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「ジュリエット、どこにいる……ああ、ジュリエット!」
僕は、ロメオ。今、舞台で「ロメオとジュリエット」を演じている。
生臭い人間社会を切り刻むような弁護士稼業に、僕は心身ともに疲れ果て、見失った自分の姿を追い求めるように舞台に立った。
学生時代、演劇部に籍を置いたことがあるが、その頃の仲間がぼろきれのような姿の僕を見て、もう一度、舞台に立ってみろと誘ってくれたのだった。
でも、僕が追い求めているのは、見失った自分の姿だけじゃない。もっと大事なもの、愛しい人の姿、かげろうのような愛の面影。
――星子さん……。
僕は、ジュリエットの名前を舞台で呼びながら、そっと心の中で星子さんの名前を重ねている。
熱い思いをぶつけることも出来ずに、離れていった僕の心。恋の業火に焼かれることを恐れ、あえて冷静を装い、離れた僕だった。
――どこだ、どこにいるんだ、星子さん……。
スポットライトを浴びる舞台から見る観客席は、ほとんど暗闇の世界だ。客席を埋めた観客の姿も、その闇の中に沈んでいる。
でも、僕には見える。その観客の中に星子さんの姿がおぼろげに浮かび上がる。もちろん、幻影かもしれないが、たしかに星子さんだ。
恋する人に見つめられながら、芝居を演じる。これ程の喜び、高揚感があるだろうか。
ジュリエットの名前を君の名前に重ね、ジュリエットの魂を君の魂に重ねる。
天界の光りを浴びながら、君としとねを共にして、やさしく添い寝をする。そんな気持ちにしてくれる。
そう、星子さん、君に添い寝をしてみたい。ただ、そっと体を合わせて、身じろぎもしないで、何日も何日もねていたい。
恋に冥界があるのなら、一緒に旅立とう。この芝居が終わったら、一緒に旅立とう。
待っていてくれ、星子さん。
――星子さん……。
追記 右京じゃないが、舞台で芝居をする時、僕は観客席に恋人の姿を追い求める。もちろん、本物の恋人じゃない。片想いの人、あるいは幻影の恋人かもしれない。
疑似恋愛。そういってしまえば、それこそ身も蓋もないだろうが、恋は演じる者の心を高揚させる。ものを書く時にも、疑似恋愛が似たような高揚感を与えてくれるが、舞台のほうがもっよ強いような気がする。いや、演じること自体が、演者を疑似愛へと誘うのだろうか。
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