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「……宙美……いいのか?」
星丸、上ずった声で宙美の耳元に囁いた。
「……うん……」
宙美も、震える声で小さくうなづいた。
「ほんとに、いいんだね?」
「うん、でも……やさしくね……こわいから、あたし……」
「わかってる、やさしくしてあげるよ……」
星丸の指が、かすかに震えながら滑り込んでいく。
宙美のみずみずしいきめ細やかな肌は、ほんのりと赤みがさし、うっすらと汗ばんでいる。
星丸の指は、さらに奥へと這い続け、その動きは次第に大胆になっていった。
「あ、痛いっ……」
「ご、ごめん……」
「ああっ……」
「痛いか? やめようか、やっぱり……」
「ううん、いいの、大丈夫だから……」
宙美の目に、うっすらと涙がにじんだ。
「泣いてるのか?」
「だって、嬉しいんだもん……お兄ちゃんと一つになれるから……」
「宙美」
「お兄ちゃん……あっ、痛い! やっぱり、無理! やめて!」
「す、すまん!」
星丸、あわてて引き抜いた……注射針を……宙美の左腕から。
じつは、宙美が結婚の支度でバテ気味なので、ビタミンを注射してやるつもりだった。でも、医師免許を取ったばかりだし、おまけに、宙美のかもしだす女の香りに、手元が震えてしまったというわけだ。
「んもぅ、ヘタクソなんだから、お兄ちゃん!」
宙美、軽く睨んだ。
「そんなことじゃ、いいお医者様にはなれないから」
「ご心配なく。僕の志望は外科だ。お前のような子供ちゃんを診る気はないから」
「いったなーっ!」
宙美、おどけながら星丸に掴みかかった。
星丸も、おどけながら相手になってやる。
二人の顔から、笑いがこぼれ、まるで、仔犬がじゃれあうようだった。でも、途中から、ふと、星丸の笑顔が消え、宙美の顔からも笑顔が消えた。
「もう、お仕舞いだな、こうやってお前とふざけ合うのも……」
「うん、そうね……」
二人は、吐息をつくと視線を窓の外の夜景に移した。
小さい頃から、よくふざけあったものだった。そうやって、寂しさを紛らわせてきたのかも知れない。
二人で一人。一人で二人。誰よりも仲のいい、兄妹だった。物心ついてからは、それこそ、恋人のような仲の二人だった。
そのせいといおうか、さっき、宙美は「お嫁に行きたくない」と、星丸に泣きすがり、星丸も宙美を抱きしめながら、ふと、キスしたい衝動にかられた。その気持ちはなんとか押さえたものの、そのあとで宙美に注射をしてやろうとした時、再び、妖しい気分になりかけた。宙美も、同じだった。兄と妹の壁を越えた熱いものが今にもあふれ出しそうだった。
でも、それは許されないことだった。絶対に、あってはいけないことだった。
お互い、そのことはよくわかっている。でも、明日、宙美は結婚する。愛する妹は、古賀という男の花嫁になり、まっさらな体を抱かれるのだ。宙美も自分の体を、まだ、誰にも抱かれたことのない体を、古賀に抱かれることになる。
そう思うと、心が引き裂かれそうだ。星丸も宙美も。
せめて、そう、せめて、今夜だけでも抱きしめていたい。
せめて、今夜だけでも抱きしめて欲しい。
「……宙美……」
「……お兄ちゃん……」
二人は、お互いの目を見つめあった。どちらからともなく近づき、抱き合おうとした……その瞬間、だった。
いきなりドアのノブがガチャリと回って、ぬっと長身の白衣姿の男が入ってきた。
「あ、なんだ、いたのかい、宙美さん!」
その男は、古賀だった。
(つづく)
追記 すいません、今夜もお騒がせします。星丸と宙美を許してやって下さい。よろしくです。
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