京さんは24歳くらいだと思います
一度先生とデートしてみたい・・。ステキな方なのでしょう・・と私の中では想っています。きっときっとステキな方・・。と思います。
これからも楽しみにしています。東京に行きたいですね。
20代後半の現在・・なんだかとても時間が過ぎるのが早いです・・。
いつの間にか右京さんの年齢超えてしまいました。名古屋より
先生へ・・応援メッセージです。次回もとっても楽しみにしています
ドキドキしてしまいます。同世代には全然ドキドキしないのです・・
先生のブログに出会えてとっても嬉しいです。あり
2010/11/29(月) 午後 7:47 [ ラブ ]
ありがとうございます。とっても次回が楽しみです。
でも同世代に右京さんみたいな人がいないなんて・・。
たまたまめぐり合わせが良くないのでしょうか?
大人の恋にあこがれたりします。・・が右京さんみたいな人には
出逢えていないのです。落ち着いた大人の男性・・。
30代後半の方でもいないのです・・。なぜでしょう?
2010/11/29(月) 午後 7:52 [ ラブ ]
旅行帰り間もないですのに、UPありがとうございます(*^_^*)
光の壁越しのいったりきたり。。でも、時空を越えたもの?というよりはお隣の世界?な展開が、30代後半の私にも理解しやすいです〜
夫婦になった二人もまたいいですが、やっぱりであったころの二人と周りの人々の駆け引きが、いいですね〜
私も若かりしころに戻って次回待ってます(*^_^*)
2010/11/29(月) 午後 8:46 [ まりも ]