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「あなたって、美し過ぎるドラちゃんね」
フニァーゴ、ゴロゴロだぜ、もう。
もちろん、そこいらの猫共にいわれたら、オレ、ただじゃおかない。だってよ、からかわれているのは確実だからさ。自分でいうのもなんだが、オレ様の風体はタヌキとパンダを足して二で割り、カガワのシュートをまともにくらったような壊れ顔だ。
せめて性格が良ければとか、メス猫にやたらやさしいとか、ルックス以外でいい所があれば話は別だ。でも、どちらにもおよそ縁がない。
となりゃ、モテナイことは必然だぜ。俺だって、とっくにラブロマンスの世界はあきらめている。
でもな、今回は違った。「美し過ぎる……」といってくれたのは、キティちゃんのように可愛いメス猫ちゃんなんだ。俺をじっと見つめるつぶらな瞳には嘘や嘲笑、からかいはない。
あ、名前はエンゼル。向かいのマンションの五階に住む、ラグドール系、そう、「ぬいぐるみ」って呼ばれる高級猫ちゃんだ。ほんともう、エンゼルという名前にふさわしいキュートで可愛い奴なんだ。
そのエンゼルが、窓ガラス越しに俺を見つめながら、「あなたって、美し過ぎるドラちゃんね」といった。わが家から通り一つ隔てているが、猫族は鼻髭がアンテナ代わりなのだ。これ、ホント?
ま、とにかく、はじめは、まとには信じられなかった。俺のコンプレックスは、そう簡単には解消しないしな。でも、エンゼルは俺のルックスのことをいったんじゃなかった。
「ハートなの」と、エンゼルはうっとりとした瞳で俺を見つめた。
「あなたのハートが美し過ぎるのよ」
「ん!」
なんのこっちゃ。首をかしげたオレに、
「あなたは、この町一番の騎士猫、悪には強く、情には弱い。正義のためなら、そして、愛のためなら命も捨てる。そんなうわさを聞いたけど」
エンゼルの瞳は、ますますうるんできた。
「あ、うん、まぁな」
ゴンベエは、鼻毛をぴんと立てた。たしかに、この町にノサバっていたワル猫グループを叩きのめし、この町の猫社会に平和と安心をもたらしたことは確かだ。もっとも、本音をいえば、大好物のハンバーガーをたらふく食わせてくれるというご褒美があったからだが。
「そんなあなたのハートこそ、女にとっては一番ステキなことなのよ。男の美しさは、見てくれじゃない、ハートよ。燃えるような熱いハート、美し過ぎるわ」
エンゼルは、とろけるような眼でゴンベエを見つめた。
ううっ、もう、たまらんのぅ。
ゴンベエの鼻毛は、もう、ビンビンだ。
すると、エンゼルが、「ねぇ、ゴンベエさま、その熱くて美しい騎士猫のハートで、あたしを助けてくれないかしら」
と、いった。
「助ける? どういうことだ?」
「じつはね、あたし、もうじき、結婚させられるの」
「結婚?」
「あいては、凄くいやな奴。血統を鼻にかけて、高慢ちきでサイテイ。でも、ご主人はね、お金儲けのためにあたしに子猫を産ませて売るつもりなのよ」
「な、なんと……」
血統のいい猫には、よくあることだ。
「でも、あたしはいやよ。結婚するなら、あなたのようなハートが美し過ぎる相手と……」
「うぐっ」
「ね、ゴンベエさん、あたし、あなたの赤ちゃんが欲しい」
「あ、う、うぎゃっ」
ゴンベエの体じゅうの血が沸騰して、蒸気がパッと噴き出した。
追記 本日は、ここまで。でも、ゴンベエくんよ、可愛い子ちゃんの甘い言葉には気をつけなされよ。宙太くんが一番よくわかってるぞ。なんて、ほんとは誰かさんでしょ。
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