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――星子パラレル――
❤ママは謎の転校生
プロローグ
<鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?>
この超有名なセリフ、誰がいったのか。ハイ、もちろん、「白雪姫」に登場する魔女王だよね。
万能のはずの魔力をもってしても、叶えられないものがある。それは、自分が最高の美女だという証明書。
人もうらやむ美貌、世界最高の美女、ミスユニバースだって褒められ、ご本人も大いに自尊心と自惚れを満足なさってる、と思いきや、ほんとにわたしはトップ美女? どこかに、もっとステキな美人がいるんじゃないの? トップじゃなくて、わたしは二番、ううん、三番かも。という不安感や猜疑心に悩まされ、夜も眠れず、朝寝も出来ず、悶々の日々。
だから、鏡におのれの姿を写しながら、「鏡よ鏡……」と、日夜、問いかけているわけよね。
恐ろしくて、憎たらしい魔女王だけど、どこか、女心の哀れさ、悲しさ、そして、愚かさを見せてくれている。
でも、ワタクシ、星子は違いましてよ。自慢じゃないけど、はなっから、美貌って言葉には縁がない。キュートだとか、カワイイとか、愛くるしいとか、イチゴみたいとか、リスさんとかウサギさんのようだとか、いろいろといわれている。あ、中には金魚なんていうヤツもいるけどね。
でも、美人とかセクシーとか、楊貴妃だクレオパトラだ、と、男どもからうっとり目で見られたことは、ない……ほとんど、かな……そう、いわせて。
でもいい、十分よ、身の丈が一番デス、と、自分にいって聞かせている。負け惜しみ、かいな。とほほっ。
でも、でもですよ、絶対にあきらめられないものがある。それは、ううっ、口にするのもつらい言葉、でも、いわざるを得ない。
……わ、若さ……、デス。
<鏡よ鏡、この世で一番若いのは誰?>
なんてセリフ、いうわけないよね。きわめて個人的なことだし。つまり、ワタクシ星子が一番輝いていた時。精神的にもだけど、何よりも肉体的によ。
手っ取り早くいえば、お肌がすべすべ、ぷりぷり、つやつや。皺なし、たるみなし、クマなし。
だったら、赤ん坊の頃?
たわけが! 女として一番輝くのは、思春期、ティーンの頃と相場がきまっとるだろうが。
みずみずしい肌、くびれたボディ、開花したばかりの花のような清楚な色気がお肌とボディからにじみ出て、香しい薫りを放つ。お化粧の必要なんかまったくない、すっぴんのままで、世界が薔薇色に染まる。
ティーンの頃の星子がそうだった。そして、今、宙美がティーン真っ盛りの人生を謳歌しようとしている。
そういえば、宙美、ティーン時代の星子によく似ている。体格は当時の星子のほうが少しぽっちゃりしていたかも知れないけど、顔はほぼ瓜二つ。
ほら、よくいるじゃない。母娘で姉妹ペアとかいうやつ。わたしも、宙美と一緒に街を歩けば、ご姉妹ですか、なんていわれちゃって、あーら、奥様、お目が高い、オホホノホッ。
アホかいな。このボケ。どこが姉妹なんじゃ。
鏡をよくご覧。目尻の皺、張り、頬や顎のたるみ、首周りの肉づき、髪の艶、唇のふくらみ、爪の色や形、そして、なによりもバスト、ウエスト、ヒップ。一々、具体的にはいわないけど、どこが宙美とそっくりなのさ。
日夜怠りないお化粧、ダイエット、ジョギング、サブリメントの衝動買い、美肌術、その他、若さを保つために、我ながら涙ぐましい努力を重ねてまいりました。
その甲斐あってか、マイダーリン、我が最愛の夫である宙太さんから、
「綺麗だ、すっごく、セクシー、とろけるぜ、ハニィ」
って、褒めていただき、たっぷりと愛されてまいりました。
でも、でもです、宙太さん、決して「若いな、ハニィ、ティーンの頃とそっくりだ」とは、いってくれない。
そう、若くはなれないの、どんなに手を尽くしても。
え? いいじゃないの、年相応でいればって? 双子の高校生の母親らしく、アラサーの、あ、ほんとはアラフォーかもしれないけど、気分はせめてアラサー・ママの星子さんでいればって?
たしかにね。いくらわめいても、いくら泣いても、どうにもならない。わかってます、わたしだって。
ティーンの頃、いい恋さがして一人旅したこと。旅先で出会ったナイスガイの宙太さんやマサルさん、春ちゃん、右京さん、左京さん、小次郎くん、ゲンジロウさん、タケルさん、そして、圭一さん……みんな、ほんとにステキで楽しい人達だった。近頃は、付き合っているのは春ちゃんぐらい。他の人達とは、滅多に会わなくなってしまった。
今となっては、過ぎ去った夢のような想い出……。
あきらめよう、あきらめてアラサー・ママ人生を送ろう。
そう自分にいい聞かせて、溜息まじりに外出の支度を始める、わたくし、星子ママ。
出かける先は、双子ちゃんの通う学園の父母会、つまり、PTAの総会だ。それも、付属中学と付属高校の合同とくる。
そりゃ、ま、双子ちゃんは中学生の時から学園でお世話になってるし、現在、高校二年生という大事な時期だし、父母会に出席するのは当然よね。でも、一つだけ気に食わないことがある。それは、父母会の新会長に、こともあろうにですよ、あのリツ子が就任したってこと。
そうなの、リツ子が父母会会長なんですっ。
なんでか。
そもそも、リツ子の父上は学園財団の大株主で、リツ子の旦那は理事長の御曹司。生まれた一人娘は、現在中学一年生。これが母親に輪をかけた小生意気な娘なんだって。ま、そんなこともあって、リツ子、中高合同父母会の会長に選ばれた。かなり、お金を使ったっていう噂もあるけどね。
ああ、やだやだ、いきたくない。リツ子の女王様気取りの顔を、この歳になって、あらためて見たくない。わたしの高校の時でこりごりだったのに、またかよっ。もう、たくさんだーっ。でも、可愛い我が子のためには、サボるわけにもいかないしね。下手に逆らうと、どんなしっぺ返しを食らうかわからないし。底意地悪いから、リツ子って。宙太さんを私に取られたっていう被害妄想、今もトラウマになってるかも知れないし。
世にいう、女の嫉妬ほどこわいものはない。
おそろしやぁ。
ということで、わたくし、星子、身支度を整えることに。ほんとは、おしゃれ着に華やかなお化粧して、颯爽とリツ子の前にデビューしてやりたいけど、他の父母たちに白い目で見られるかもね。なんせ、都内でも屈指のエリート校として伝統のある学園で、父母会は黒のスーツという定番が出来上がっている。
これが、いまどきの私立校なら、華やかなブランド・スーツとか、ブランド小物とか、ファッションセンスたっぷりのママ達にお目にかかれるけど。
仕方ない、地味な黒のスーツに白のブラウス、黒のバッグという目立たない格好でいきますか。せめて、ネックレスとかで差別化しますか。
タンスの引き出しを開けて、あれこれ選んでいると、奥のほうから薄緑色の宝石エメラルドをあしらった真珠のネックレスが見つかった。少し古ぼけた感じで、デザインも地味だし、高級感はない。エメラルドも色がくすんでいた。
星子、どちらかというと、ネックレスは水晶とか金属系が好きで、エメラルド系には縁がない。じゃ、なぜ、引き出しに入っているのかというと、
そう、春之介がくれたからだ。
「このネックレス、ただのネックレスじゃないの。永遠の若さを保てるのよ」
あの時、春之介、そういった。「その秘密はね、この宝石にあるの。あの有名な美女クレオパトラが愛したエメラルドなのよ」
クレオパトラ、が?
「そうよ、大昔からエメラルドは不老不死、永遠に若さと美しさを保つ力が秘められた宝石として知られていたの。クレオパトラはエメラルドの魔力にとりつかれて、自分専用のエメラルド鉱山まで持っていたそうよ。このネックレスのエメラルドは、当時、クレオパトラが身につけていたものの一つなの」
ほんと、かしら。
「その証拠は、このあたしよ」
春之介、自信たっぷりにポーズを作って見せた。
たしかに、春之介って、肌はティーンのようにみずみずしく、すべすべしていて、顔にも小皺とか、頬のたるみとかもない。星子よりも年上のはずなのに、肌はずっと若かった。
「あたし、星子ちゃんにも、いつまでも若くて綺麗でいて欲しいの。だから、このネックレスを使って。プレゼントするから」
でも、春ちゃんはどうするの?
「ご心配なく」
春之介、艶然と微笑んだ。「あたしには、魔法のドリンクがあるしぃ」
なに、それ?
「やだぁ、いわせるわけ? 結婚したおかげで、毎日、いただけるの」
け、結婚? 春ちゃんが?
「そうよ、お相手は年下の可愛い男の子」
え? だれ?
「星子ちゃんが、よく知ってる子よ」
名前は?
「それは、ヒミツ。ないしょ」
(5000字を超えたので、プロローグ2へ)
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