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「ええーっ、マジっすか―ぁ!」
特命捜査班室・薔薇組のソファで仮眠をとっていた小次郎が、尻尾を踏みつけられたスピッツのように飛び上がった。「コ、コロシの容疑者がうちらの班に?」
「そ、そんなぁ!」
負けじと、跳び上がったのは春之介だ。食べかけのカップラーメンを危うくこぼしかけて、どうにか真っ赤なルージュのお口におさめた。「からかわないで、もう、宙太さんたらぁ」
お二人とも、徹夜の捜査明けは、いつもなら寝ぼけ顔で不機嫌そのもの。なんせ、オシャレ命のお二人さんだからして。でも、今朝だけは、いっぺんにお目覚めだった。
「ほんと、冗談きついとはこのこと、っていいたいけどさ」
宙太、欠伸を噛み殺しながら、コーヒーを飲みほした。結局、昨夜は一睡も出来じまい。それもこれも、原因はあの日影蜻蛉という男のせいだ。
なんせ、殺しの容疑者として、ひそかに行方を追っていた男が、こともあろうにですよ、自分の部下として特命捜査班に配属された刑事だったなんて。その事実関係を調べることで、一晩中かかってしまったってわけ。
そうそう、この特命捜査班というのは、警視総監の直属のいわば隠密組織でしてね、かた苦しい法律や警察組織にとらわれない、自由でカゲキで或る程度の暴走はオーケーという番外捜査班というわけ。近頃の犯罪には、型通りの捜査では手にあまる事件がよくあるじゃないですか、そういう事件の捜査にふさわしい型破りな刑事達が集められた。
組織には薔薇組と百合組の二つのチームがあり、薔薇組のチーフは宙太、百合組のチーフは十文字右京警部。薔薇組とか百合組とか、なんだかオフザケっぽいが、名づけ親の警視総監のお嬢様が大のタカラズカ・ファンとか。一人娘に弱いというか、ほら、俗にいう目に入れても痛くないってヤツ、のせいだとか。
ちなみに、薔薇組は宙太のもとに、マサル、小次郎、そして、春之介。
百合組のほうは、右京のもとに、左京、タケル、圭一、そして、ゲンジロウ。
そのうち、薔薇組のほうに一人欠員が出たので、蜻蛉が補充メンバーとして配属されたらしい。
「んで、その日影蜻蛉ってヤツ、どこ出身なの?」
春之介が聞くと、宙太、
「それがさ、来日する外国の高官警護を担当するSPだったそうだぜ」
「ひゃーっ、エリートじゃん」
と、小次郎が肩をすくめた。「ならば、たっぷりとイビってやりますかね」
「でもさ、それって、ほんと?」
春之介、二つ目のカップラーメンに手をのばしながらいった。「うちらが手に入れたネタじゃ、日影蜻蛉はホストちゃんをやってるって……」
そうなんです、蜻蛉が容疑をかけられた殺人事件というのは、ホストクラブに出入りする女達が六人も殺されたっていう事件だ。事件は東京だけでなくて、札幌、仙台、名古屋、大阪、博多と、全国規模で起きている。だから、縄張り関係なしに動ける特命捜査班のうち薔薇組が出動したのだった。
そして、捜査線上に浮かび上がったのが、日影蜻蛉だ。事件当時、どの店でも、蜻蛉がホストとして働いていて、殺されたのは、すべて、蜻蛉をひいきにして多額のお金をつぎ込んでいた女達だった。そして、事件後、蜻蛉は行く先も告げずに姿をくらましていた。
「ね、警部」
マサルが、コーヒーを作りながらいった。
「やっぱ、容疑者のホスト日影蜻蛉とSPの日影蜻蛉は同一人物ですよ。出勤してきたら、逮捕しましょう!」
「そう、それが一番」と、小次郎。
「あ、だったら、あたしにワッパ(手錠)をかけさせて。そんなにいいオトコなら、ぜひ、この手でギュッと……」
「ちょっと、そっちはナシなし」
苦笑いの、宙太だ。
なんせ、春之介は美形に弱い。昨夜の初対面では、宙太でさえポーっと催眠術にかかったような気分だったし、春之介はなおさらだ。
「でもさ、美形に弱いっていえば、春ちゃんをはるかにしのぐ女の子がいるじゃんか」
小次郎が、ニタリと笑った。
「女の子って?」と、宙太。
「きまってるだろ、警視総監の御令嬢……」
「あ、星子さんのことか!」
宙太、頭に手をやった。「ヤバ!」
「あ! うわさをすれば、なんとかよ!」
春之介が、声を上ずらせた。
「ハーイ、皆様、お早うございまーす!」
はじけるような明るい声で挨拶しながらとびこんできた、キュートな女の子。流警視総監の一人娘・流星子その人だった。
(つづく)
追記 星子ちゃん、なんと、警視総監の御令嬢として登場です! 宙太の薔薇組と右京の百合組、そして、謎起き貴公子・蜻蛉クン。なんか、波乱万丈の展開になりそう。よろしくです!
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星子ちゃんが加わって、これからドキドキの展開が楽しみですー♪
2013/11/21(木) 午後 6:00