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「すいません、警部、僕は死ぬために生まれてきたんです」
これが、見習い刑事クンの赴任のご挨拶。いきなり「死ぬために生まれた」は、ないよね、それも、上司のワタクシ、つまり美空宙太警部に向かってだぜ。
普通だったら、配属された部署の上司に対して、
「正義のために、粉骨砕身、頑張ります!」とか、「諸先輩のご指導を仰ぎながら、職務をまっとうします!」とか、ちょっとは気のきいたことをいうよね。
あ、ボクチャンの場合は、
「首都のカワイ子チャンを、命がけで守ります!」なんて、ひと言、余計なせりふをいっちゃったけどさ。あふっ。
おっと、新入りの話だっけ。そいつが辛気臭いのはセリフだけじゃない、氏名もだ。
一命かげろう。22歳。
苗字が一命で、名前がかげろう。まるで、一つの命が昆虫のかげろうのように、はたまた、気象現象の陽炎(かげろう)のように、はかなく短命であるとも読める。
そうそう、ルックスだって、まるでもう、かげろうそのもの。190センチ近いスリムな体に襟を立てたコートを引っかけ、長髪、無精髭、やせ細った青白い顔色、悲しみをたたえた切れ長の双眸、およそ、いかつい刑事のイメージとはかけ離れた、病弱な若き芸術家といった雰囲気を漂わせている。マサル刑事やタケル刑事をはじめとする星子ファミリーの男衆とはまるで違うタイプだ。
いや、事実、この見習いデカくん、初仕事の時から、かげろうの命を証明するような真似をしでかした。
三人組の拳銃強盗を埠頭に追いこんだのはいいが、相手は抵抗、激しい銃撃戦となった。まるでもう、ギャング映画の世界。修羅場をいくつもくぐり抜けてきたオレやクール刑事のマサル君、無頼派刑事のタケル君でさえ、ちょっとビビるぐらいだ。当然だが、オレはかげろうクンに後方に下がっていろと指示した。
ところがですよ、なんと、かげろうクンは拳銃強盗達がひそむ資材置き場に向かって、とぼとぼと歩きだしたじゃないですか。
はじめは、恐怖でアタマがどうかしたのかと思った。でも、カレの足取りは重くて力がなく、肩を落とし、項垂れて、まるで失恋した若者が埠頭にさまよいこんだように見える。
「おい、戻れ!」
「かげろう君!」
「戻るんだ!」
オレもマサル刑事、それにタケル刑事も、あわてて声をかけた。でも、かげろうクンは聞こえないのか、そのまま、歩いていく。
はじめは唖然としていた強盗達も、我に帰ったように銃口をかげろうクンに向けて引き金を引いた。
「やられた!」と、思った。
ところが、なんと、かげろうクンの足取りはまったく変わらない。さらに数発の弾丸が発射されて、かげろうクンの耳元をかすめ、長い髪が数本千切れて舞った。それでも、ひるまない。相変わらず肩を落とし、少しうなだれたまま、強盗達の方へ近づいていく。
怖気づいたのは、強盗達だ。顔を引きつらせ、なにやらわめきながら逃げ出した。すかさず、後を追ったマサル刑事とタケル刑事が鮮やかな射撃で強盗達の拳銃をふっ飛ばし、猛タックルでとびかかると、あっという間に押さえ込んで手錠を叩きこんだ。
「バカヤロ! どういうつもりだ!」
「死にたいのか、貴様ァ!」
さすがにアタマにきたのか、マサル刑事とタケル刑事が声を荒げながら詰め寄った。
ま、当然だよね。オレだって、ぶん殴りたかったくらいだし。
ところが、かげろうクン、謝るどころか、こういった。
「良かったんです、死んでも」
「なにぃ!」
これには、オレ達も口をあんぐりだ。
「お、お前、自殺願望なのか?」
そういえば、自殺願望の刑事が主役の映画があったっけ。
「いえ、違います」と、かげろうクンは細長い首を振り、静かな声で答えた。
「僕は、死ぬために生まれたんです。だから、死ぬのは怖くありません」
「!……し、死ぬために生まれた……」
「はい、そういうことです」
かげろうクンは、ちょっと悲しそうに目を瞬いた。
「ずいぶん、ひねくれてること。性格ワリイよ、おたく」
「おい」
オレは、タケル刑事をたしなめながら聞いた。
「なにか、つらいことでもあったのか?」
「……」
「ヒントだけでもくれよ、これでも上司だし」
「……はい……」
かげろうクンは、ちょっとためらったあとでいった。「僕、相手の人を不幸にしてしまうんです……」
「不幸に? 相手って?」
「女の人です……」
「女?」
「僕が好きになった人、僕を好きになった人は、みんな……自殺とか、事故とか、重い病気とか……亡くなってしまって……」
「えっ」
「運命の星っていいますよね。きっと、僕はそんな星を背負わされて生まれてきたんです。だったら、早く死んだ方がいい、これ以上、不幸な女の人を作らないためにも……でも、自殺はいやです。死神とやらを喜ばすだけです。どうせ死ぬのなら、人の手にかかって死にたい、そう思ってます……」
かげろうクンは、唇を噛みしめると、オレを見つめた。
澄んだ深い双眸には、うっすらと潤んでいる。一瞬、吸い込まれそうな気分になり、ふいに、息苦しくなった。
……な、なんだ、どうしたんだ……。
息苦しくなって目線をはずすと、かげろうクンは中心を折り曲げるようにして一礼すると、コートを翻すように立ち去った。
その後ろ姿は、どこか、かげろうのように儚く、今にも壊れそうに見えた。
「やれやれ、面倒な新入りだ。でも、ウソじゃなさそうだぜ」
マサル刑事が、ぼそっといった。
「うん、可哀想な奴だ。女を愛せない、女から愛されない、とはな」
そうつぶやくタケル刑事に、オレはうなづきながらいった。
「とにかく、ま、カレを好きになったり、カレが恋する女の子が出来ないように祈りますか」
「そういうこと」
「だけどさ、あいつ、すんげぇいい男じゃん。さすがのオレ様もシャッポを脱ぐぜ」と、タケル刑事、ニヤリ。
「それにさ、俺らの近くには男に愛される一方で、かなり惚れっぽい性格の女の子がいるぜ」
「ん? 誰だい?」
「きまってるだろ、ほら!」と、また、ニタリ。
「ま、まさか、せ、星子さん?」
「そういうこと」
「いえてるね」と、納得顔のマサル刑事。
うはっ、そういえばそうだ。星子さんは男にもてるし、男に惚れっぽい。そして、かげろうクンはあの通りのワケありの美形だ。もし、かげろうクンに会ったりしたら、きっと、お互いに……。
「あ、いや、大丈夫さ、星子さんに限って、そんな……」
オレは、強く首を振った「ハニィは、オレのフィアンセだしさ。相思相愛の仲じゃん、ハハッ。
そう、星子さんはオレのフィアンセ、ちょっと前に婚約したばかりだ。
「だけどさ、色気に勝てるかな」
と、タケル刑事がいった。
「色気?」
「あいつには、男の色気ってもんがあるぜ。それも、ゾッとくるような冷たい色気がな」
「……死神の色気か……」
マサル刑事も、つぶやいた。
「!……し、死神の色気……」
あんなモヤシみたいなひょろひょろの、いつも伏し目がちのひ弱そうな、およそデカらしくない男に、死神なんてフレーズは不似合い……いんや、待てよ。
確かに、それはいえてるかも。さっき、オレがかげろうクンと目があった時に感じた悪寒のようなもの、昏い光り、吸い込まれそうな感覚、あれは色気だ、死神の色気……女達を不幸にする恐ろしい恋する死神の色気……。
ヤバイ、ヤバイですよ。星子さんがはたして耐えられるかどうか。
まったく、もう、とんだ見習いの部下が配属されたものだ。
どうする、どうする、宙太!
追記1 久しぶりの新キャラです。気に入って頂けるかどうか。機会があれば、遊んでみます。お話の設定としては、星子と宙太のフィアンセ時代にするつもりです。もしかしたら、星子さん、別の人生を歩むことになるかもね。作者の願望だったりして。それにしても、ほんとに寒い一日でしたね。まいりました。
追記2 僕が所属する川崎市民劇団「劇団わが町」の6月本公演「わが町しんゆり」のチケットが、19日(金)から発売されました。3月の試演会には星子ファンの皆様にも来て頂き、食事会やら劇場でのハグ会?やら、大盛り上がりでした。本公演もよろしくお願いします。念のため、スケジュールをお知らせしておきます。
6月14日・(金・夜公演)、15日(土・昼、夜)、16日(日・昼、 夜)計5回公演。
チケット取扱い 川崎市アートセンター 044-959-2255
お早めにご予約下さいとのことです。
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先生こんばんは(^^)久しぶりに書き込みします。
一命かげろう刑事、魅力的な新キャラです。
誰もが死ぬために生きているんでしょうか。
星子さんと出会ったらどうなるのか…宙太さんだけでなく私も心配です(^-^;
続きを楽しみにしています!
今日も寒かったです。少し前は春の陽気でアゲハが羽化してしまったのに…。
体調にはお気をつけて!
2013/4/22(月) 午前 0:43 [ こっきー ]
こんばんは^^チケットの予約して次こそ行きます〜〜〜!
かげろうさんと星子さんの絡みが気になりますね^^
続きが楽しみですvvv
2013/4/24(水) 午後 11:50 [ 香林 ]
陽炎のように先生の側に居たいです(´▽`*)
山浦先生が出演する舞台も是非見に行けたらと思っています(^-^)
2013/4/27(土) 午前 8:34 [ えみ ]